第163話 初のお国入りに向け王都を出発
その後、俺の知りたかったことを聞いてみた。
お国入りするにはルートに決まりがあるかどうかということだ。
「それは、どういうことだ?」
「はい、うちの者が先触れで向かった時には20日ばかり要したようですが、私が本拠を置いてあるモリブデンでシーボーギウムについて聞くと船ならば遅くとも4日もあれば着けると聞きました。
王都からモリブデンまでは5日もあれば着くことができますから、モリブデンから船を出してもらえば早くシーボーギウムに付ける計算ですが、そういうルートで向かっても良いかどうかお聞きしたく」
「国入りの際の道順などに決まりはない。
それどころか、因縁のある貴族が途中にある場合などは避けて通ることもあるらしい。
あいにく私は王都にしか屋敷が無いので縁が無かったのでな、詳しくは知らんが」
「国の政にかかわるお仕事をされております伯爵様ですから、王都に常におられませんとそれこそ国が立ちいかなくなります。
私のような商人にとって伯爵様が常に王都にいてくださることの方がはるかに重要かと思っております」
少し『よいしょ』してみました。
「あははは、確かに大臣職を拝命しているが、そこまで重要な立場では無いわ。
それより、船での国入りでも問題無いぞ。
それよりも、そうすぐに船を用意できるのか。
確かに貴殿の領地であるシーボーギウムはかつては栄えた港町ではあるが、流行り病や、それ以前の政のまずさから少し前から寂れてきたはずだ。
たとえモリブデンが国一番の貿易港でも定期的な船便はとっくに無くなったと聞いているぞ。大丈夫か」
「そこはご心配なく。
情報を得た時にすぐに船を手配しております。
それに一部の部下も船で先にシーボーギウムに向かわせており、その際使った船もモリブデンに戻ってきたとギルドを通して報告を貰っております。
今回の国入りにはその船を使おうかと考えておりました」
「それなら問題は無い。
なら、いつ王都を出るかと言うことだが、急ぎたいよな」
「はい、先ほど伯爵様が見送りのための兵を出してくださるとお言葉を頂きましたから、私の方の準備は終わっておりますので、その伯爵様のご都合がつき次第と言うことで」
「明日……流石に難しいか。
明後日なら出せるな。
男爵、明後日の出発でも良いか」
「はい、そんなに早く準備していただけますと助かります。
では、明後日伯爵様のお屋敷から出発したく」
「ああ、そうだな。
貴殿の屋敷もまだ準備もできていないようだし、そうしよう」
俺は一旦伯爵邸を出てから、一度王都に拝領している自分の屋敷に向かった。
うん、ここはまだ荒れたままだが、庭の雑草くらいは刈り取られていた。
王都にいる店の連中が依頼でも出したのだろう。
まだ、頼んでいる屋敷の外装や外壁などの修理は手つかずだが、当分は無理そうだ。
現在王都で働いている人は全員シーボーギウムに連れていくので、改修作業の監督ができない。
一応依頼は出してはあるが、どうしようもないな。
諦めの気持ちを持って店に戻り、みんなを集めて今後のことについて話し合った。
「レイ様は、明後日ご出発のご予定ですか」
「ああ、明後日カッペリーニ伯爵のお屋敷からシーボーギウムにお国入りする一行を出発させることになった。
伯爵様から見送りのための兵まで貸してもらえる」
「それは良かったですね。
少なくとも王都にいる貴族からは侮りを受けることは無くなります」
「そのようだな。
少なくとも格好は付くし、何よりカッペリーニ伯爵の顔に泥を塗ることが無いのが良い」
「明後日ご出発ですか」
「ああ、頼んでいるように、王都にいる全員を連れて行くから準備は頼むな」
「任せてください。
今日から店を休ませてもらっておりますし、私たちの用意と言っても大してありませんから問題ありません」
「それは良かった。
野宿が続くが、頼むな」
「二十日ですか、少々きつそうですが……」
「あ、いや、違うぞ。
俺たちは一旦モリブデンに向かい、そこから船でお国入りすることになっているから、4日かな。
急ぐからと言っても馬車を使うからこんなものか。
俺だけならば3日でつくのだが、王都のそばでは他と同じような速度で移動するが、丘を越えたら急ぎ移動になるからそのつもりで」
ここにいる全員は何度もモリブデンとの間を行き来している。
その際、普通の速度で移動していないので、俺の話した予定でも驚かない。
慣れたものだと言った感じか。
それでも翌日は、準備で店も騒がしくしていたが、それも午後までで、夕方には落ち着いた。
引っ越すわけでもないので、家具類はそのままということもあり、久しぶりに全員で大運動会をそれも夕方からしたものだから翌日には俺は死んだような顔をしていた。
カッペリーニ伯爵のお屋敷では外まで見送りに出てくれた伯爵に心配されたのだが、正直に理由も言えるはずなく、適当にごまかせてもらった。
早々に伯爵邸から伯爵の私兵に見守られて王都を出る。
王都を見下ろすあの観光名所の場所までくると、ここで伯爵の私兵たちとはお別れになる。
私兵の責任者の方にお礼と、少しばかりの酒を渡して、伯爵に今回の件でのお礼を伝言して別れた。
普通ならばこの辺りで一泊でもするのだろうが、まだ日も十分に高いので、俺たちは先に進む。
まあいつものごとくだ。
完全に暗くなるまで馬車を走らせた。
日もとっぷり暗くなるころに、馬車を止めることのできる場所を見つけていた。
尤も、このあたりの地形など完全に把握している。
普段はあまり使うことは無いが、それでも馬車移動でのモリブデンとの行き来に何度も利用しているし、何より大店の店主の様にいちいち村などにも泊まらない。
費用がかさむというのもあるが、何より時間が惜しい。
早朝に出発するにも一苦労するくらいならば数日野宿の方がはるかに楽だ。
そう考えると、王都とモリブデンとの行き来に一週間かかるというのもほとんどがそういう無駄の部分があるのだろう。
俺らに移動にはそういった無駄、ある意味そういう無駄も必要なこともあるのかもしれないが、今は時間が大事だ。
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