第34話 急な出発
だが、急ぎ王都を出たのはやはりドースンさんのあまりの迫力に負けたというのが本音のところだ。
まあ、あそこで、一泊してから王都を発ってもドースンさんは流石に文句は言わなかっただろうが、この世界における常識の欠如のためだろうか、割と気にすることなく王都を出たが、前に来た王都を見渡せる丘に差し掛かった時に後悔を始めた。
夕方になり日が沈んできたのだ。
流石に夜間の移動は危険が伴う。
ただでさえ危険だというのに、この先に広がる森には魔物も多くいるので、流石に俺でも移動しようとは思わない。
それに、ここからの眺めの時に話したが、夕方の王都も観る価値のある絶景だ。
日が完全に沈むまでその景色をみんなで楽しむことにした。
「ご主人様。
この後の移動は」
ダーナが遠慮がちに聞いてきた。
彼女は多少の経験があるのだろう。
俺があの時間からの出発に彼女だけが心配そうに俺の方を見ていたのだから奴隷になる前に冒険者か行商などの旅をする仕事にでもついていたのか、夜間移動の危険について熟知している様だった。
「ああ、流石にこの先は危なそうだから、今日はここで野宿だな」
この場所は、王都周辺でも有名なスポットになっており、多少の整備はされている。
夜営をしても何ら問題無いようにはなっているが、それでも休憩できるといったくらいの整備だ。
ここから歩いて数時間の距離に王都があるので、普通なら誰もここで夜営をしようとは思わないのだろう。
豪商や貴族の好き者が王都の夕方の景色を見るために来ることはあっても、そんなのはまれなことで、わざわざそのための整備までは行わない。
なので、この場所の近くには小川や井戸などの水を入手できる場所もない。
あるのは整地された広場だけだ。
俺たちは他から襲われても対処できるように十分な広さの有る場所に陣取り固まって座った。
「さて、ドースンさんの店で話の途中になってしまったが、俺の秘密をみんなに話しておこう」
「「え」」
二人ともかなり驚いたような顔をしている。
「俺に聞いてきたのだろう、何故主殺しが冤罪だとわかったのかと」
「「??」」
二人ともきょとんとした顔になった。
そういえば冤罪という言葉を知らなかったんだ。
まあ良いか、話を続けよう。
「俺は、どうもこの世界の生まれではないらしい」
「ご主人様?」
ナーシャが心配そうに俺の方を見る。
気がふれた訳では無いぞって、そんな心配をしている訳ではなさそうだな。
そこのところは追々話していくから、今回はひとまず話を続ける。
「俺には何故だか知らんが、見た物の真実が分かるようだ。
例えばこのアポーの実だが、俺は初めてこれを見た時には、これが食べられるものかどうかも知らなかったが、名前から美味しいかまでを見ただけでと云うよりも探るようにして見ないとダメだが、分かったのだ。
ダーナの時も同じだ。
ドースンさんはダーナに価値無しとまで言っていたが、俺にはそう思えなくて、よくよくダーナを見たら、主殺しの冤罪で犯罪奴隷となると有った」
「それで私を買ってくれたのですね」
「ああ、だがそれだけでは無い。
その時に見たのが、ダーナのスキルだ。
俺が欲しているアイテムボックスを持っていると有ったのだが」
「え、そんなことはありません、ご主人様。
私は魔法すら使えなくて、みんなから……グスン」
「ああ、それも知っている。
なんでも体の中の魔法経路というのがあるらしいのだが」
「すみません。
魔法については使えませんでしたから、そう言ったことは何一つ知りません」
「ナーシャも知りません」
「そうか。
だが、その体の魔法経路が途切れていて、魔法が使えないと俺のスキルが言っている」
「そうなんですか」
ダーナは少し嬉しそうに聞いてきた。
「ご主人様?
私は、私も魔法が使えるようになりますか」
「ナーシャはもう少し成長しないと分からないが、身体強化は使えそうだな。
でも、魔法使いのようにはなれないぞ」
「え、そうなんですか」
こちらは少し悲しそうになった。
「ご主人様。
その経路っていうものを繋ぐことはできるのですか」
「それは分からない」
俺はそう言いながら、ダーナをよく見ると、ダーナの体にいくつかの光る点が見えて来た。
ひょっとしてツボなのか。
ツボを刺激すると直るとか、そんなご都合主義的な事って。
でも合法的にダーナのあの美味しそうな体をまさぐることはできそうだな。
合法的って言うが、ダーナは既に俺の奴隷、しかも人権など一切無い犯罪奴隷なのだから、好きなように蹂躙しても何らとがめられることは無いが、そこはそれ小市民という奴で、オークションでドースンさんから聞いた心を壊すようなことまではしたくないとも思っているから、どうしようかと悩んでいる。
治療だよな。
治療なら、たとえうら若き女性だって医者に触られても文句など言わないし、俺はダーナのご主人様だし、治療?で心までは壊れないだろう。
ちょっとばかりセクハラに近くなっても、治療?だし、俺ご主人様だし、ダーナだって、その辺りは理解するだろう。
「繋げるかどうかは分からないが、試してみたいことはある」
「それで治りそうですか」
「先にも話したが、俺のスキルで、本質が分かるというのがあるが、俺がダーナを見る限り、体にある点が複数みえる。
そこを、どうにかできればもしかしたら」
「ご主人様。
出会ったばかりの私に、まだ何もご主人様に対して奉公していない私に、不躾なのはよくよく分かっておりますが、どうか治療をして頂けないでしょうか。
厚かましいお願いだとは重々分かっております。
でも、でも、もし私に魔法が使えましたら、使えるようになったら、もっとご主人様にお役に立てるようになります。
どうかお願いします」
魔法が使えなくとも十分にお役に立つことはできるぞ。
俺はそのつもりで買った訳だし。
ナーシャもいずれはとは思うが、いかんせん青すぎる。
そこに行くとダーナは十分すぎるくらい美人でスタイルも良い。
もうそれだけでご飯三杯はいけるから。
もう少し俺に心を開いてくれるだけでいいのに、とにかく試してみないとどうなるかはわからない。
「それで治るかどうかは分からないぞ。
それでも良いのか」
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