第159話 領地の状況

 

 そこから、町の様子などを聞いていく。

 流行り病は、峠を越えたらしいのだが、根絶しているわけでもなく、まだ寝たきりの者が多くいるらしい。

 この屋敷も、使用人などは領主の家族がこの地を去る時に解雇されて、屋敷の面倒を見るために執事だった目の前の者と、数人の使用人が残っているとのことだ。

 当然無給だそうだ。

 無給での仕事など、言語道断だ。

 すぐに、俺は屋敷にいる人を集めてその場で雇うことにした。

 まず、俺たちの相手をしてくれた老紳士は、この屋敷で執事として代々働いていたそうだ。

 そんな人を解雇しておいて行くなんて、だから町が崩壊するんだと俺は思ったが、今はそれどころではない。

 とにかく町の機能回復が先決だ。

 バトラーさんから、現在の町の様子を聞いて、今後の相談をするが、この町で中心となる人がいないか聞いてみると、前のギルド長が残っているらしく、町長も前にはいたようだが、流行り病であっけなく、現在、町長の娘が子供と残っているという話だ。


 俺はとりあえず、その二人をこの屋敷に呼んでもらった。


 それほど大きな町でないので、また、俺が呼んだのは二人とも街の有力者かその家族だったこともあり、この屋敷のそばに居を構えていたこともあって、すぐに集まってくれた。


 そこから打ち合わせだ。

 打ち合わせの席で街の様子を聞くと、まだ流行り病は終わっていないことが理解できた。

 今、町や周辺で病気になっていないのは一度病気にかかったかそれとも運よく免疫ができたかで、集団免疫とでも表現すればいいのか、それにより小康状態を保っているようだ。

 尤も免疫という概念すらない世界なので、誰もそのことには触れないが、しかし、まだ罹患している患者は多い。

 ただでさえ、人が少なくなって、町の機能維持にも問題が出始めているというのに、何も手が打たれていない。


 『野戦病院』ふと、この言葉が頭をよぎる。

 一丁やるか。


 そこで、集まってもらった町の有力者に患者をこの屋敷に集めてもらうことにした。

 幸いパーティーなどが主な仕事としている貴族屋敷だけあって、広い部屋はたくさんあるようだ。

 病状により部屋を別けることにするが、人手も要るか。

 よし、応援を呼ぼう。


 俺はアイテムボックス通信を使いモリブデンに連絡を取る。

 アイテムボックス通信とは俺が今勝手に命名したことだが、共用のアイテムボックスに手紙を入れて連絡を取ることは今までもしていたことなので、問題はない。

 あるとすればレスポンスか。

 手紙を入れたかどうかはすぐにでもわかると思うのだが、返事をくれるかどうかは相手次第だ。

 まさか無視はされないとは思うが、こればかりは待つしかないか。


 返事はすぐに来た。

 手紙に書いてあることには、誰を派遣するかということ、モリブデンから船をチャーターして良いかということだった。

 理由まで丁寧に書いてあり、とにかく船ならば二日とかからないらしく、また、フィットチーネさんからの情報では、モリブデンからシーボーギウムまで何度も行ったことのある船乗りも多くいるようなのだとか。

 俺は、とにかく手隙な者を船で急ぎまわしてもらうことにした。


 屋敷に患者を集めるのに二日を要したので、全員を集め終わるころにモリブデンから応援の船がやってきた。

 その際、町はちょっとした騒ぎになる。

 流行り病が流行してから初めての船らしい。

 で、応援で駆けつけてくれたのは病院関係者全員と、元男爵家でメイドをしていたものの半数が来てくれた。

 病院の方は、俺がいないこともあり患者が誰もおらず暇していたそうだからかえって良かったらしいが、元メイドの半数が来てもモリブデンは大丈夫かと思う。

 今回シーボーギウムまで手紙を運ぶ依頼を受けたのはダーナだが、俺とナーシャはいつも通り一緒に行動するとして、今回ばかりは道案内として奴隷になったばかりのハーフエルフのジーナと王都から護衛として元騎士爵のスジャータと来ていたから5人で移動してきた。

 それで、今日就いたのが病院組のキョウカにムーラン、それに魔法研究組で、病院の手伝いをしてもらっていることになっているガーネットとサリーにマーガレット、それと俺のお世話をするとかで元男爵家のメイドであるゼブラにネルヒにラナの三人が来たから多分俺の奴隷たちの半分くらいが集まったような気がする。

 総勢で10名になったので、人手は十分だろう。

 何より治療にたけている二人が来たから、任せても安心できる。


 まず集めた病人たちの診療だが、どうもインフルエンザに近い病気のようだ。

 高熱が続く病で、ただでさえ栄養状態の良くない者たちからどんどん死んでいったとか。

 まるでスペイン風邪の再来かと……本当は全く知らないのだけど、昔テレビドラマでそんなのを扱っていたものを見た記憶がある。

 特効薬などないから対症療法で、高熱には頭から冷やすように魔法でたくさんの氷を作ってもらい冷やしていき、とにかく順番にクリーンの魔法をかけて身ぎれいにはしていく。

 後は水分と栄養が取れればいいのだけれど、こういう時には俺たちの定番になってきているアポーの実をすりつぶしたものを食べさせる。

 これで一週間持てば多分治るだろうし、何より発病したものをこの屋敷に隔離していくので多分これ以上の広がりはなさそうだ。

 二日ばかり様子を見て、問題なさそうなので、俺はひとまず数人連れて船で戻ることにした。


 結局、モリブデンに戻るのは俺の世話をすると言ってついてきた元メイドの三人とナーシャとダーナだ。


 モリブデンからここまで応援を運んでもらった船がまだいたのでと言うよりも、往復の依頼だったとか。

 待機した二日間もしっかりと経費として取られるらしいが、それでも歩いて帰るよりも格段に早くつく。

 帰りは風も良かったのか早朝シーボーギウムを出ても夕方にはモリブデンに着くことができた。

 早速色々と手配に協力してくれたフィットチーネさんにお礼に出向き、最近の様子などの情報を仕入れる。

 今回のことで痛感したのが、シーボーギウムでの人手についてだ。

 また、モリブデンとの連絡のためにも船が欲しい。

 前に買った船はまだ改装中だし、それに貿易でもするわけでもないのでもう少し小さめの船が欲しくなった。

 それに何より船を動かす人手、特に船長などの高級船乗りの奴隷が欲しい。

 フィットチーネさんに聞いてみると、いない訳ではないが、なかなか簡単に見つかるものでもないらしい。

 一般の船員については俺が預かっている奴隷たちを購入したらと提案されたので、預かっている奴隷商に声をかけてみた。

 しっかりと請求されたが、買い手のついていない奴隷たちについては快く応じてくれた。

 しかし預かっている奴隷たちの半数はすでに買い手も付き、良かったら返してほしいとも言われたので、モリブデンにいるときに面倒ごとは済ませようと預かっている奴隷たち全てを奴隷商に引き渡した。

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