第166話 商人誘致 新たな商売のタネ
「まだまだこの町は復興の途中です。
ですので、お譲りします店について税などは頂きませんが……」
「ええ、覚悟しております。
何より我々商売人には『ただより高い物はない』と教わっておりますから」
「この辺りにも、そのようなお言葉があるのですね。
安心しました。
私の育ったところでもあります。
その他には『三方良し』と言うのがあり、売り手良し、買い手良し、世間良しの三方全てが良いのが取引の極意だとも教わっておりますから」
「良いお言葉ですね。
私もそれを見習いたいと思います。
それでレイ様、お話の続きは」
「ああ、そうでした。
来年は無理ですが、再来年くらいには他の町に合わせて税を頂きます。
その際に、お世話になっておりますフェデリーニ様の店にも区別なく税を頂きますからそのおつもりで」
「ええ、そうしていただかないと私もつまりません。
ですが、来年からでも良いのでは。
私が見た限りでは、レイ様の手腕は病気を治療する時以上に優れたものを感じておりますから」
「おだてないでください。
今はとにかく、領民の命を救うのでいっぱいです。
それももうじき、フェデリーニ様のおかげで片が付きます。
そうしてから復興に取り掛かりますよ」
フェデリーニ様との会話に夢中になりすぎて、彼を紹介してくれたラザーニャ様が置いておかれた。
俺は慌てて話をラザーニャ様に振って、彼にも商売のネタについて話しておく。
ラザーニャ様は俺がモリブデンで獣人奴隷の扱いについてかなり興味を持たれているようで、俺に詳しく聞いて来る。
どこに興味を引くところがあるのかわからなかったので、俺は奴隷の健康面についての注意だけを話していたが、それが不満であったように、直接聞いてきた。
「レイ様。
ずるいですよ。
隠しても、もうばれておりますから教えてください」
「え?
何のことですか」
「ですから、丘者を短期間ですっかり船乗りにしたそうではないですか」
ああ、あの件か。
でも、あれって船乗りにはしていない。
ただ、体を鍛えさせるために船乗りのする総帆展帆の訓練について説明しておいた。
「ラザーニャ様。
まず誤解しているところから説明させていただきます」
俺はこう言ってから、モリブデンでのことを丁寧に説明していく。
たくさんの奴隷を預かったので、まずは宿泊所を用意するところから始めたことだ。
いきなりのことで、簡単には準備できないが、幸いなことにモリブデンは大きな港町で、中古船の商いもあっちこっちで行われており、廃棄船の類の売買までもがあった。
俺は、外洋に出るつもりもないが、とにかく奴隷たちの寝泊まりするところが欲しくて、ほとんど廃棄船のようなぼろ船を買い取り、そこで奴隷たちの面倒を見たことを説明したが、なかなか核心に行きつかないことに業を煮やしたラザーニャ様が俺の話しを遮る。
「レイ様。ごまかしは効きませんよ。
私は直接モリブデンで見ておりますから」
「ラザーニャ様、ごまかしてはおりませんよ。
そもそも私は船乗りを育てているつもりもありませんから。
その証拠に船乗りの奴隷たちをあっちこっちに声をかけて探しておりますし」
「それは船長や、航海士などでしょう。
船員は別ですよね。
私は船員の教育について聞いておりますから」
「それでしたら、先ほどから説明しております通り、奴隷たちの面倒しか見ておりません。
何度も言いますが、十分に食べ物を与えて、清潔に保ち、十分に休ませる。
これが大事です。
生きていくうえでの基本ですかね。
それから初めて、今度は体を動かせます。
十分に休んだ体ならば、今度はかなりの負荷かける運動をさせます」
「負荷?
なんですか」
「少しきつい運動と言えばいいのでしょうか。
十分な広さのある所ならば走らせるだけでもいいのですが、後は狩りも良いですね。
ですが、私のところは港町で、広さも無ければ狩りに行くにしても少し距離もありまして、数人ならばそれも良いでしょうが、何せ人数が人数ですからね」
「それと、船員とどういう関係があるのですか」
「ですから、港町で体を動かす場所を探しておりますと、たまたま出港する船を見て気が付きました。
私の奴隷たちは船に居るのならば総帆展帆ができる。
それになにより、あの総帆展帆はそうとう体を使うと聞いておりましたから、暇さえあればそれをさせておりました。
まったくの素人ばかりでしたので、知り合いの船乗りにいくばくかのお金で彼らの指導をしてもらっていたら、他の船からなんか変な評価を貰う羽目になったのですよ」
「え?
レイさん、それ本当のことですか」
「ええ、本当のことです」
「でしたら……」
「ええ、ですが今から考えるに、それがかえって良かったのかもしれませんね。
普通船乗りになるにしても、港の中で総帆展帆の練習などしませんから、実際の航海で慣れるまでには相当苦労するのでしょうね。
そういう意味では基本を十分に練習させるのは何をするにしても早いのではないでしょうか」
「そうですか、なら私でもできそうだということですか」
「ええ、港や、波の静かな湾内で、そればかり練習すれば割と簡単に身につくのではないでしょうかね。
普通はそんな無駄なことはさせないでしょうが、船乗りを育てるという意味では決して無駄にならないと思いますよ」
「あ、それならレイさん……」
前にもこの表情をしたラザーニャ様を見たことがある。
あれは病院の経営についてだが、なんだかいやな予感がする。
「私が船乗りの候補や指導できる者たちを用意しますので、この町で船乗りを育ててみませんか」
ほら来た。
もう逃げられそうにないかな。
そこから、シーボーギウムで船員教育のための学校について共同で立ち上げる羽目になった。
もうこれはモリブデンでの再来だな。
もういいか。
俺はバトラーさんに港に近い空いている屋敷を探してもらった。
それに、使っていない船を探すように手配しておく。
それと、アイテム通信を使い、訓練中の獣人さんたちをできるだけこちらに来れるように手配を頼む。
できれば改良中の船をこっちに運べればいいのだが、あれはもう少しかかるとのことだ。
それに何より、航海士を始め船長など船を操る人材に全くと言って良いほど見込みがない。
だが、そのあたりについては、ラザーニャ様が探してくださるとのことだ。
そちらに期待しよう……あ、そうだ。
それなら、いっそ海洋大学ならぬ船乗り養成の学校でも作るか。
『俺はこの世界の航海王子になる』ってか。
まあ、この世界では海洋の魔物も多く、長距離の海運が盛んでない。
そのあたりにも研究の余地はある。
何せ、陸上でも魔物のいる世界ではあるが、陸上では立派に商売ができている。
護衛のための冒険者などもおり……ならば、海運でも海上の護衛を考えればできないはずはない。
実際に、数は少なくとも海運は少なくとも人を運ぶということにおいては今でもあるのだ。
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