第77話 初顔合わせ
でも、分かるな。
確かに、一々職員が立ち会う訳だし、手間もかかるから分かるが、それでもその手間をかけても上回る利益もありそうだ。
まあ、今回は色々と勉強にもなったし、銀貨で5枚……日本円で5千円か、少しばかり惜しくもあったが、そんなものか。
俺はオークション会場を出ると、一度ドースン奴隷商に戻ることにした。
奴隷商に着くと、既にドースンさんは帰っていた。
俺はすぐにドースンさんの執務室に通された。
「おお、やっと戻ってきたか。
てっきり、ここで大人しく俺を待つと思っていたのだが」
「いえ、私がここに居ても邪魔になるだけですし、『時は金なり』と申します通り、商人にとって、無駄な時間ほど嫌うものでは」
「レイさんの言う『時は金なり』とは初めて聞いたが、正に至言だな。
まあ、俺も暇じゃないから、さっさと済ませるが、レイさんの依頼の件は、大丈夫だ。
最終的に金50枚となるが、それでいいな」
「はい、問題ありません。
金貨で50枚になると、その他に税金や何やらで、かなりかかりますね」
「何を言うか。
それらを含めて金貨で50枚だ。
犯罪奴隷を俺からレイさんに金貨で20枚で売ることになる。
それにより、税金で金貨10枚、保証金で更に金貨10枚。
後の10枚は手数料だ。
俺としても、今回はまけてやらない。
また、お化けにでもなったら、悔しいしな」
「そんなことは……
でも、今までも色々として頂いておりますし、値切ることはしません。
それに、オークションにでも出されればそんな金額では済まないこともあるのでは」
「ああ、そう言うこともしばしばあるかな。
まあ、今回の手数料も、それなりに使ったわけだし、まけることもできない事情もあるな」
「事情ですか」
「ああ、今回は俺の方から犯罪奴隷の行き先に横槍を出したようなものだから、それなりに筋を通しただけだが」
「え、ひょっとしてドースンさんにかなり無理をさせてしまいましたか」
「無理といえば、言えなくもないが、俺も奴隷商だし、それに法律で一定数の犯罪奴隷を扱わないといけないから、全く無理という訳でもない。犯罪奴隷を主に扱っている同業者に少しばかり渡して、筋を通しただけだ。
気にするな。
金でどうにかなることだし、実際に金でどうにかした訳だからな。
その金が金貨で10枚となっただけだ」
「え、それじゃあ、ドースンさんの儲けは?」
「ああ。それも大丈夫だ。
犯罪奴隷ってのは、国からは一律で金貨10枚で卸されるから。
主に犯罪奴隷を扱う奴隷商は、中には赤字になるものもあるので、俺たち他の奴隷商は無理を通さないのだが、今回はそいつに無理を言ったために、その分の保証代わりかな。
俺の儲けは、金貨10枚で仕入れた訳だから、売値の金貨20枚から引けば分かるだろう。
しっかり金貨で10枚を貰うから」
「それを聞いて安心しました。
でも、相当大きな借りを作りましたかね」
「それなら大丈夫だ。
直ぐに返してもらうから。
ということで、また手紙を頼むな」
「分かりました。
お姉さん方には、またドースンさんに世話になったことも伝えておきます。
でも、流石に次は料金まではまかりませんよ」
「ああ、分かっているよ。
それよりもこの後時間はあるか。
もしあるようなら、一度確認だけでもしに行くか」
俺は、今度はドースンさんと一緒に騎士の詰所に向かった。
詰所では偉そうな人がドースンさんに話しかけている。
話が終わったようで、ドースンさんがこちらに来たので、聞いてみた。
「確認って、どうすれば……」
「ああ、今連れて来るそうだ。
今さっき、判決も出て、予定通り犯罪奴隷として俺に卸されることになった。
俺は、ちょっと支払いなどを済ませて来るから、ここで少し待っていてくれ」
ドースンさんは先ほど話していた偉そうな人と一緒に部屋から出て行ったが、俺らはこの場に取り残された。
どう表現すればいいのか、この場所は、そう無理に表現するならば玄関ホールのような場所で、多分、一般人が犯罪などでは無く普通の要件で騎士たちに面会するのに使われる場所なのだろう。
部屋の端でしばらく待つと、ドースンさんではなく、二人の騎士に両脇を固められた一人のドワーフ女性が連れられてきた。
彼女だ。
ガントさんの姪に当たる女性だ。
前に店に、あのいけ好かないイケメンドワーフと一緒に来た人だ。
彼女も俺を発見したようで、俺の方に向かおうとしたところを両脇の騎士に力ずくで止められていた。
「あの~、モリブデンの店主様ですよね。
私です。
前に調査にお伺いした大工です」
彼女は必死に俺に訴えて来る。
俺らがゆっくりと近づいて行くと、彼女の脇にいる騎士たちは、一応俺たちを警戒しながら聞いてくる。
「騎士様。
彼女の知り合いになる、モリブデンで商人をしておりますレイと申します。
少し、彼女と話をさせて頂けませんか」
二人の騎士は顔を見合わせてから、彼女から少し離れてならいいだろうとなった。
彼女は必死に、自分の無罪を俺に訴えて来るが、判決で身柄の処分先まで決まっている状態では俺にはどうしようもできない。
俺は、丁寧に自分には力が無いから無罪を証明できないことを説明したうえで、あのイケメン屑野郎についても話して、彼女には奴隷となる未来しかなかったことも説明してみた。
その説明を聞いた彼女は大声で泣き出した。
彼女の泣き止むのを待ってから俺は優しく話しかけた。
「良いかな。
俺はジンク村のガントさんから君を探してくれと頼まれたんだ。
彼には商売を始める時に世話にもなったし、今も取引をしているから、俺はその依頼を受けた。
君を見つけることができたら、一度家に連絡くらいするように説得を頼まれたのだ。
駆け落ちなんか短絡的な行動を取った結果だとしても、あまりな状況なので、君を引き取ることにしたけど、犯罪奴隷であることは俺にはどうしようもない」
俺の説明を今度は静かに聞いている。
「俺も、犯罪奴隷がどのようなものかはよく理解していないのかもしれないが、連れのダーナもその犯罪奴隷だ。
できれば仲良くしてほしいけど、もし、君が本当に俺のことを嫌うのならば、引き取らないことも考えよう。
俺の勝手にしたことだし、余計なことになるかもしれないしな」
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