第76話 ぶっちゃけ

 

 どうも、文字は読めるようになってきてはいるようだが、ちょっと難しくなると意味が分からないと言っていた。

 しかし、よく勉強してくれている。

 全く文字が読めなかったナーシャが石鹸の出品情報を探し出したのだ。

 今俺たちが一番興味を持つ石鹸がオークションに出されるという。


「どれどれ……あ、これはな、香り付き石鹸と書かれているな。

 これだけでは良く分からないが、お姉さんが言っていた高価な奴のようだ。

 そんなのがオークションに出品されるのか」


 しかし、香り付きと書かれている物が金貨で5枚から競りに出されるのか。

 どれくらいで競り落とされるのか興味が湧いてきた。


 俺はすぐに商人ギルドの受付に行き、次のオークションに出される石鹸について聞いてみた。


「ここでは情報が少なく、分かり兼ねます。

 もし、お時間がございましたら、オークション会場の方に行かれては。

 あちらでは、保証金が掛かりますが、現物を手に取ってみることもできますが」


「え、現物を事前に見られるのですか」


「ええ、ですが、保証金が掛かります。

 これですと銀貨5枚が費用として発生しますが」


「ありがとうございます。

 オークション会場に行ってみます」


 俺はそう言ってから、二人を連れて前にお邪魔したオークション会場の受付に向かった。


 といっても隣の建物なので、直ぐに着いた。


「すみません。

 あちらの受付で聞いてきたのですが、次に出品される石鹸についてお伺いしたいのですが」


 受付で、話を聞いたら、割と頻繁に出品されるようで、どうも出どころはダンジョンで発見される物らしい。

 しかも、ほぼ毎回オークション開始の金額の2倍以上で落札されるとか。

 最近では3倍くらいまでは割と頻繁にいくらしい。


 3倍って、金貨で15枚ってことで、しかも落札者が商人だとしたら、それに利益を乗せるので市場価格と言っても店売りでは無いだろうが、金貨で20枚くらいにはなるのではと受付嬢が教えてくれた。


 金貨で20枚の石鹸って、まあ、貴族くらいしか使わないだろうが、それでも気になったので、現物を見せてもらうように頼んだら、前に聞かされていたようにしっかりと銀貨5枚を請求された。


 ここでケチっても必要な情報を得ることができないので、直ぐに支払い、受付嬢について、奥に向かった。


 きれいな箱に入れられた石鹸を直に見せてもらえた。


 大きさ的には俺の作った物よりも小ぶりで、これで金貨20枚、流石に引くわ。


 価格を決める時にお姉さん方の言っていたことが理解できた。

 しかも、香りと言っても、俺の作っているよりもはるかに弱く、これなら俺の作る無臭とそんなに変わりがないとも思えたら、受付嬢曰く、この香りが大切なのだとか。

 これが有ると無いとで全く価値が異なり、その香りの良し悪しで価格が変わるとか。


 今回見せてもらった石鹸は、その内でも割と高級品になるものだとか。

 これで、香りが強ければもっと価格が上がるらしい。


 これは冒険者にとって大切な収入源なのだから、俺が価格破壊をするようなら余計な恨みを買いそうだ。

 まあ、オークション開始金額が金貨5枚とあったので、金貨で10枚以上でないと店売りはできそうにない。


 他の娼館に卸す金額を金貨5枚とあの時には決めたが、これも最低金額だったと、この時初めて理解した。


 石鹸を大量に市場に卸すと危なそうだな。


 幸い店があるのはモリブデンだ。

 金貨10枚で買ってくれれば、あそこから他の国に卸す方が良さそうだ。


 こちらについてもその内考えよう。


「ありがとうございました。

 とても参考にはなりましたが、私には扱えそうにありませんね」


「そうでしょうね。

 貴族に伝手でもなければ、普通は手を出さないでしょうから」

 受付嬢はそう言うと、また石鹸を丁寧に箱に納めてどこかに運んでいった。


 俺の支払った保証金は、戻るものかと思っていたら、掛け捨ての保険料という扱いのようで、戻らないそうだ。


 まあ、この世界の相場は良く分からないが、嗜好品の類は皆高価であることから、その扱いに関してこのようなことはある程度予想はできた。


 しかし、石鹸を扱う商人はそれを支払っても確認しないと競りに参加もできないだろう。

 俺の疑問に先の受付嬢は、俺の心の声を聞いたのか聞かずとも答えてくれた。


「大抵の商人の方は、保証金を支払って事前に確認に参ります。

 石鹸はあなたで3人目ですから、少なくとも二人以上は競りに参加するようですね」


「二人以上?」


「ええ、何度も石鹸を競り落としている商人の方は、うちの会員がほとんどですが、ギルドから出している情報だけで競りに参加しますので。

 それだけうちのランク付けを信頼して下さっています」


 確かに、ギルドに張り出してあった情報には、どこぞの和牛でもないがランク付けがされていた。

 俺が見てもよく分からないが、どうも色、形、香りの三種類をそれぞれ記号化されて表示してあったが、そんなのは、その基準を理解していない普通の商人には分からないので、現物を確認するしかない。


 あ、その確認したのが俺の他に二人いるから、その二人はまず競りに参加するだろうし、そのほかにも常連さんの参加も期待しての見通しなのだろう。


 俺はセリに参加しないと言ってはみたものの、この受付嬢は果たして信じているかどうか。


 どうも、この競りに参加する人数も大事な情報のようだ。

 尤も、流石は商業ギルドだ。

 その辺りの情報はきちんと誰にでも公開している。

 だから俺にも直ぐに人数を教えてくれたのだろう。


 俺はそんなことを考えていると、ふと疑問が湧いてきた。


「あの~、オークションに出される物の確認ですが、物品だけに限りますか」


「物品?」


「ええ、奴隷もオークションに出されますよね」


「ああ、奴隷の確認がしたいのですか。

 できますが、今までそういった確認をされた方は居ませんね。

 だいたい、奴隷ですと、オークションの時に見られますし、奴隷商の方もその道のプロですから、それだけで十分なのでしょう。

 何より、出品される数も多いですから、保証金だけで相当なものにもなりますしね」


「え、あの保証金って出品物一つにつきいくらって云うのですか」


「そうです。

 厳密に言うと、最低金額で保証金が決まりますので、奴隷のように高額になるものだと金貨に手の届くものまで出ますから、今までもまずいませんでしたね。

 いればうちギルドとしてもありがたいのですが。

 結構、この保証金の売り上げってバカにならないものですから」


 ああ、とうとうぶっちゃけちゃったよ、この受付嬢は。

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