第32話 犯罪奴隷

 しかし、ここに来て俺は最後に出て来た奴隷から目が離せない。

 とにかくスタイルが良いのと、はっきり言って美人だ。

 そんな俺の様子も見たドースンさんが声を掛けて来た。


「レイさん。

 あれはダメだよ。

 やめておいた方が良い」


 ドースンさんが俺に言ってきたことに俺は驚いた。


「え、どうしてですか。

 私にはかなり魅力的に見えるのですが」


「あれ、売れるかどうかも怪しいよ」


 よくよく話を聞くと、最後の奴隷は犯罪奴隷だそうだ。

 しかも、主殺しと来た。

 いくら美人でも、主殺しの犯罪奴隷はなかなか売れない。

 少なくとも貴族は絶対に買わない。

 貴族という人種はただでさえ敵が多い。

 常に暗殺の恐れすらある者もいるという。

 そんな貴族なら、いくら美人と言えど、無用なリスクは取らない。

 美人が抱きたければ、犯罪奴隷に頼らなくとも貴族ならいくらでも他に方法があるからだ。


 「しかし、あの器量なら、例えば娼館で娼婦として仕入れても」と、俺が言うと、それもダメだという。


 貴族には処女は好まれるが、娼館では面倒ばかりで嫌われるという。

 その理由を聞くと俺も納得がいったが、男を知らない小娘にいきなり娼婦は無理で、仕込もうとも相当時間を掛けないとほとんどの場合途中で心が壊れるという。

 実際に娼館には心の壊れた娼婦も居ない訳では無いが、ほとんど稼げないそうだ。

 そこから言えることは、高い金を出して奴隷を買っても、出した金を回収すらおぼつかない奴隷になる恐れがあるから、そんな奴隷は買えないという訳だ。

 買う意味がないという。

 たまに物好きが買う程度で、奴隷商でも仕入れるところはあるが、まず場末の碌ろくな取引先を持たない店しか手を出さないとか。

 何せ末路は悲惨の一言になることが目に見えている。

 奴隷を虐待しても何にも感じないような下種しか扱えないと、さも軽蔑するように競りを出している奴隷商を睨むように話してくれた。

 俺はそんなものかと思いながら魅力的に見える奴隷を見つめた。


 『主殺しの冤罪で犯罪奴隷になったハーフのダークエルフ

 名前をダーナと言う。

 スキル アイテムボックス小

 ただし、受けそこなった呪いにより魔法が使えないために使用不可

 魔法については治療可』


 え、また鑑定先生の出番ですか。

 しかし、アイテムボックス持ち。

 これは欲しい。


「ドースンさん。

 私が彼女を欲しいと言ったら競り落とせますか」


「できない話では無いが、いくらまで出せるんだ」


「いくらくらいになりそうですかね」


「ああ、あの器量だろう。

 主殺しが無ければ、まず最近見てなかった目玉になるくらいだろうから、そうだな。

 金貨で200枚はくだらないかな。

 下手をすると350枚くらいまで行っても俺なら出すがな」


「え、そんなにですか」


「ああ、だが、さっきも言ったが、あいつは条件が悪すぎる。

 経験が相当数あるのなら娼館に金貨100枚くらいで出せるかな。

 ひょっとしたらこれから娼館を出そうとしているフィットチーネの野郎ならそれくらいまでは出すだろう。

 もし、あれで魔法が使えるのなら、冒険者に金貨150~200枚で売れるかな。

 しかし、あいつは全部だめだ。

 俺なら金貨50枚でも買わないかな」


「え、それなら金貨50枚で買えそうですか」


「買う気か。

 なら金貨100枚は見てくれ」


「え、さっき、金貨50枚と言いましたよね」


「ああ、でも今競り合っているのはあいつらだろう、足元を見て来るんだ。

 金貨80枚くらいまであれば競り落とせるが、その後にかかる税金や手数料などを入れるとそれくらいになるが、100枚出すかね」


「100枚ならすぐにでも出せます。

 お願いします」


 俺がそう言うとすぐさま競りに参加した。

 しかも、10枚、15枚と言った感じで刻んでいた相場を、いきなり40枚と言って値を釣り上げた。

 人が少ないと言っても、オークション会場にはそれなりに人は居たが、ドースンさんのやや無理やりともとれる競りに、会場がざわめいた。

 それでもついてこようとした奴隷商がいたが更に値を釣り上げ、金貨55枚で競り落とすことに成功した。

 しかし、俺が払う金額は金貨55枚で済むはずがなかった。

 正直今回が初めて奴隷を買ったことになるが、奴隷ってやたらとコストがかかるものだ。

 これなら誰もが奴隷に虐待をしようとは思わないだろう。

 案外人権を守る意味では良い方法なのではないかとかってに考えているが、多分本当の理由は違うのだろう。


「レイさんとやら、まさか55枚で済むとは思っていないよな」


「ええ、お任せした以上は予算内ではありますが言い値を払います」


 結局、俺が払った金額は金貨80枚であった。

 内訳を教えてもらうと、初年度税金が金貨10枚で、保証金がこれも10枚、それに販売手数料が本当は10枚欲しい所だが5枚でまけてやると言ってくれた。

 それでも販売手数料だけで日本円で50万円、奴隷を買うのにトータル800万円支払ったわけだ。

 幸いと言うか、俺がフィットチーネさんを助けたことで得られたお金があったから最初から奴隷、それも性的なことが期待できる奴隷を買うことができたのだ。

 うん、人助けはするものだ。

 あの時には人助けをするつもりなど全く無かったことはすっかり忘れており、良い事をしたことによるご褒美だと勝手に思っている。

 俺は、オークション会場の受付で、支払い処理などの諸手続きをドースンさんにしてもらい、一度ドースンさんの店に向かった。

 奴隷契約をするためだ。


「本来ならばここでも手数料を取る所だが、俺からの頼みもあるからまけてやるよ」


「頼み?」


「オイオイ、忘れたとは言わせないぞ。

 フィットチーネの野郎に至宝の件を頼むことだ」


「ああ、あの件ですか。

 ええ、覚えておりますよ。

 それにまだ娼館も開いてはいませんし、それほどでも……」


「おい、どうした。

 何かあったのか」


「ええ、私が王都の向かう前に寄った時に、もうじき娼館がオープンすると言っていましたから、そろそろオープンでもしたかなと思って」


「それなら、お前はこの奴隷を連れて急ぎモリブデンに戻れな。

 良いな寄り道などするなよ。

 手紙はすぐに用意するから。

 一応、ギルドを通して至急便でも送っておくけど、お前からよくよくフィットチーネの野郎に頼んでおけよ。

 裏切ったら承知しないからな」


 そう言って、急ぎオークションで落とした奴隷の契約を済ませてから、手紙を書き始めた。

 俺は支配人に応接室に戻されて、初めて奴隷と話をすることができた。

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