第33話 犯罪奴隷のダーナ

「俺がオークションで君を買ったわけだが、名前を教えてほしい」


「え、ああ、私の名前ですね。

 私はダーナです」


「ダーナか。

 こっちに居るのがダーナの先輩になる奴隷のナーシャだ。

 多分ダーナよりも年下になるかとは思うが、先に俺の奴隷になったいわばダーナの先輩になるから、そのつもりで接してくれ。

 ナーシャもダーナと仲良くしてくれ」


「ご主人様?

 私は要らなくならないのですね」


「ああ、前にも言ったが、お前が要らなくなることは絶対にない。

 それよりも、ナーシャが先輩になるけど、ダーナの方が年上だし、色々と教わる事もあるだろうから、仲良くな」


「わかった、ご主人様?」


「ところでダーナ、まずは色々と聞かせてほしい」


「何をですか、ご主人様。

 ひょっとして主殺しの件ですか」


「ああ、あれって、冤罪えんざいなんだろう」


「冤罪?」


「冤罪が分からないか。

 あれはダーナがした訳では無く、誰かの罪をダーナのせいにされたのだろう」


「え、何で…… 

 何でご主人様は知っているのですか」


 そう言ってダーナが急に泣き出してきた。

 何が起こった。


「ご主人様?

 何で……」


「俺が知るかよ。

 だが、これだけは言っておく。

 俺が泣かせたわけではないぞ」


「それでは、誰が……」


「本人に聞いてみろよ」


 俺は聞きたくはない。

 と云うよりも聞けない。

 俺は泣いている女性に話しかける様な度胸など持ち合わせていない。

 そんなスキルがあれば向こうで魔法使いになんぞならなかったよ。

 あ、なる寸前にこっちに来たんだっけか。

 どちらにしても泣く子と地頭には敵わないって奴だ。

 俺が、そんなことを考えていると、ナーシャが俺に構わずダーナに聞いている。

 え、流石同性って奴か。


「やっぱりご主人様?が泣かせたって言っていますよ」


「え、俺が悪いのか」


「ヒック、いえ、悪い訳では無く、ヒック、初めて分かってもらえて、そのうれしかったもので、ヒック」


「分かってもらえてってな~に?」


「私が前の主を殺していないということが、グスン」


「まあ、冤罪になって誰も庇ってくれなけば心細くなるよな。 

 心細くって云うよりも最悪に近い形にはなったが、まあ命まで取られなかったんで良かったとするしかないかな」


「はい、ヒック、そのおかげで、ヒック、私のことを分かってもらえるご主人様に出会えましたから」


「なんで、ご主人様?は分かったんですか」


「それはな……」


 俺の秘密だが、解放することができない奴隷だということもあるので、二人に秘密を打ち明けようとしていたら、応接室のドアをノックの音とともに、支配人が入ってきた。


「レイ様、お待たせしました。

 ご主人様がお呼びですので、こちらに」


 危ない危ない。

 危うく俺の秘密がばれるところだった。

 奴隷たちには後で教えると言って、俺だけが支配人に付いてドースンさんの執務室に向かった。


「待たせたな。

 これが手紙と、依頼料だ。

 もし、成功したのならさらに成功報酬も出すから、張り切ってくれ」


「成功って……」


「そら決まっているのだろう。 

 俺が、あの至宝たちと最高の時間を過ごせるかどうかだ」


「え、複数プレイ…」


「ば、バカな。

 何をとち狂っているのだ。

 あの至宝たちのうち、だれかとだ。

 複数なんか王族でも、たとえ陛下であってもできない夢また夢の話だ」


 え、そんなに、ドースンさんあまりに拗らせて大げさになっているよね。

 でないと俺ってかなり危ない立場にいることになる。

 しかし、花魁世界の太夫に相当するのなら分からない話でもないかな。

 複数の太夫を囲った大名の話は聞いたことが無い。

 将軍だって、と言うか、将軍はそういう遊びはできなかったとは思うが。

 多分そんな扱いなのだろう。

 うん、もうお姉さん方とは無理だな。


「分かりました。

 幸いお姉さん方とは面識がありますから、そちらにも直接聞いてみますよ」


「お姉さん方って誰だ」


「え、あの三人のお姉さん方ですが」


「え~~、おまえ、あの至宝の方たちと直接お話をしたのか。

 いや、今でもできるというのか」


 ちょっとまずいことになりそうだったので、俺は言い訳を兼ねて、状況を説明した。

 モリブデンでは、まだ娼館は開いては居ないし、何よりも王都の至宝の話は少なくとも庶民の間には伝わっていない。

 なので、王都のように大げさにはなっていない。

 さらに俺は、彼女たちを助けたことがあり、そのおかげで仲良くさせてもらっていることを話した。


「なら、ならちょっとは期待できるな。

 フィットチーネの野郎の他にも直接頼んでくれるのなら、もう少し謝礼をはずまないといけないか」


「いや、もう十分にしてもらっておりますから」


「そうか、なら頼む」


「分かりました」 


 俺はそう言うと、ドースンさんから手紙と依頼料を受け取った。

 するとドースンさんが俺に言ってくる。


「何している。

 直ぐに、モリブデンに向かわないか」


 え、何この人、完全に我を失っているぞ。


「馬車が必要ならうちのを貸そうか」


「いえ、要りませんよ。

 馬車なんかで俺らだけで移動でもしようものなら、それこそ『盗賊さんいらっしゃ~い』ってことになりますからね」


「それもそうか。

 だが急いでくれ。

 返事はそうだな。

 ギルドの至急便でも良いぞ。

 費用は俺持ちで」


「分かりました。

 これから向かいますよ」


 俺は追い出されるようにドースンさんの店を出た。

 宿も毎日清算しているので戻る必要もないし、何よりあのドースンさんの迫力で頼まれたこともあるから、俺らはそのまま王都を出た。

 その日は午後も夕方に近い時間に王都を出たので、前に王都を見下ろせる丘まで来たら日も暮れた。

 ぎりぎりであったが夕方の王都を見ることができたのは良かったとは思うが、何も夕方近くに王都を出発することはなかった。

 普通なら準備もろくにせずに町から離れることは命の危険にすらなる行為で、まずまともな冒険者なら行わない。

 商人、特に行商人においては無用なリスクは商人資質に関わる行為でもあるので、絶対にありえない。

 だが、俺は、未だに日本での感覚が残っているので、平気で王都を出てしまった。

 あのブラック職場では急な出張なんかもそれこそ日常茶飯事であったことだ。

 まあ、これは俺の持つアイテムボックスというスキルのおかげでもあるためだが、アイテムボックス内には水や食料と言ってもアポーの実だが、相当数入っている。

 アポーの実を王都でも売りはしたが、あまりに多く抱えていたためにさばききれなかったのが今回幸いしたのだ。

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