第53話 そろそろ増員を
風呂でも親子丼を楽しみたいという欲求がそろそろ抑えきれなくなってきているのだ。
いや、違った。
違わないけど、確かのその思いはあるが、それ以上に純粋に風呂に入りたい気持ちの方が大きい。
たまにはゆっくりと湯船につかりたいとも思っている。
それに、みんなにもゆっくりと湯船につかって疲れを取ってもらいたいという気持ちもある。
しかし、どうしたものかな。
この屋敷に新たに風呂場を作るのは難しいかもしれないが、どうにかしたい。
毎日そんなことを考えながら今日も海に寄ってからジンク村に樽の買い出しに向かった。
もう完全に顔見知りとなった木材加工の職人のガントさんのところで、今回も大量に樽を仕入れている。
「レイさんや。
相変わらずたくさん買っていくな。
うちはもうかるから良いが、商売繁盛で羨ましいな」
「ええ、おかげさまで商売の方は順調ですがね……」
「お、なんだ。
商売以外に悩みがありそうだな。
これか、若いね~~」 と言いながらガントさんは小指を立てて来た。
この世界でも通じるのか指サイン。
「いえ、女じゃありませんよ。
おかげさまで、商売の方が順調のおかげで、そっちの方は間に合っていますがね」
「それなら何だ。
良かったらレイさんならお得意さんなので、話なら聞くぜ」
このおやじ絶対に暇つぶしだな。
まあ、俺の方もこのおやじに知られても構わないので、風呂について相談してみた。
木工職人のドワーフなら、桐の浴槽位なら作れそうだったので、ダメもとで相談してみた。
「実は、自宅に風呂が欲しくて。
でも、簡単に作れそうになくてね。
ガントさんの知り合いで凄腕の大工に知り合いがいませんか」
「レイさん。
もう少し詳しく教えてくれないか」
俺はモリブデンの自宅について詳しく説明してみた。
「う~~ん。
そうなると今の自宅に風呂場を作るのはちょっとな。
まだ中庭には土地があるのだろう。
なら、そっちに建物を作ってみたらどうだ。
値は張るが、そっちの方が早いのではないかな」
「やはりそうなりますか。
………
そうですね。
ひょっとしてガントさんが大工仕事も引き受けてくれるとか」
「バカ言え。
ここを離れる訳に行くかよ。
それよりも、腕の良い大工なら知っているから紹介してやるよ」
「そうですか、それで構いませんので、ご紹介ください」
「直ぐにはと行かないが、そうだな。
モリブデンに行かせるから、それで良いかな」
「ええ、それで結構ですので、お願いします。
できましたら、急いでほしいのですが」
「ああ、分かった、分かった。
任せておけ」
ガントさんと約束できたので、後はモリブデンで待っていれば良いだけだ。
もう一度ガントさんの店に樽を買いに来る前には、少なくとも工事にかかって欲しいものだ。
俺はそう思いながら、モリブデンに帰っていった。
相変わらず、商売は順調だ。
当然順調というからには、それに付随するように忙しさも漏れなく付いてくる。
俺の職場だけはブラックにはしないと、この世界に来た時から心に誓っているので、ブラックにはなっていないとは思うが……
10日に一日だけ休みって、ひょっとしなくともブラックなのでは。
まあ、深夜まで働かせてはいないが、ベッドでの大運動会は除くが、あれも入れると完全にブラックだ。
夜中の大運動会はレジャーだ。
あれはレジャーだから除外すると、辛うじてブラックじゃない……ブラックじゃ無いよな。
まあ、この世界では俺のところはかなりホワイトな職場とは言われているから良いが、直接ホワイトとは言われていない。
それらしきことは聞いているから、まだ大丈夫とタカをくくっていたが、俺から言わせると完全にブラック認定されるレベルになっているな。
早くも誓いが破られてしまう。
どうにかしないとまずい。
「ご主人様。
そろそろ油を替えた方が良いですか」
カトリーヌが薄く切ったジャガイモを揚げながら俺に聞いてきた。俺は油を見たが、確かにこれはとっくに替えないといけないレベルになっている。
この世界では、油は傷んでも高価なために少々酸化した位では替えることは無いという話だが、そんな傷んだ油でポテトチップスを作っても美味しくない。
「カトリーヌ。
油を代えよう。
火から鍋を降ろすから、離れてくれ」
一応力仕事になるし、何より熱い油だ。
やけどでもさせたらそれこそ大変だ。
綺麗なカトリーヌさんと楽しめなくなる。
あくまで自分本位の理由だが、奴隷たちからは優しいご主人様で通っている。
大きめな壺に、傷んだ油を入れて、俺のアイテムボックスから、買い置きの油を入れて、火にかける。
「直ぐに温まるかとは思うが、十分に油が熱くなるまで待ってくれ」
「はい、ご主人様。
でも、これ、ものすごい売れ行きですね。
作れば作るだけ売れるのなんて、もっとたくさんの人を集めて作りませんか」
「ああ、それも考えてはいるがな。
一応、簡単に作れるだろう。
製法は秘密としているから、その作り方が広まるのは避けたいかな」
「それでしたら、私の様に奴隷を買うとか」
「それも考えているが、買うって言っても借金奴隷だとな」
「何かまずいのですか」
「返済が終われば解放されるから。
まあ、どうせ隠しておいても同じようなものはすぐにでも作られるから、もっと他のことも考えないとな。
でも、カトリーヌの提案は考えておくよ。
あまり忙しすぎてもな」
「いえ、私は良いのですが、その……ご主人様が、昼も夜も忙しすぎて……お加減を悪くしないかと心配なんです。
私だけでなく、ダーナさんも心配しておりました」
「ああ、ありがとう。
心配を掛けているようだな。
気を付けるよ。
なら、この後任せても良いかな」
「はい、後は任せてください」
「すみません~ん。
レイさんはいらっしゃいますか」
俺がカトリーヌと話していると、店先の方から声が聞こえて来た。
一応、店舗の方は開けてはいるが、まともに商売できるはずもなく、店の中には、何も置いていない状態なので、直接俺に取引を望む者以外は訪れない。
そんな店先の方から声が聞こえたので、また高級酒の注文かと俺は、ここを後にして、店先の方に向かった。
「私がレイですが、何か」
店先まで来ていたのは商業ギルドの受付嬢の一人だった。
そう言えば、前に何度か見たことのある人だ。
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