第200話 呼び出しの訳

 今回の王都にはいつものメンバーの他にゼブラにバトラーさんは今言ったが、当然俺の秘書役にとエリーさんも同行するが、今回ばかりは王都でのことでもあるというので、娼館を見ていたサリーさんまでもがついてくることになった。


 サリーさんは先の王都行でもパワーレベリングを経験しているので、エリーさんと楽しそうにしていた。

 そういえばエリーさんはまだ経験が無かったはずなのだが、なんでもシーボーギウムでのメイドたちへの訓練を知っていたようで興味があったようだ。


 シーボーギウムはとにかく忙しくてお姉さん方にはそういう訓練はできなかったと少し反省中だ。


 今回の王都への移動については、何度も言ったように普通じゃない。

 道なき道を進むと言えば格好が良いのだが、俺たちからしたらいつものごとくだが、森の中を魔物を狩りながら歩いて進む。

 年配のバトラーさんが今回は一緒だということもあって、すぐに海に出てから、海性魔物をバトラーさんと一緒に何度も狩っていく。

 それと同時に普段は一緒にいない二人のお姉さん方も同じようにパワーレベリングをしていった。


 当然の結果になるが、バトラーさんとお姉さん方は現在ダウン中だということで、俺たちは浜で野営をすることにした。


 ここからだと、モリブデンに戻っても大した距離ではないが、王都までこんな感じになることなので、慣れてもらう意味でも海に近いこの浜で野営の準備をしていく。

 サーシャたちは慣れたもので、すぐに自分たちのテントの準備を終えて、真新しいバトラーさんたちのテントを次々に作っていく。


「ご領主様。

 すみません。

 私が足手まといになりまして」


「いえ、気になさらずにいてください、バトラーさん。

 それに、今回は私たちも少し張り切りすぎまして経験のあるはずのお姉さん方の二人ともダウンしておりますから」


「それは……」


「ええ、これは急にレベルを上げたことによるレベル酔いとか言われていたはずだと思うのだが、そんな感じの現象ですので、誰でもが経験する事でしょう……あ、魔物を狩って急にレベルが上がったことのある人限定ですから、主に冒険者に多くいるとか。

 それも、大物を運良く狩れた者たち限定だと、聞いたことがあったかな」


「でしたら、珍しい現象なのでしょうね」


「そう言われればそうなりますか……ですが、私は割とよくこの現象を見ていますからね」


 俺はそう言って、領地の森でのパワーレベリングをしてダウンしている連中を思い出す。

 うちのメイドたちはほぼ全員が経験済だ。

 と言うことで、早々と野営したものだから、俺とダーナやサーシャはいつものお楽しみを始めている。

 今日はとにかく時間があるので、二人とも大喜びなのに、サリーさんとエリーさんだけは浮かぬ顔だ。

 というのも、自分たちも混ざりたかったようだが、調子が悪く同じテントにいるのにただ見ているだけになっていた。


「なんだか悔しいわね、エリー」


「そうね、私はあのパワーレベリングの経験があるはずなのに、でも、これは今だけのことだから、明日は私たちも交じるわよ、サリー」


 エリーさんが何だかとんでもないことを言ったようだが、その予言通り翌日以降は年配のバトラーさんまでもがレベルが上がったために、月明かりがあるうちはどんどん森の中を進んでいき、予定した通り王都まで4日で着いた。


 初日の遅れを簡単に取り戻したかのような旅程となった。

 当然、休む時間は短くはなるが、それでも女性たちは許してはくれなかったので、正直俺の方が少し寝不足気味でもある。


 夕方王都に着くと俺たちはそのまま王都の店に向かう。

 店は夕方の繁忙時間ではあったが店長がすぐに俺たちに気づき奥で迎えてくれた。


「おかえりなさいませ、ご主人様。

 今回は同行するメンバーを聞いておりましたので、ご到着はあと数日後かと思っておりました」


「ああ、途中というかほとんどモリブデンのそばでパワーレベリングをしたからその時間だけかな、余計にかかったのは。

 後はいつものルートで来たからかな」


「そうでしたか。

 それで……」


「ああ、すぐにでも情報を整理したいが、明日朝にでも伯爵邸に使いを出してくれないかな」


「すぐにご訪問される訳ですね」


「ああ、その方がよさそうだしな」


「ええ、レイ様の言われる通り、とにかく初動は急いだほうがよさそうですね」


「ええ、何でもお隣の貴族が動いているようですしね」


「え?

 なにそれ?

 俺聞いていないよ」


「ええ、私もモリブデンに残る者や、王都の知人に手紙で話を聞いただけですが」


「エリー様、それにサリー様の言われる通り、どうも相当きな臭くなっているようですよ。

 私たちにはお二方のような貴族につながる知人はおりませんが、お店に来てくださるご令嬢などのうわさ話からそのあたりの情報を得ております。

 なんでも……」


 店長のカトリーヌは店の客を通して情報を集めていたようだ。

 今回の場合、敵側にあたる侯爵派閥に属する子爵の令嬢から直接話を聞いたとのことだが、シーボーギウムから早々に逃げ出した領地一番の商店主が、同じように逃げ出した商店主を集めて隣の領地で、その地の領主を取り込んで動いているらしく、商い上で利用していた村長も仲間に引き入れたらしいと教えてくれた。


「それって、どういうことなのかな」


「どうも最近、勢いが出始めたシーボーギウムに以前のような権勢をもって戻りたいらしく、ご主人様の排除を考えているとか」


「俺の排除だと……そんなことできるものなのかな」


「無理ですね」


「そんなの誰が考えてもできるはずないわよ」


 サリーさんがズバリ切り捨てたかと思ったら、エリーさんまでもが同じようなことを言い始めた。


「この国の上流階級に詳しいお姉さん方もそろえて無理だと言っているけど、本当に俺の排除ってできるものなのかな」


「ええ、普通の方法では無理そうなのですが、領地経営の不備などをついて陛下に上奏するらしく」


「領地経営って、あそこまで壊滅的な領地の立て直しって、普通ならすぐにでもできるものなのかな、この国では」


 すると今度はバトラーさんまでもが口を挟んできた。


「いえ、ご主人様。

 王都の貴族様方がシーボーギウムの状況に詳しくは無いでしょうが、領地そのものが治めていた貴族から取り上げたのですから、どんなに急いでも5年……ふつうならば10年は国に税の免除を願い出ることになりますね。

 復興まで考えるのならば……良くて15年、いや20年で復興できれば御の字でしょうか」


 手仕舞いって、なんだよって言いたかったが、エリーさんが言うには俺に領地を下賜したのが、その手仕舞いのためだとか。


 俺に被害を最小限に抑えてもらい、後は領地をいったん潰して、開拓村辺りから始めてもらおうと考えていたようだ。


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