第162話 伯爵への挨拶

 

「レイ様。

 伯爵邸訪問の件ですが、いつでもいいとのことで明日うかがうようにしておきました」

「ありがとう、では明日一番でお伺いして挨拶だけでもしておくか」

「それで、シーボーギウムにはいつご出発で」

「ああ、早ければ明後日かな。

 そのつもりで準備しておいてくれ」

 そうなのだ。格好をつけるわけでもないが、あ、格好つけか。

 とにかく貴族と言うのは見栄を張らないといけないらしく、とりあえず王都の店を閉じて、全員を引き連れて一度お国入りすることにしている。

 馬車などの手配は、以前の王宮でのパーティーでお世話になった商業ギルドで手配してもらっている。

 一度お国入りした後は、王都の店も最低限で回して、できる限り早急に人の手配をしていく。

 幸い、あちらでも人は雇えそうなので、領地経営については現地の人を使って回していくつもりだ。

 獣人の奴隷たちの多くもなけなしの資金を使ってモリブデンで売られてきた獣人の奴隷も押さえてあるし、どうにかなるだろう。


 翌日、借りてある馬車を使って世話になっている?いや、俺が以前世話をしたと言うか病気治療で恩を売った伯爵邸に向かう。

 貴族の世界では俺の方が世話になっている扱いらしく、王都の店を出る前に手土産の石鹸セットに加えて秘蔵の酒まで用意して出かけることになった。

「ここまで気を使う必要があるのか」

「もうレイ様は立派な貴族様です。

 寄り親となる伯爵様には相応の対応を心掛けませんと非常にまずいことに巻き込まれますよ」

「そうそう、気が付くとお取り潰しになるとか」

「以前のご主人様のようにね」

「レイ様ですと人脈もそれほどでもないですし、下手をすると……」

 どうも貴族の付き合いには細心の注意が必要なようだ。

 下手をするとトラブルにでも巻き込まれて物理的に首が飛ぶとか……ひゃ~~、勘弁してほしい。

 それでも、男爵家に務めていたメイドたちを奴隷として抱えていることがこれほど心強く感じたことが無い。

 はっきり言って俺は貴族の常識が無いので、今回ばかりは非常に助かっている。


 でも彼女たちにも限界があるようで、どうしても男爵の屋敷を維持するには執事も必要になるそうだ。

 それも経験の豊富な執事がってそんな奴いるかっていうの。

 船長ですら見つからないのに、貴族屋敷に務めていた執事など圧倒的に数が少ない……と言うか、そういう人は野にいない。

 皆、どこぞの貴族の屋敷に務めている……あ、領地にいたな。

 お国入りしたら、そのあたりについて助言を貰おう。

 すでに雇ったことになっているので、俺がお国入りしてもいいよな。

 少し心配になってきた。

 できるだけ急いでお国入りしよう。

 となると、船でお国入りした方が絶対に速いな。

 そのあたり大丈夫かも、これから会うカッペリーニ伯爵にでも聞いてみよう。

 そのための手土産だ。

 石鹸の詰め合わせなどはほとんどお金がかからないが、秘蔵の酒は俺が無理言ってバッカスさんの店から買ったものだ。

 正直人に上げるのが惜しいものだが、メイドたちの言う通り俺は貴族の生態について素人だ。

 彼女たちの助言に従うしかない。


 そんなことを考えていると、すぐにカッペリーニ伯爵のお屋敷に到着した。

 俺も今では男爵様だ。 

 なんと正面の玄関から中に入れてもらえた。

 前に来た時には正面の玄関かと思うくらい立派な玄関だったが、有力配下や貴族以外に使われる入り口だったようだ。

 今目の前にある玄関と比べると格が落ちるというか、うん、俺でもわかるくらいの差はある。

 でも、前見たのが正面玄関と間違えたくらいに立派だったから、これなんかどう表現すればいいのか、貴族のお屋敷は凄い。


 執事の方の案内でカッペリーニ伯爵の執務室に通された。

「お忙しい所私のためにお時間を頂き感謝いたします。

 些少ではありますがこちらをお納めください」

 俺はそう言ってから執事の方に酒と石鹸のセットを手渡した。

「あ、いや、こちらが呼んだのだ。

 そんなに気を遣わずとも良かったのに。

 ありがたく頂くとしよう。

 貴殿から頂く石鹸は非常に良い物で、うちの嫁や子供たちには絶大な人気があるので、正直私も助かる。

 嫁の機嫌が良くなるからな」

 カッペリーニ伯爵はそう冗談を言ってから俺を応接に案内してくれた。


 メイドが入れてくれたお茶を飲みながらのお話し合いになった。

 これから向かう領地についての情報を教えてもらった。

 これには非常にすまなそうにしていたが、だからなのだろう領地の様子を調べてくれたようだ。

 俺も、隠すと後が面倒なのでダーナたちが先触れで手紙を届けたことを伝え現地の様子を調べていたことを話してみた。

「流石商人だと褒める所かな。

 情報の重要さが分かっているようなので、この分ならばどうにかなりそうだ。

 しかし、済まなかった。

 私が気を利かせて叙爵したばかりに陛下の目に留まったしまったようだな。

 それも病気治療と言う特技があると知れ渡ったようだし、そのために難しい領地を下賜されてしまったな」

「いえ、貴族になったばかりですので、私が言ってもいいかどうかわかりませんが、領地を下賜されるというのは非常に栄誉なことかと、ありがたく思っております。

 また、そのきっかけを作っていただきましたカッペリーニ伯爵には非常に感謝いたします。

 病気については多少の知識がありますので、どうにかなるかとは思いますが、頂いた街から人がかなり出ているようで、そのせいかわかりませんが食料事情を悪くなっているとか」

「ああ、確かにそういう報告も聞いたな」

「ですので、情報を貰った直後に知り合いに食料の手配を頼んではありますが、心配になり、急ぎ国入りをしようかと考えております」

「それがいいな。

 準備の方はできているのか」

「ええ、私なりに準備はしましたが、王都から出発する際の見栄えまでは……それが私を引き上げてくれましたカッペリーニ伯爵の顔の泥を塗るようなことにならないかと心配ではあります」

「確かに男爵には部下と言うのがいないか……」

 伯爵は何か考えているようだ。

「貴族としての部下はおりませんが、商売をしておりましたから多少の配下はおります。

 尤もほとんどが奴隷ですが。

 今回は王都の店をお休みして全員を連れてまいります……ですが、それでも伯爵様のような貴族からしたら人数も少なく……」

「うん、うちから見送りの兵を出そう。

 流行り病に対しての出陣のようなものだ。

 問題ない。

 うちから見送りを出すから対面も保てるし、大丈夫だ」

「それは……ありがとうございます」

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