第145話  獣人奴隷と流行り病

 

 この国の人は、特に町部にいる人は獣人に対してあまり良い感情を持っていないらしい。

 しかも今度ははやり病のあった地域からだというので、奴隷としての魅力に欠けるらしく、早くも奴隷商の間では押し付け合いが始まっているらしい。

 まあ、これもお王都に限っての話で、モリブデンにはあまりそういう雰囲気は無かった。

 尤も獣人の奴隷も奴隷商には少なかったような気はするが。


 当然港に行けばそれこそ各国から来ている獣人奴隷だけに限らずいるんな種族の奴隷も人も多かった。

 多分、大都市なのに獣人に含むところが無いのはそういった環境のせいかもしれない。


 当然人手が足りない鉱山近くでは、獣人の方が力があるぶんだけ人気もあるようなのだが、余裕のある大都市ではモリブデンを除くが多かれ少なかれこの国では偏見があるらしい。

 王都で商売をしている奴隷商にとって手間がかかる分だけどこの奴隷商も獣人を毛嫌いする風潮がある。


 あっちこっちに手広く商売をしているドースンさんは偏見を持たないようだが、それでも売りにくい獣人には気を付けているらしく俺に声をかけてきた。

 ドースンさんは俺のところに獣人のナーシャがいることから俺が獣人に対して悪感情を持っていないと踏んでの提案だとか。

 それに何より、病の専門家ならばはやり病の地域からでも受け入れてもらえるのではと話を持ってきている。


 そう、今回王都でオークションすら開かれない理由が、その流行り病が原因だ。

 奴隷の多くが辺境にある街だったところが流行り病で街ごと全滅したとかで、どこも流行り病が去った今でも病を警戒して奴隷落ちした人たちへの関心は低い。


 要は売れそうにないというのだ。

 それでも偏見のない人種はまだ王都に来るまでに少しづつ売れていくらしいのだが、獣人だけはだめだそうだ。


 なんでも今回の流行り病の原因が獣人たちが持ち込んだとかいうデマが飛び交っており、王都に来るまでに相当ひどい扱いまで受けているとかで、その噂だけが先行して王都に着いたそうだ。


 それで早速王都の奴隷商の間で、ババ抜きならぬ奴隷たちの押し付け合戦が始まっているらしく、ドースンさんも情報を得たすぐ傍から営業に走り回っている。


 その営業先に俺が選ばれたという訳だ。


「奴隷ならばうちもまだまだ人は足りていないので、購入するのは構いませんが、それでも選ばせてもらいますよ」

「そんなことは当たり前だ。

 顧客の希望を聞かない商売などありえない。 

 それで、どれくらいならば買えそうか?」

「そうですね、価格次第ですが5人くらいまではどうにか……」

「5人か……もう一声いかないかな」

「ちょっと待ってください。

 うちも予算が青天井ではないので、とにかく価格と、何より獣人さんたちを見てみないと何とも言えませんよ」

「そりゃそうだ。

 悪かったな。

 割と大口の取引だと、予算をあたえられたらこちら任せが多かったものでな」

「え、お任せなんかもあるので?」

「ああ、最も鉱山労働者のようなとにかく人のいるところの話だが。

 それとたまにだが貴族の兵士用にというのもあるが、大口なんかそれくらいか」

「それならなんで俺にも話が来るのですか。

 駆け出しの商人なのに、鉱山経営者や貴族と一緒にしないでほしかったですよ」

「それもそうか。

 レイさんがあまりに豪快に奴隷を買ってくれるものだから、勘違いをしていたが、そうだよな。

 レイさんのところは商店なんだよな。

 商店主が奴隷を買うのなんかそれこそ一生のうちにどれくらいあるか、そんなものなのに、この前も訳ありのメイドをまとめて買ってもらったし、どうしても大口扱いになってしまうな」

「俺、付き合う奴隷商を考えないといけないのかな」

「おいおい、冗談でもよしてくれ。

 十分にサービスするからな。

 まあ、あと数日で王都に着くらしいので、着いたら、いの一番で知らせるから、その時に改めて商談しよう」


 そんな会話をしてドースンさんの店から出ていく。

 確かに、王都とモリブデンの間に定期便を作りたいし、そうなると人手もいるようになるから今回のドースンさんの話は悪いものでもないが、それはあくまで人を見てからだ。

 うちの風土に合わない者はたとえ安くとも買うことはできない。


 そんなことを考えながら王都にある自分の店に戻った。


 店に入るなり、店長を任せているカトリーヌからとんでもないことを聞かされた。

「レイ様。

 カッペリーニ伯爵よりご招待状が届いております。

 なんでもご子息の快気祝いのパーティーだとか。

 その席で、此度のお礼もしたいとのことでぜひ参加してほしいとのことでした」

「断ることって……」

「できません」

 すかさず返事を返してきたのは貴族屋敷に勤めていたタリアだった。

 さすが貴族の屋敷でメイドをしかもかなり上の役職だったらしいタリアが貴族社会での常識を俺にぶち込んでくる。

 俺は平民扱いなので、貴族からの要請、お願いなど断る選択肢はありえないらしい。

 まあ、いいか。

 俺もそろそろ後ろ盾を必要とはしていたころだし、恩がある分だけそうそう悪いことにはならないだろうが、それでもちょっとヤバいかもしれない。

 幸いなのはこういうパーティーは夫人同伴が基本だ。


 なので、タリアを連れて参加できるのが唯一の救いだ。


「わかった、任せるから上手に処理を願うよ」

「はい、手土産は本来ならばお持ちするのですが、此度は私どもの慰労を兼ねているそうですから、お持ちせずとも問題はありません。

 ですが、うちの石鹸の詰め合わせ程度くらいはお持ちしておきます」

「それで格好がつくのならば任せる」


 なんだか、本当に面倒になってきている。

 そろそろ真剣に国外脱出を考えないとまずいか。


 パーティーまでは一〇日ほどあるので、一度俺たちはモリブデンに戻ることにしている。

 普通ならば考えられない日程のようだが、俺たちならばどこにも寄らなければ往復でも6日もあれば問題ない。

 余裕を見ても7日もあるので、とにかくすぐに王都を出て、モリブデンに戻った。

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