第52話 順調なはずの商売
翌日から、俺たちは総出でポテチを作り始めた。
とにかく毎日が忙しい。
ほとんど毎日ポテチを作っているが、あの母娘が来たおかげで、ポテチの製造は今では母娘がメインで作っている。
俺たちが手伝うのは芋洗いか、薄くカットする作業くらいだ。
本当にあの親娘を買うことができて良かった。
ダーナの時にも思ったが、この世界の奴隷って本当に素晴らしい。
俺の商売では、今では無くてはならない存在になっているし、私生活でも絶対に必要な存在だ。
あの母娘は忙しく昼間は働いてくれるのに、夜には俺に親子丼を提供してくれる。
俺は、母娘が体を張って提供してくれる親子丼を堪能しながら、口直し?にダーナのサービスを楽しむ生活を毎夜毎夜楽しみにしている。
今では、このためにこの世界に来たんだとすら思っているし、なにより、この楽しみのために働いていると断言できる。
まあ、とにかく俺のところにいる奴隷たちは働き者だ。
昼も夜も分け隔てなく俺に尽くしてくれる。
本当にありがたいものだ。
そのおかげもあって、忙しい中にも俺にはやりたいことがあれば時間は取れるようになってきている。
だが、最近ちょっと気になることができた。
ポテチつくりには材料のジャガイモと塩はもちろんの事、油がそれも結構大量に必要になる。
その油も材料ではないから、消えてなくなる訳では無いが、使っているうちにいわゆる酸化?って奴、油の質が悪くなるのだ。
ただでさえ、買ってくる油に質が良いとは言えないのに、使っているとどんどん悪くなっていくのだ。
俺は別に日本の企業のような品質管理をするつもりはないが、それでも食べ物にあまり妥協はしたくないめんどくさい気質の日本人ということもあって当然我慢できなくなってきている。
今のところは、そうなるちょっと前に油を買ってきた別のに入れ替えて対応しているが、そうなると、代えた悪くなった油の処理が問題として残る。
そのまま裏庭に捨てても良いが、そうなると環境破壊と言われそうで小心者の俺にはできない。
同じ理由で流し台から流すことを躊躇しているので、今のところ俺のアイテムボックスに仕舞っている。
別にまだ容量の限界が見えてこないから、何ら実害はないが、それでも産業廃棄物がたまっていくのは気分のいい話ではない。
それでいて、ポテチの需要は減るどころは、飛ぶように売れている。
作る傍から、全部売り切れてしまう状況だ。
俺たちは最初こそフィットチーネさんの娼館と王都のバッカス酒店とだけ取引をしていたが、最近王都での売れ行きに続き、ここモリブデンでもフィットチーネさんの付き合いのある高級娼館だけでも欲しいとの注文が入るようになっている。
流石に、全ての注文を全部受けている訳ではないが、最低限の注文は受けざるを得ない状況だ。
フィットチーネさんの娼館はモリブデンにおいては最後発の店で、先発組の娼館との付き合いもあるので、俺が断ることで、フィットチーネさんの顔を潰すことになりかねない。
こちらの生産能力の関係もあり、うちから酒の卸も併せて取引のある所に限り注文を受けている。
これが日本なら抱き合わせ販売として公取委辺りから文句の一つでも雇用ものなのだが、あいにくこの世界には公取委は無い、知らんけど。
まだどこからも、文句は来ていない。
いや、商業ギルドを通していくつかの酒販売をしている店から『調子こいてるんじゃないぞ』って脅しはあったが、それもごくごく一部だ。
なにせ今のモリブデンはフィットチーネさんの娼館のおかげで、付近の町だけでなく王都からのお客様も増えている。
王都の至宝の噂に連れられてモリブデンに来る紳士諸君が増えているのだ。
当然高級娼館は、どこの誰かも分からないような客は取らないので、遊びに来た紳士諸君の多くはフィットチーネさんの娼館には入れない。
しかし、せっかく遊びに来たので、そのまま帰る紳士は居ない。
結果、中級クラス以下の娼館へ流れる客が増え、総じてモリブデンの娼館や娼館に物を卸す店には空前のバブルが起きている。
先の文句を言ってきた酒店もいくらか恩恵の利益はある筈なのだが、文句を言ってくる店の全部がそのバブルの恩恵にあやかれていない店だという処までは掴んでいる。
他の多くの酒店は俺の売る高級酒以外でしこたま儲けが出ているし、何より、今までも急な需要についていけてないので、売りたくとも高級酒を売れないでいる。
逆に、ポテチは買えなくとも良いがせめて高級酒だけは売ってくれという娼館も多くある。
それならと、俺はできる限り期待に応えようと高級酒を販売していくが、そうなると今以上に頻繁に王都に行かないといけなくなる。
幸い、モリブデンには母娘が残るので、ポテチの供給は止まらないが、俺が王都に訪れる回数が増えると、必然的に王都に卸す分が増えてしまい、品薄状態が続くという悪循環が続いている。
だが、俺がちょくちょく王都まで出向くのでそのおかげもあってか、俺の売っているポテチは、幸いなことにうちで作っているとは思われていないようだ。
俺が王都でも一二を争う酒店から酒を仕入れていることは知れ渡り始め、それと同時にこのポテチも知れ渡るようになったために、他の娼館からは王都で酒と一緒に仕入れていると思われている節がある。
この誤解は俺たちにとっては幸いで、注文の量を抑え、時には断るための言い訳にもなっている。
尤も断る時には『王都から仕入れができない』とは言えない。
流石に誤解は放置しているが、嘘は言えない。
嘘がばれた時に、信用が一挙に落ち、以後商売ができなくなる恐れがあるからだ。
なので、断る時には必ず『バッカス酒店との取引の関係で』とだけ言うようにしている。
これなら誤解が解けた時の言い訳にもなる。
『うちで作ってはいるが、王都に運ぶ分があるので』と言い換えることもできるからだ。
まあ詐欺みたいなものだが、流石に急な増産はできそうにない。
しかし、商売が軌道に乗ったかと思ったら、とんでもないことになってしまった。
あまり忙しくなりすぎると、母娘の負担が大きくなって、夜も疲れすぎて親子丼を楽しめなくなってしまう。
これでは本末転倒だ。
親子丼をいつでも楽しめるように新たな……ちが~~う。
将来的には違わないが、今の欲求はそれ以上に深刻なものがある。
前々からその欲求はあったが、そろそろ我慢の限界も来ている。
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