第31話 盛り上がりに欠けるオークション
ドースンさんに付いて中に入ると、流石王都の商業ギルドが鳴り物入りで運営しているだけあって豪華な造りと、とにかく広いオークション会場であった。
このくらいの広さなら王都にいる商業ギルドの会員全員が押しかけても収容できるのではとすら思えるのだが……
人がいない。
いや、全く居ない訳では無く、まばらにはいるが、会場が広いだけあってとにかくうすら寂さみしく感じられる。
オークションはちょうど始まったばかりで、壇上では品物の説明を始めているが、それでもそれを聞いている人なんか、ただでさえ人がまばらであるのに、その中でもごく少数だ。
「盛り上がりに欠けますね」
「ああ、だから言っただろう。
目玉の無いオークションなんかこんなものだな。
この後もう少し俺の様な奴隷商が来るかもしれないが、それでもごく少数だ」
「なんでですか」
「なんでって聞かれてもな。
まず、10日ごとの開催については、品物の場合奴隷も入るが、定期的に集まって来るから捌かないといけないためだ。
それに、いくら少数とはいえ、集まる品物に需要があるので、まず落札されないことは無い。
あ、日に数個は落札できないのがあるが、そのほとんどが奴隷だな。
まあ、奴隷なら困ることは無く、そのまま鉱山送りのようだから問題ないそうだ。
次に、盛り上がりだが、これはひとえに王都にいる多くの人に魅力が無いものばかりだからだ。
誰も売れない商品は仕入れたくはないからな。
レイさんが欲しがっている奴なんか数年に一度出るかで出ないかの超目玉だから、そんなのが出品されると、信じられないかもしれないが、ここに入り切れないくらいの希望者が殺到するから抽選になる。
俺も過去に数回出たが、落札なんぞできなかったよ。
レイさんの夢を壊すようで申し訳ないが、相当難しいかもしれないな」
「ええ、覚悟はしておりますから。
ただ何もしないと入手はできないでしょ。
今日は、オークションに連れてきてもらえて感謝します」
「感謝するなら、俺の願いも聞いてほしいかな」
ドースンさんがそう切り出してきたのは、先ほどからかなりしつこく言ってきている王都の至宝と言われた娼婦の件だ。
俺にフィットチーネさんに頼んでみて欲しいとのことだ。
流石に、彼女たちが他の男の抱かれることについては思うところがない訳でもないが、彼女たちはそれが仕事だ。
あれ、嫉妬しているのか。
今までがあまりに幸運続きで当たり前に思っていたが、ドースンさんの話を聞いて、俺ってとんでもない事だったのだと改めて思った。
「私がフィットチーネさんに頼むのは構いませんが、ドースンさんからの親書を頂きたいと思います」
「親書だ~。
ああ、俺からフィットチーネの野郎宛てに手紙でも書けばいいのか。
そうだな。
あの三人いっぺんにとはさすがの俺もできるとは思えないが、もしできるのなら全財産を差し出してもいい位だしな」
え、そんなに。
「それくらい、ステータスにもなるんだよ。
国王でも出来なかったことだしな」
あれ、俺ってひょっとして不敬罪にでもなるのかな。
国王以上の思いをしたことになるってことだよな。
「まあ良いか、俺はあの三人の内できるのなら贅沢は言わないが、俺の一押しはやはり一緒に食事させてもらえた『清楚なエリー嬢』だな。
それを手紙に書けばいいのか。
ちょっとフィットチーネの野郎に借りを作るようで癪だが、しょうがないか」
「ええ、そうですよ。
三人もいるので、私は覚えている自信が無いですしね」
そんな会話をしていると、オークションは盛り上がりに欠けながらもどんどん進んでいき、品物に続き奴隷が出品されるようになってきた。
奴隷商のドースンさんが奴隷が出る度に、少し厳しい目つきになるが、直ぐに興味を失ったかのように俺と娼婦の話を続けていた。
流石奴隷商と云えばいいのか、もう少しまじめに仕事をしましょうと言えばいいのか判断に迷うところだが、ドースンさんも海千山千の商人だ。
一目で価値を見抜き、オークションに参加していないのだろう。
そうこうしているうちに本日のオークション最後の品になった。
一人の奴隷が壇上に連れて来られた。
それを見たドースンさんが一言いった。
「結局今日も無しだな」
「何がですか」
「たまに掘り出し物が出されるから、割と足しげく通っているのだが、今日も掘り出し物は無かったよ」
ドースンさんが言う掘り出し物って奴隷のことだ。
奴隷商なら当たり前の話だが、オークションに出品される奴隷にも色々と有る。
多くが一般奴隷の内、戦争奴隷と言われる奴だが、これなどは奴隷そのものの価値で取引されるので掘り出し物って言いにくい。
しかし、稀に掘り出し物が出される。
その掘り出し物の多くが、借金奴隷と言われる奴隷たちだ。
彼らの価値は背負った借金に依存する。
借金の額で、奴隷としての任期が異なるために一般奴隷よりもその金額に幅は出ないが、奴隷商が抱えている奴隷となると話が違ってくる。
価値は正確にわかるが、奴隷商など一時的に現金を欲するときなどは損しても売りに出されるそうだ。
多くの場合、見込んだ客に売れずに売れ残り、自身で長く抱えるよりもさっさと現金に換えた方がましと判断してのオークション出品だそうだ。
それ以外には、危ない話になるが、商人の商いがいよいよという時になると、自身の資産を売り払っても現金を確保しないといけない場面に出くわす。
こういう場合には、相当な掘り出しものになることも多くあるそうで、それを狙っていると言う。
集めた現金で商売が持ち直すこともあるそうだが、多くの場合は……
そう言う商人との取引を減らすか、止める等の措置を取らないと大損をするから、その情報集めの意味もあるという。
現代社会で言う与信管理の一部かと俺は理解したが、なんだかこの世界も商売においては世知辛いと言うか何だか。
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