第165話  救援のフェデリーニ様とラザーニャ様

 

 バトラーさんに連れられて屋敷に戻ると、食料をたくさん運んでくれた商人が待つという部屋に向かった。

 部屋に入り挨拶をしようとすると、向こうの方から話しかけてきた。


「レイさん、あ、いや、男爵様になられたのでしたね。

 不敬でしたか」

「え、ひょっとしてあの時の……」

 俺は懐かしそうに話しかけてきた人を見た。

 見覚えがあるが、思い出せそうになかったのだが、その隣に見覚えがある人が立っていた。

 見覚えがあるはずだ。

 彼はモリブデンにある病院の共同経営者の奴隷商だ。

 名前は……確か……一生懸命に思い出そうとしていると、俺がまずいと思ったわけでもないだろうが、カッパー商業連合で彼のところから都合付けてもらったキョウカが奴隷商に話かけている。

「フェデリーニ様、この度は男爵に代わりお礼を申し上げます。

 また、フェデリーニ様にお話を繋いてくださりましたラザーニャ様。

 本当にカッパー商業連合という遠くからご足労頂き大変感謝いたします」


 そうだよ、あの奴隷商の名前はラザーニャ様だ。 

 そうそう、カッパー商業連合国にあるラザーニャ奴隷商の主人だ。

 それに、一緒のいる人はそのラザーニャ様のお知り合いというと、俺も知る人なんかいないはずだが……、カッパー商業連合ではラザーニャ様の恩人の治療しかしていなかったし……

 え!、ひょっとして。


「もしかしますとフェデリーニ様はカッパー商業連合で病に伏していた……」

「ええ、分かりませんか、男爵」

「よしてください。

 ラザーニャ様と同様に私のことは昔通りレイでお願いします」

「では、レイ様と呼ばせていただきます」

「ええ、そうしてくださりますと正直ありがたく」

 そこから立ち話で、話し込んでしまったようで、気を利かせたバトラーさんがメイドたちに茶を用意させてきた。

「ご主人様。

 お客様をこちらに」

 メイドだったタリアが上手に俺をいなしてくる。

「おお、そうだな。

 立ち話とは大変失礼しました。

 こちらにどうぞ」

「フェデリーニ様、ラザーニャ様、こちらにどうぞ。

 茶を用意しましたので」

 元メイド長で、うちでも中心的な働きをしているゼブラがお客様である二人を応接に案内している。

 落ち着いてお二人と世間話を始める。

 しかし、本当に見覚えが無いと言ったら語弊もあるが、あまりの変わりように俺が分かるはずもない。

 そう考えると、即座にお二人の名前を間違えなく言うことができたキョウカは凄い。

 それに、一奴隷でしかなかったキョウカですら知っているということは目の前のお二人は少なくともカッパー商業連合国内においては相当な有名人だということか。

 まあ、病に臥しているときには俺と一緒に会っているはずだが。

 後でキョウカを褒めておこう。

「すっかり、お元気そうでなによりですね」

「ええ、あの時は死ぬかと思いましたが、レイ様に治して頂きましたから。

 ですが、商売の方は発病と同時に息子に譲っていたので今では暇しておりましたから、やや太りましたかね」

「いえ、私が見るからに健康そうで、太ったと言われるほどでもありませんよ」

「レイ様にそう言っていただけると安心できますね」

 そこから雑談交じりに商売の話にあっていく。

 今回フェデリーニ様が運んでくれた食料は当面の分としては十分ではあるが、まだこの地方の自立までには足りそうにない。

 まあ、俺たちが付近から魔物を刈ってその肉を回そうとも考えてはいるが、流石に魔物の肉だけと言うのも問題がありそうだ。

 そんなこともあるので、しばらくは定期的にカッパー商業連合国から穀物類を輸入していこうと考えていた。

「そういうことでしたら、私が最後まで責任を持って面倒を見ます」

「え? そこまでしていただけるのですか」

「ええ、商売の方もとっくに息子に譲っておりますし、あの時にはもうだめかと思い、息子に商売を譲りましたが、私も隠居するには、正直退屈でして……」

「それでしたら、最後までご面倒を掛けます。

 ……

 あ、そうだ。

 それでしたら港に、店をご用意しますので、そこを使ってもらえますか」

「え?

 店を頂けると」

「はい、この町もだいぶ寂れたようですが、聞くところによりますと、つい最近まで相当はぶりも良かったとか」

「ええ、私も若いころ何度か来たことがありますよ。

 そのころは活気がありましたが、領主様が変わってから……」

 急にきな臭くなってきたのか、話題が政治向きになってきた。

 話題を変えるという訳でもないが、本来の話題に戻して「ええ、ですので港も寂れ、ほとんどの店が建屋を残して出て行ってしまいました。

 多分手を入れないと使えないかとは思いますが、それでよければお使いください。

 好きなものを選んでいただいて結構ですから」

 俺はそう言ってからバトラーさんに指示を出す。

 俺よりもこの町に詳しいバトラーさんのことだ、おすすめの店の跡くらいはすぐにでも見つけることだろう。

 フェデリーニ様は大変喜んでいるようだが、これは俺にもと言うよりもこの町にとってもメリットが大きい。

 何せカッパー商業連合国においてそれなりに勢力を持っていたフェデリーニ様がこの町に店を持っていただけるのだ。

 確かに信用あるフェデリーニ商会はフェデリーニ様のご子息が引き継いで、全く別な商会となるが、それでも今まで培ってきた信用というものがある。

 先ほどの雑談でも出たが、フェデリーニ様の健康が戻った今では彼のご子息と比べても何ら引けを取らないだろう。

 今までの取引先や信用などは譲られた商会にあるが、それでも彼の持つ人脈はいささかも衰えてはいない。

 その証拠に、この町に運んでくれた穀物の量とその値段だ。

 急ぎ仕事であったはずなのに、足元を見られることも無くかなりの量を仕入れて頂いた。

 俺でも即金で払える額だったこともあり、この場ですぐに支払い、引き続きの取引を頼んだ。

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