第161話 お国入りの準備
俺が、応急的にしろ政のようなことを始めたので執事のバトラーさんが心配そうな顔をしている。
そう、俺はまだこの領地の領主ではないっていうか、お国入りしていないのでいきなりの政は色々とまずいらしい。
とにかく、食料の件はフィットチーネさんを通して、カッパー商業連合国の商人たちに任せているので、当面の時間は稼げそうだ。
俺は、護衛で付いてきてくれた騎士や奴隷たちを引き連れて一度王都に戻ることにした。
ここシーボーギウムには、モリブデンから応援で駆けつけてくれたものもいるし、バトラーさんを始め地元の人たちもいるので、何かあれば俺に連絡をくれと魔法使いエルフのガーネットに頼んでこの地を離れた。
ガーネットも、俺とのアイテムボックス通信が使える。
うん、本当にこのアイテムボックス通信って便利。
使える人を増やしておいて良かった。
しかし、船とは違い、陸路で王都まで戻るとなると本当に面倒だ。
急ぎ戻っても10日はかかる。
これでも異常な速さで、普通急ぎでも二十日はかかるらしい。
これほど急いでも付いて来られるって、騎士たちは凄い。
獣人の奴隷たちも人族よりは体力があるので、大丈夫かと思ったのだが、相当きつそうだ。
来る時にパワーレベリングをしておいてよかった。
やっとの思いで王都に着いた。
急ぎ店に向かう。
店では俺のお国入りの準備に忙しくしていたが、俺を見たタリアが駆け寄り、報告してくれた。
「お国入りについてですが、準備は順調です。
それとは別ですが、カッペリーニ伯爵から伝言を預かっております。
一度お会いしたいそうだとか」
「それなら、すぐに会えるよう手配を頼む。
あっちは酷くて、急ぎ国入りをしたいのだ」
「まあ、流行り病でお取り潰しの領地ですからね。
おおよそのことは想像しておりましたが、やはり酷かったですか」
「ああ、だから王都での仕事を簡単に済ませてすぐに戻りたいんだ」
「わかりました。
すぐに使いを送ります」
店での顔出しを済ませて、すぐにバッカスさんの所に向かう。
一応、挨拶は大切だ。
「こんにちは、おりますか」
いつもの手代さんに挨拶をすると、すぐに店主のバッカスさんを呼んでくれた。
「おお、久しぶりだな。
忙しそうだが、大丈夫か」
「何をご心配してくれているかはわかりませんが、私たちの健康面では問題はありません」
「と言うことは他で問題多発と言うことか」
「ははは、隠せませんね。
ええ、ギルドの仕事と言う形で、頂いた領地に行ってまいりました」
「その様子では、あっちは凄そうだな」
「ええ、酷いものですよ。
今でも進行中で、酷くなっておりますから急ぎ戻らないとまずいんですよね」
「当分王都に来れないとかか?」
「いえ、多分ですが、私といつものメンバーではちょくちょく来ることになるかとは思いますが、とにかく急いでお国入りしないとまずいですかね」
「それで、今日はどうした」
「はい、どうしても準備に時間が取れませんので、国入りの際に振る舞い酒でもして、ごまかそうかと」
「おう、それは良い。
なら、その振る舞い酒は私からのご祝儀として進呈しよう」
「いえ、そこまでしていただかなくとも、さんざんよくして頂いておりますし」
「いや、何。振る舞い酒なら良い酒である必要は無いだろう」
「はい、酒であれば量があればいいかなと」
「なら、ちょうど良かった。
味は良いのだが、色が悪くて売れない酒があるんだ。
処分でも考えていたところだったので、それでも良いか」
「ええ、処分するまでお考えでしたら、遠慮なく頂きます」
これはバッカスさんのやさしさだろうが、その気持ちだけでもうれしかった。
その後は、先の手代さんが奥から人を連れて大きな樽を3つばかり持ってきた。
「店まで運べばいいか」
「いえ、この場でもらいます。
ダーナもいますしね」
俺はバッカスさんに用意してもらった酒をありがたく頂き、ダーナにアイテムボックスにしまってもらった。
「また、王都に来た時にはすぐに挨拶に伺いますので」
「ああ、なんだか知らんががんばれよ」
「ありがとうございました」
バッカスさんの店を出るとすぐにドースンさんの所にも挨拶に伺う。
入り口で家宰の人に中に入れてもらい、そのままドースンさんの部屋まで通される。
「お~、レイさんか。
それとも男爵様だったけか」
「ドースンさんまでもよしてください」
「さしずめバッカスにでもからかわれた後か。
で、今日はどうしたね。
しばらく顔を見ていなかったような気がするが」
「ええ、モリブデンやら頂いた領地にやらと出かけておりましたから、本当に久しぶりの王都です」
「忙しそうだな」
「ええ、大きな声では言えませんが、領地がかなりひどい状況で、すぐにでも国入りしないとまずそうで、慌てて王都に戻ってきました」
「なら、すぐに戻るのか」
「ええ、かなり準備不足は否めませんがすぐに戻ります。
先ほどバッカスさんの店から振る舞い用の酒も頂きましたので、あちらではそれでごまかします。
どうにか恰好だけは付きそうなので、伯爵邸に挨拶したら領地に戻ります」
「そうか、なら俺からもと言いたいがあいにくな~」
「ええ、お気になさらずに……あ、一つだけいいですか」
「なんだ、場末の奴隷商に大それたことはできないぞ」
「そんな伏線を張らずともいいのに。
それより、ダメ元なんですが、船を扱える奴隷がいましたら確保しておいてほしいのですよ。
これからは領地とモリブデンとの間の行き来が増えますから足を自分で確保しておきたくて」
「船乗りか、それは難しそうだな。
内陸にある王都では、それよりモリブデンで探す方が早いのでは」
「ええ、フィットチーネさんにも頼んではありますが、どうしても難しそうなんですよ。
ただの水夫ならいくらでも見繕えるらしいのですが、船を扱う技量があるとなるとなかなか。
だから、ドースンさんにもダメもとで頼んでおります」
「ダメ元とはひどいな。
でも、その判断は妥当か。
まあ、いいか。そんなものが出たら確保しておいてやるわ」
「ありがとうございます」
「で、レイさんはこれからどうするね」
「ええ、伯爵の予定次第ですが、先方の都合がつき次第挨拶に伺ってから領地入りします」
「そうか、大したことは本当に何もできないが、それでも何かあれば声をかけてくれ。
できる限り協力するから」
「ありがとうございます」
ドースンさんの所にも挨拶ができたので、一度店に戻ると伯爵邸に行っていた使いの者が戻っていた。
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