第178話 手探りのものつくり
偶々、この地に戻った時に俺はキョウカを捕まえることに成功したので、俺の執務室で相談を始めた。
「忙しいところ呼び止めて済まない」
「いえ、旦那様。
それで、私に御用ですか」
「ああ、ちょっと相談だ」
俺は現在進めている船乗り養成の学校について簡単に説明後に、子供たちにも文字を教えることを説明した。
「子供たちに文字を教えるのですか。
あの子たちって、孤児だったような」
「ああ、そのようだな」
「レイ様は、孤児に文字を教えてどういうつもりなのですか」
俺は、この先についての展望と言うか、理想について説明したのだが、キョウカには理解できなかったようだ。
まあ、完全に理解できなくともこの先について説明していく。
一通り説明を終えるとキョウカは俺に聞いてきた。
「レイ様。
それであたしに何を」
「ああ、色々と学校と言う教育を専門とする場所を作っているのだから、病気治療についても同じように教育できないかと考えているんだ」
「え?
私たちは教会で学んだことで治療魔法を使えるようになりましたが、病気については効果は期待できませんでしたね。
教会で教わるよりもレイ様に教えてもらった方が病気には効果があるような気がしますが」
「ああ。だからここで教えるのは病気治療からかな。
俺は多少魔法は使えるが、怪我治療の魔法は知らないからな。
俺の知らない内容を勝手に教えるのもどうかと思うし、まずはこの地で二度と病気を蔓延させないようにしたい」
「それですと、やはりこの地にもモリブデンと同様に病院を」
「ああ、それも一つでは足りないだろう。
少なくともここ領都には複数欲しいかな。
それにいずれ村も再開発されるだろうから、その時には村にも一つは欲しい」
「ですが、それですとまた私のような奴隷を沢山購入されるのですか」
「だから、治療できる者をこの地で教育していきたい。
もともとキョウカも俺に付いて学んだから病気もどうにかなっているんだろう」
「え、え~」
「そう言うことだから、まずはキョウカの手伝いをしている連中から数人選んでほしい。
そこから教えて行こうかと」
「怪我についてはいかがしますか」
「実は魔法ほど便利ではないが、骨折も状況の深刻さにもよるが、それほどでないのならどうにかする方法がある」
「え、え~!」
「だからそれもおいおい教えていく。
だからキョウカにも手伝ってほしい」
「わかりました……ムーランやサリーはどうしますか」
「ああ、モリブデンの病院を閉じる訳にもいかないから、ここで教えた者たちをモリブデンに送って、交代でこっちに来てもらおうかとは考えている。
それに俺もちょくちょくモリブデンには戻るつもりだ。
そのための船乗りの養成なのだからな。
尤も急にやることが増え、本末転倒になりかけているが……」
キョウカとの打ち合わせが済んで、俺はこの地シーボーギウムに船乗り養成と医者のための学校を作ることになった。
どちらも始めたばかりと言うよりもまだ第一歩も踏み出していない状況だが、手探りで始めて行く。
教育環境としてハード面では、黒板の量産をバトラーさんを通りて領民に命じてあるし、白墨に至っては俺のところで預かっている子供たちの仕事として製作を始めた。
だが、学校を運営していくにはまだまだ足りないものばかりだ。
少なくとも、それぞれの教科に応じて教科書が必要だが、そういうものはこの世界には全く存在しない。
何せ、どれも初めてのことばかりなのだ。
教科書を作ろうにも、紙がべらぼうに高く、また、ノートの類などは存在しない。
だから、紙も領内で生産を考えている。
何も上質紙や和紙のような上物を作ろうとしているわけではない。
使えればそれでいいくらいに考えているので、畑で作られている麦の刈り取り済みの物をわら半紙のように作れないかの研究を始めることから考えている。
この辺りについても、任せる者がいればいいのだが、フィットチーネさんの所に行って相談でもするか。
あ、国の至宝と言われているお姉さん方の身請けの話もあったっけ。
やることが一向に減る気配が見えてこない。
……おかしい。
俺は社畜として馬車馬のごとくこき使われて過労死したことでこの世界に来たのだ。
その時に誓った……な訳はなく、あの時は生きるのが精一杯でそれ以外考える余裕はなかったが、それでも頭の片隅で、この世界では面白おかしくのんびり生きていこうと考えていたのだが、あの時の社畜時代とどこが違うのかと、俺自身に問いたい。
身から出た錆と言われればそれまでだが……俺自身のこの世界に来てからの行いから始まったんだよな。
それでも俺の女たちに相当助けられていてもこの状況だ。
もっとも最近ではその女性たちから見返りをしっかり要求される。
俺自身から出る……でだ。
一人二人ならば俺もうれしい見返りなのだが、何分人数が……地獄とまでは言わないが、欲望に直結しているだけにたちが悪い。
もう俺が干からびるまでしっかりと要求してくるからあまり頼りたくはない。
あ、頼らずとも同じか。
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