第164話 船でのお国入り


 

 予定通り4日後にはモリブデンに到着する。

 モリブデンの屋敷で一泊して明日船で向かうことにしてある。

 で、俺はフィットチーネさんの所に挨拶に向かった後に、娼館を訪ねる。

 本当に久しぶりだ。

 俺が娼館を訪ねると、さっそく三人のお姉さん方にきつい皮肉を言われた。

「すみません、何故か本当に忙しくて」

「でも、することはしているのよね」

「移動中はさすがに……」

「なら今日は、お相手してくださるのでしょうね」

「……はい……」

 今ではお姉さん方はほとんど客を取っていない。

 もっぱら裏方に徹しているが、美貌は一切衰えを見せていないのは不思議だ。

 そんなお姉さん方を三人一遍に相手できるのなんかそれこそ王侯貴族でも無理だ……あ、俺貴族になったんだ。

 でも、陛下でも無理な相談らしく、俺の今の様子を他の貴族どもが知れば、多分殺される。

 そんな天国にもかかわらず、俺の心は晴れない。

 うれしくない訳ではないが、やはりきちんと対価を払うとなると……

 金貨で300枚はくだらないかも。

 でも、することをそれこそ深夜までしてその日を終えた。

 翌朝早くに娼館の風呂を久しぶりに借りてさっぱりするが、そこはやはり娼館だ。

 しかも今ではすっかり定番となっている泡風呂の元祖。

 しっかり三人に泡まみれにされて朝から気持ちよくされた。

 俺の心の中のタクシーメーターならぬ支払いメーターはさらに加算されていく。

 金貨で500枚はくだらない。

 もう支払えないぞ。

 でも、王都のドースンさんやバッカスさんならば平気で支払いそうだ。


「レイ様。

 本日の支払いは結構です。

 ですが、貸しですよ。

 レイ様の御領地がすっかり立ち直りましたら、私たちを呼んでくださいね。

 レイ様の後宮に側室として収まりますから」

「は?

 私の側室になってくださると……」

 王侯貴族がどんなに望んでも決して受けようとはしなかった身受けをしろと言ってきた。

「今は冗談としてお聞きください。

 ですが気持ちは……」

「察してくださいね。

 後これ、餞別です。

 なんでも向こうは大変なご様子だとか。

 少しでも足しにしてください」

 そう言って金貨の入った巾着袋を手渡してきた。

 普通ならば受け取らないが、餞別として渡された以上受けない訳にはいかないが、本当にお姉さん方のやさしさに心が打たれた。

「あれ、レイさん泣いてます?」

「ええ、うれしくて、お姉さん方の心配りに感激しております」

「大げさな。

 ですが、そろそろお時間では」

「はい、頑張ってきます」

 俺は、お姉さん方に見送られながら娼館を出た。

『太陽がまぶしいぜ』

 思わず独り言を言っていた。

 照れ隠しなのだが、そう言って恥ずかしさのあまり周りを見渡すと店の前には……

 皆目が笑っていない。

 俺が娼館でよろしくしていたのはバレバレだ。

 とりあえず、王都の店も全員で来たので、こちらもと考えたのだが奴隷でなく預かっているジンク村の子供たちと、そのまとめ役のガーナだけがモリブデンでお留守番となった。

 尤も今回連れていく大半は帰りの船で返すので、長くとも2週間もあれば帰ってくることになる。

 それにガーナたちには仕事があり、簡単には休めない。

 相変わらず相当な数の注残を抱えているのだ。

 それもそろそろどうにかしないと、王都の屋敷の修理もできないな。

 まあ、そのあたりは追々考えていくとしよう。


 なんだかんだとあったが、無事にモリブデンも出発できた。

 ここからは数日船の中でやることが無い……いや、モリブデンで肩透かしにあった人たちのケアだ。

 昼間から交代で、運動会を始める。

 流石に俺たちだけでないので遠慮はあるが、それでも散々待たされていたのにもかかわらず娼館なんかで現を抜かす俺への当てつけか、皆かなり張り切っていたので僅か3日の日程だったが、俺は干からびるくらいにまで搾り取られた。


 シーボーギウムに入る直前にはシーボーギウムに残っているガーネットにアイテムボックス通信を使って連絡を入れていたので、俺たちが港に入る時には町総出で出迎えてくれた。

 初の国入りとしてはまずまずの結果らしい。


 しかし、貴族の初の国入りって、面倒だな。

 やたらと派手だ。

 ここも生活は楽でもないのに、領民総出に近い形で出迎えるのなんて、残った連中は何をしたのだろう。

 相当領民に無理でもいったのかな。

 最初から恨まれると、この後が大変なのにな~。


 船はどんどん船着き場に近づいて、接岸した。

「レイ様。

 最初に降りてください」

「え?

 俺が一番先に降りないといけないのかな」

「ええ、最初に降りて、手でも振ってくださいな。

 できれば一言二言領民に対しておっしゃってくださりますと良いのですが」

 俺は元男爵家のメイドたちに言われるままに最初に船から降りた。

 俺が船着き場に着くと周りから一斉に歓声が沸く。

 ひょっとして、俺は歓迎されているとか。

 船着き場からの喧騒は歓声だよな、罵声じゃないよね。

「レイ様。

 先に進んでください」

 メイドたちから怒られた。


 先の進むと、ここの屋敷を任すために急遽雇った執事さんのバトラーさんが俺を出迎えてくれた。

「ようこそ、旦那様」

「バトラーさん。

 戻ってきましたよ」

「お早いお戻りで、私どもは大変助かります。

 また、食料の手配の件で、本当に領民は助かりました」

「え?

 何で知っているの」

「ええ、昨日食料の乗せた船がこの町に到着されて、旦那様をお待ちしております。

 領民に対しては、先日お手紙で相談しましたが、屋敷に残る食料を放出しておりますから、運ばれた食料まで手を付けてはおりませんから、ご安心ください」

「ご主人様。

 そろそろご移動願えますか」

 俺とバトラーさんが会話していると、領民たちの整理をしていたスジャータにナーシャ、それにダーナのこの町に残していた奴隷たちが俺をせっつく。

 確かに、俺の国入りを歓迎してくれる領民たちには、悪意はないだろうが、それでもこれほどの人が集まれば警護側としては心配になるのだろう。

 でも。集まったといっても渋谷の交差点じゃあるまいし、いや、地方の駅前程度くらいか、ざっと見て百人程度なら何ら問題もなかろうとは思うのだが、もう少し人数がいるかもしれないが、でも、ここはその指示に従おう。

 何せ、頼んでいた食料を運んでくれた人が屋敷で俺を待っていてくれるというのだ。

 挨拶はしておかないと社会人としてまずいだろう。

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