第160話  問題山積

 

 今回の件で、俺が王様から頂いた褒章などや今まで溜めてきたお金をかなりつぎ込んだので、この後が少し心配になる。

 来年の税金どうしようかと考えているとフィットチーネさんから提案されたというよりも教えてもらった。

 俺の奴隷たちの登録先を全員シーボーギウムに変えたらどうかと言うことだ。

 王都にいる奴隷たちも登録はここモリブデンになっているので、毎年の奴隷にかかる税金はモリブデンで支払うことになるが登録先の変更は手数料がとられるがそちらの方が絶対に良いとか。

 なにせシーボーギウムでは税金を支払う側からもらう側になるのだ。

 もう、俺は税金を支払う必要が無い……5年間は免除だが、領地にかかる税は支払う必要があるらしい。

 まあ、5年の猶予があるのだ。

 それまでに荒れた領地をどうにかするか。


 となると、本当にシーボーギウムに入りびたりになるか。

 やはり、ここモリブデンとの交通の手配はしておきたいので、少なくなった手持ち資金を使って小型の船の手配を顔の広いフィットチーネさんにお願いしておいた。

 ついでに船長も手配もお願いしてあるが、当分はここまで帰るときに載せて頂いた船のチャーターで済ますしかない。


 今はお金も心もとなくなってきたのだが、それ以上に人手が足りない。

 奴隷ばかり使っていたが、それ以外の手を考える必要がありそうだ。

 俺はモリブデンでの仕事をさっさと済ませて、チャーターしている船に乗り込み、もう一度シーボーギウムに向かうことにした。


 ここを出てから5日ばかりが経過していた。

 その間、この地に残した者たちの尽力により、集めた患者たちは概ね回復の方向に進んでいる。

 この分ならばあと数日もすればここから出しても問題ないレベルにまでは回復するだろうが、いかんせん患者たちの状態が良くない。

 これは病気のためと言うよりも今までの生活状況のひどさからくるものだろう。

 特に幼少の子供たちの病状がひどかった。

 元々基礎体力のある獣人たちでは、ある程度の病気くらいは持てる体力でどうにかなっただろう。

 王都まで連れてこれるくらいの状態であった大人たちはほとんどが獣人たちだった。

 これは、獣人たちへの差別感情のために夜中の村や町で人族の奴隷たちが売られていたのもあるだろうが、それよりも基礎体力の問題もあったのだろう。

 だが、まだしっかりと体力をつけていない子供たちは、特に人族の子供たちからどんどん罹患して、死んでいったと聞いている。

 さもあらん、ここまで罹患せずに済んでいた獣人の子供たちも弱れば病気に勝てない。

 親を病気や、奴隷などで失えば、子供は途端に生活状況が悪くなる。

 食べられ無くなれば簡単に病気に負ける。

 だからこそ、集団免疫が獲得されつつあるシーボーギウムでも、いまだに新たな患者が発生しているのだ。

 そういえば、その新たな患者って、俺がこの町を離れてからはどうなのだろう。


「いえ、指示もありませんでしたし、探しておりませんが」

 ああ、これは俺が悪かった。

 すぐに護衛として連れてきているハーフダークエルフのガーネットに、地元住民を数名手伝いに付け探させる。

 当分ガーネットには、そういう仕事をしてもらうことにした。

 俺がこの町に着いた時にお願いした時と比べるとはるかに連れてこられる病人は少なくはなっているが、それでも毎日のように数人はここに運ばれる。

 そのほとんどが孤児のようだ。

 でないと勝手に連れてこようとも子供の親が黙ってはいないだろう……貴族屋敷に連れていかれるので庶民はあきらめているのかって、まあ、とにかく孤児が多いというのが分かった。


 たまに身寄りの無い老人も含まれているのだが、別に構わないが、……ちょっと待とうか。

 俺は食べられずに弱って病気になると理解しているのだが、間違いではないよな。

 確認すると『何を当たり前なことを』って顔をされるが、そのようだと答えてくれる。


 根本から間違っていた。

 とにかく、この町には孤児や身寄りの無い老人が多い。

 これは流行り病で死亡したり、そのために奴隷落ちしたりして、今まで面倒を見てくれていた大人が急にいなくなったのが原因だ。

 これも確認するまでもないが、一応確認しても、答えは同じ。

 ならば、根本原因を絶たないと堂々巡りばかりで一向に解決しない。

 俺は方針を変えて、とにかく身寄りの無い子供や老人を集めてもらった。

 流石に数が多かったので、屋敷に入れるわけにもいかず、屋敷傍の空き家を探してもらい、そこに集める。

 動ける老人たちに、子供の世話をさせ、その代わりに飯を食わして、当面の問題を抑えることにした。

 幸いなことに老人たちは、俺の要請を快く引き受けてくれた。


 さて、問題は食料だ。

 執事のバトラーさんに聞いても、当然のように前の領主たちがここを去る前に全てを持ち出しているので、まともに食料などないらしい。

 また、町の有力者に聞いても、この町の食糧も底をつきかけているらしく……これって大問題じゃないか。

 俺はすぐに船を使って、もう一度モリブデンに戻り病院の共同経営者に手紙を書いた。

 『助けてください』とな。

 ちょっと違うが、カッパー商業連合にいる奴隷商に連絡すると、すぐに返事が来た。

 それによると俺が前に助けた人は大店のご主人で主に食料品を扱っていたらしく、今では息子に店を譲ったのだが、俺が困っていると知ると自分が今度は恩返しする番だと張り切って食料品を集めているらしい。

 とにかく安いもので、保存のきく物をできるだけ沢山シーボーギウムに直接届けてほしいと件の奴隷商にお願いを残して俺は、もう一度シーボーギウムに戻った。

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