第30話 オークション会場
俺は、ナーシャを連れて今度は商人ギルドに向かい、商売の種を探す。
窓口で、あの銀色のギルド証を示してから色々と話をしてみた。
流石に、商業ギルドは冒険者ギルドとは違い、個別ブースのようなものが沢山あり、着席しての話になった。
個別ブースで、まずは塩について相談を始めた。
結論から言うと、冒険者ギルドと何ら変わりなく一樽で金貨2枚、それ以上にはならなかった。
しかも、いきなり街中での取引はやんわりとだが止められた。
塩業者の横のつながりは結構強いようで、しかも王都の商業ギルドにおいて一定程度の発言力まであるから、トラブルに成り兼ねないというのだ。
塩でそうなら香辛料はどうかと、コショウについて聞いてみると、こちらの方は元々が高額商品ではあるが、扱い量が少なく、ここギルドでも一樽で金貨5枚は出せるという。
相場にもよるが、コショウについては金額が変わるようだが、それでも金貨4枚を下回ることは無く、もし王都に運べさえすれば売り先を考えずにギルドに卸すだけでも結構いい商売になりそうだ。
尤も塩なら海からどうにかできそうだが、コショウについては全くのノーアイデアで、今ある分しか捌さばけそうにない。
コショウについては売り先が見つかれば勝手に捌いても早々問題にはならないだろうが、それでも街中でいきなりの商売だけはやめてくれと言われた。
役人が来て取り上げられるのがおちだそうだ。
俺はギルドに加盟しているから捕まりはしないだろうが、只の冒険者なら最悪捕まることもあるという。
商売するにも結構危ない橋を渡らないといけないのか。
その後は、馬車を借りれそうな店を紹介してもらい、紹介された店に向かう。
馬車を貸し出してくれる店と云うのは、繁華街から外れた小さな牧場を持つ馬商人の店だった。
王都城内から出さなければ一日で銀貨50枚と言われて少し躊躇したが、流石に手押し車を借りるのとはわけが違いかなりお高めだ。
だが、今日頼んでも、直ぐに貸し出してくれるというので、馬車を馬ごと借りて、繁華街に戻った。
途中、人気の無いことを確認してから塩の詰まった樽を2つと、コショウの詰まった樽を5つ取り出して馬車に積んだ。
そのまま、塩と胡椒を商業ギルドに運んで、全てを売った。
金貨5枚だと言われたが、塩も併せて金貨30枚で引き取ってくれた。
あの時の話は足元を見ての話なのか、それともまとめて持ってきたことで、色を付けてくれたのかは分からないが、ギルドの主任という方が出てきて処理してくれたことを見ると色を付けてくれたのだろう。
多分だが、それでもギルドの儲けは相当なものになるのだろうな。
でないと、ああも簡単に色を付けて引き取れるはずがない。
まあ、一々売り先を探す手間が省けた分だけ、と云うよりも盗賊に盗まれたのを俺が頂いたので、元手が掛かっていない分丸儲けだ。
たとえギルドが倍以上に儲けようとも俺は構わない。
だが、本当に倍以上儲けていることを知れば相当悔しい思いをするのかもしれない。
うん、これ以上は塩コショウの相場を調べるのはやめよう。
翌日、無事に昼過ぎドースンさんと彼の店の前で合流ができた。
その後は彼の馬車でオークション会場に連れて行ってもらった。
途中、馬車の中でも昨日からのフィットチーネさんへのヘイトが止まらない。
散々聞かされていたが、流石にお世話になっている関係上、少しは擁護しようと頑張ってみた。
「フィットチーネさんですが、あの三人に対して邪よこしまな感情は無いようですよ」
「そんな訳あるか。
王都の至宝だぞ。
その至宝を独占したんだ。
そうだ、あんな奴、あの三人を毎日相手していればすぐに腹の上で死んでしまうに違いない。
さっさと死んでしまえ。
ざまあ見ろ」
いやいや、それフィットチーネさんでなく俺だ。
本当にあの時には川の向こう側で呼んでくる天使が見えていたから。
ごめん流石にそれは見えていなかったが、毎日搾り取られていたから、いつ死んでも不思議はないとは思った。
だが、今それがばれると本当に死ぬかもしれない。
話をそらさないと、俺自身が危ない。
「いやいや、それは極端な。
そもそも、フィットチーネさんは彼女たちの希望を聞いて、モリブデンで娼館を始めるようですよ。
ですから、ドースンさんもモリブデンに行けばもしかしたら……」
「え、そうなのか。
あの至宝たちが、また娼婦として」
「ええ、ですからフィットチーネさんは彼女たちを相手するどころか、娼館の準備で忙しくしていましたよ。
そんな忙しい中、私のことも気にかけてもらい、本当にいい人ですね」
「ああ、あいつは昔から人は良かったが…… それでもな」
「それに何より、私はフィットチーネさんのご家族ともお会いする機会に恵まれましたが、本当に綺麗な奥さんでしたから、他の女性なんかに目移りするはずがないでしょ」
「そうなんだよ。
あいつばかり、何であんな良い女と所帯を持てるんだ。
あんな良い女を迎えながら,王都の至宝を独占するなんて許せない」
あ、俺また燃料を投下したかな。
ドースンさんが止まらない。
しょうがないので、俺はドースンさんに逆らわずに付き合うことにした。
そういえばお姉さん方がピロートークで言っていたが、『王都に残ると、娼婦で居られなくなりそうだって』て言うのは、ドースンさんのようにストーカー予備軍がどんなことをしでかすか怖かったんだろうな。
なまじ権力と財力を持った連中から絶大な人気を誇っていたようだから、奴隷でなくなるとそれこそ大変だっただろうな。
だからあれほど奴隷の身分に拘ったんだ。
今その理由を垣間見たような気がする。
「まだ、開業していませんが、私がモリブデンを離れる時に、もうすぐ開業すると聞いていましたから、もしかしたら、今ならフィットチーネさんに頼めばドースンさんの夢がかなうかもしれませんよ」
「え、そうなのか。
俺でも至宝を買えるというのだな」
「いえ、そこまでは分かりませんが、その辺りについては直接フィットチーネさんに尋ねられたらどうですか」
「そ、それもそうだな。
お、着いたようだ。
この話は後でだな」
話を逸らすことに成功したとは言えないが、運よくオークション会場に着いたので、話は終わった。
「立派な建物ですね。
でも、こんな立派な建物が10日ごとしか使われないなんてもったいないような気がしますね」
オークションのためだけに使われているという話だが、商業ギルドに併設するように、立派な建物が建っている。
「ここで、10日ごとにオークションが開かれるが、毎日オークションに出品するものを受け付けているから、毎日使われているな。
だからまるっきり無駄という訳では無いかな。
まあ俺からしたら、それだけでも贅沢な使い方をしているかと思うがな」
「そうなんですか。
毎日使われているのなら、そこまで言われるようなことでも」
「まあ、中に入れば俺の言うことも理解できると思うよ」
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