第179話 至宝と呼ばれるお姉さん方の身請け

 

 そんなこんなで始まった学校作りだ。

 最初は船乗り養成から徐々にではあるが、始まったが、そこらへんは船長に任せて、俺は学校つくりの方を頑張っている。

 バトラーさんに、この地に残っている職人を集めてもらい、その職人たちに仕事を割り振る。

 鍛冶職人と大工がほとんどで、それも人数も少ないのは想定の範囲だ。

 館に近い場所に、鍛冶場を作らせた。

 それで、俺はさらに領民たちのうちで手先の器用そうな者たちを集めて製紙業に挑戦していく。

 水場に近い空いている家を改良して仕事場を作り、藁を潰して紙を作る。

 まずは、麦わらを水に漬け柔らかくした後に、木の棒などを使ってとにかく叩きながら柔らかくしていく。

 その後は石臼でそれらを細かくして大量の水に入れ、白墨でも使っている糊を使ってすいていく。

 はじめは全く紙にならなかったが、それでも何度も挑戦していくうちに紙と呼んでいいのかは判断の分かれる状態だが、薄い塊くらいまでは作れるようになった。

 ここからは改良作業なので、メイドをこちらにも一人付けて改良を集めた人たちに命じてこの場を離れた。


 ここまでするのに、一週間はかかった。

 そろそろ人材の補充と、お姉さん方の身請けに、フィットチーネさんの支店をこちらに開いてもらうための話し合いのためにも一度モリブデンにもどることにした。


 船長が始めた船乗り教育を邪魔する格好になるが、船で戻っていく。

 まあ、教育中の研修生?は今回の航海に同行していて、いわゆる見取稽古と言えばいいのか、ベテランの船乗りについて、実際の航海について学んでいるようだ。

 しばらくはこんな感じでも良いか。


 無事に船はモリブデンに着く。

 まあ、今回は教育航海とでもいえばいいのか、夜間の航海もせずに入り江などの波待ちエリアで休むなどあった関係で5日が掛ったが想定通り……想定などしていなかったが、実際に教育現場を見ていたのでさもあらんと言った感じで納得していた。


「レイ様。

 時間がいつも以上に罹り申し訳なかった」

 モリブデンの港が見える場所まで来た時に船長が詫びてきた。

「いえ、かまいませんよ。

 それよりも船長に頼んでいる船乗りの卵の件ですが、実際の現場が見れて良かったとも思います。

 それにこれくらいならば許容範囲ですから気にせずこれからもたびたび頼みますがよろしくお願いします」

「レイ様にそう言ってもらえるのならあっしはかまいませんが……」

 船長との会話をしていると船はどんどんモリブデンの港に入っていく。

 今回は荷物などを載せる予定もないので船は沖合の停泊地に止めてからボートを出してもらった。


 上陸すると三人のお姉さま方が俺たちを出迎えてくれた。

「やっと帰ってきましたね、レイ様」

「すみませんでした。

 これからのことについてフィットチーネさんと話し合いをしたく戻ってきましたので、ご一緒しますか」

「ええ、店も昼ではやることもありませんしね」


 俺はお姉さま方に引きずられるようにフィットチーネさんの元に向かった。


 さっそくフィットチーネさんの執務室で話し合いが始まる。

「支店の件はどうにかなりそうですか、フィットチーネさん」

「いや、なかなかモリブデンの店だけでも色々とあり大変なのでなかなかどうして……

 それよりも、聞いております、彼女たちの件ですがいかがいたしますか。

 費用については正直彼女たちからすでに頂いている格好なのでいつでもと言いたいのですが……」

 俺は驚いた。

 前に御姉さま方には身請けの金額は心配ないとは聞いていたが、一切の費用が掛からないとは。

 まあ、お姉さま方は今まで相当稼いできたので、お金を持っていることについては驚かないが、それをわざわざ自分の身請け費用に充てずとも良いのではとも思う。

 まあ、お姉さま方はこの国では有名人で奴隷明けする方が危ないとも以前に聞いたことがあるが……それでもね~。


 その後の話し合いでも、それについても触れられて自分としては不本意にはなるが、フィットチーネさんやお姉さん方とも合意ができた。

 まず、フィットチーネさんのことだがシーボーギウムに支店を出す件についてはしばらくはできないとのことだ。

 だが、シーボーギウムと関係が無くなるかというと俺が許さない。

 ちょっと生意気になったので反省。

 散々今まで世話になったのに恩返しもできないとは情けないという感じでお姉さん方々の提案を受けた。

 まず俺がシーボーギウムにフィットチーネさんの別宅、別荘と呼んでもいいがそれを用意してフィットチーネさんにお礼の情を示す。

 それ以外についてだが、今モリブデンで経営している高級娼館の2店舗だが、フィットチーネさんとしては閉めても構わないと考えていたようだ。

 そのまま閉店という訳にもいかないだろうから経営権をどこかに売り払うことまで考えていたようだ。

 そこで、その経営権をお姉さん方が共同して買い受けて……奴隷の身分のままなので、この場合の権利者は俺になるらしい。

 そう、もうお姉さん方の中では身請けが済んでいるつもりで話が進む。

 その後、俺からのお礼として半分の経営権をフィットチーネさんに譲渡する形がとられる。

 その話を聞いたフィットチーネさんは、それならば半分の経営権だけでいいとも言いだしたのだが、今度はお姉さん方が受け入れない。

 なので、このような面倒な形になった。

 だが、経営権を半分持つことになるフィットチーネさんには娼館に関して面倒をかけられないと、利益の一部を定期的に支払うことで、娼館の後ろ盾になってもらうことにも同意してもらった。

 社外の相談役のような立ち位置になりそうだ。

 で、今度は俺に対してだが、身請けした以上これ以上ほっとくなって感じで今度シーボーギウムに向かうときに連れていくことになった。

 しかし、モリブデンには2店舗営業中の娼館がある。

 それを無視するわけにもいかない。

 連絡ならばそれこそタイムラグなく連絡が付けることができるが、経営ともなるとそうもいかないだろう。

 なので、三人いるお姉さん方が順番でこことシーボーギウムとの間を行き来することで話が付いた。

 確かに船を使えば早くて3日、教育中の若葉マーク付きでも5日あればどちらからでも目的地まで就くことができるが、それは天候などの問題が無ければの話になるが、お姉さん方の間ではここに一人を残して後進の育成に頑張るらしく、ひと月ごとに行き来して交代していくことになった。

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