第158話 先触れの知らせ

 

 この世界で生きていくのなら、これは定番なので、できるようにならないと……やっぱ無理。

 俺の横で首を刈っているのが目に入ると、思わず吐き気がしてきた。

 正直、これが慣れてくるのだろうか、いや、慣れてほしくもないかな。

 今まで王都とモリブデンに行き来していたけど盗賊の被害にあっていない……当たり前か、俺たちまともに街道を歩いてこなかったので、盗賊たちに出会っていないだけだった。

 しかし、知らない所に向かうのに街道を外れるのなんか命取りになるからできないし、諦めるしかないか。


 だんだんとシーボーギウムに近づいて来るに従い、出没するのも盗賊から魔物に代わっていく。

 今も魔物もちらほら見えてくる。

 このあたりの魔物はジーナの方が詳しいから、ジーナにアドバイスをもらいながら、魔物狩りをしていく。

 これなら俺も慣れているので問題はない。

 尤も魔物に限らず、捌くのは無理だ。

 まだ、俺にはあのグロ耐性は無い。

 そのうち慣れるとは思うのだが……こういう作業はダーナたちが率先して処理してくれるので、慣れそうにないが、俺もやりたいとも思わないのでそのままだ。


 一つ気になったことと言えば、元騎士のスジャータたちだが、盗賊には無類の強さを見せたのだが、魔物相手ではどうしてもぎこちなさが見て取れる。

 まあ、魔物相手に慣れたダーナや、この辺りで冒険者をしていたジーナと比べればと言うことだが、これは慣れの問題だろう。

 人が獲物ではそれほどの違和感が無かったが、四つ足など人との違いの大きな魔物相手ではやりづらそうに見えた。

 これも経験さえ積めば問題はないだろうと思うが、ただ気になっただけだ。


 そんなこんなで森を抜けるとすぐに町が見えてきた。

 ちょうどこの場所が高台と言うこともあって、遠くまで見るので、まだここからなら一日はかかるらしい。


 翌日、目的のシーボーギウムに入る。

 町には城壁も立派な門もあるが、肝心の門番がいない。

 そりゃそうか、この町を治める領主がいなのだから、その部下がいる方がおかしい……そうなると領地経営が心配になってきた。

 誰かしら残っていることを期待して、誰もいない門をくぐり、町に入ると閑散としている。

 流行り病では相当被害にあったと聞いているので、相当死者も出ただろうが、流石に見える範囲には死体は放置されていない。

 良かったよ、そんなことになっていれば、すぐにでも死体を片付けないとすぐに別の病気が蔓延してしまうが、どうやらそこまでひどい状況ではなさそうだ。

 俺たちは街の目抜き通りを通り抜け、ひときわ立派な屋敷の前までやってきた。

 当然、屋敷にも立派な門はあるが誰もいない。

 しかし、王都で拝領した屋敷と比べはるかに程度がいい。

 これならばすぐにでも使えそうだ。

 まあ、少なくともここを治めていた貴族がいた当時には誰かしらこの屋敷に詰めていたはずなので、手入れはされている。


 しかし、どうしよう。

 誰もいないのでは困る。

 俺は大声で中に声をかけてみる。

 しばらくこんな感じでしていると、町の方から一人の老婆がやってきた。

「あんたら、よそ者か?」

「はい、王都から手紙を運んできた冒険者です」

「そうか、それなら中に用があるのだな。

 ここらは流行り病で、全滅だよ。

 治めていた領主様も責任を取らされたとかで、いなくなるし……でも、まだ中に人はいるはずだな。

 門は空いているはずだから中に入ると良い。

 わしが付いていてやろう」


 親切な老婆はそういうと大きな門の隣にある通用門を開けて屋敷の敷地内に入っていった。

 俺らも老婆に遅れないように付いて行く。

 老婆は屋敷の通用門からさらに中に入り大声て知り合いを呼んでいる。

 しばらくすると、一人の女性がやってきた。

「今日は、どうしたね」

「あ、いや、あんたらにお客様だ」

「へ?」

「王都から、この度この地を治めることとなったヘーター名誉男爵からの手紙を運んできました。

 誰に渡せばいいのでしょうか」

 スジャータが気を利かせて屋敷勤めの女性に声をかける。

「へ?

 そうですか、お客様でしたか。

 しばらくお待ちください」

 彼女はそういうと中に入っていく。


 それからはそれほど待たされることなく、屋敷のさらに奥に案内された。

 ここまで案内してくれた老婆に、俺はお礼を言ってから、いくばくかの金を渡す。

 老婆は困って受け取ろうとはしていなかったが、俺が『気持ちだから』と言って無理やり受け取ってもらった。


 屋敷にある応接のような部屋に通されるが、流石に調度品の類はあらかた持っていかれて、がらんとしている。

 流石に全部を持ち出すことはかなわなかったのか、応接の椅子やテーブルなどはそのままの状態であった。

 俺たちは、椅子に座って待っていると、一人の老紳士が中に入ってきた。


「お待たせしました。

 現在は、誰も屋敷において責任を取れるものがいないので、私が承ります」

「わかっておりますが、領主の交代時に国から役人は来なかったのですか」

「はい、何の音沙汰も無しです」

「そうですか。

 では、いかがしましょうか……これは、今度この地を治めることになるヘーター名誉男爵のお国入りを知らせる書面ですが、しきたり通りにはいきそうにないですね」

「お国入りですか……それは良かった。

 これで、この地も少しはましになりますかね。

 しかも、呪われたと言われるこの地にお国入りまでしてくれるのですか」

「はい、男爵は……」

「スジャータ、もういいよ。

 仕来り通りにはいかないのだろう。

 なら面倒ごとを省いて、話を進めよう」

「は??」

「ですが……」

「すみません、私がその男爵だったけか、そんなものを先日仰せつかった……え~い、面倒な言い回しは抜きにさせてもらうよ」

「あなた様が、今度の領主様ですか」

「ああ、お国入りする前に前触れを出さないとまずいと、うちの連中が言うので調べると、こういう前触れって冒険者に託すものらしいのだな。

 俺たちも、その冒険者なので自分で書いたものを、そこのダーナに受けてもらい運んできた。

 正直街の様子も知りたかったのだが、実際どんな感じだ」

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