第75話 ドースンさんへの借り

 

 イケメン屑野郎は流石に殺人まではしていなかったようだが、一緒に捕まった連中は、王都に行き来する商人たちを襲っては強盗殺人を繰り返していたようで、イケメン屑野郎も殺人をするには時間の問題だったとか。


 で、肝心のガントさんの姪御さんはというと、何と一緒に捕まったとのことで、晴れて犯罪奴隷として人生を終えるらしい。


 え、どういう事?


 どうも、あのイケメン屑野郎は相当悪い奴らしく、彼を慕って一緒に王都まで来たガントさんの姪御さんを、王都に着くなり、非正規な奴隷商に売りに出した矢先に、騎士に乗り込まれて御用となったそうだ。


 それだけ聞くと、彼女はただの被害者、詐欺被害者の様に思うのだが、捕まったあいつは、あろうことか、騎士たちに対して『自分は被害者で、悪いのは全部あいつだ』と言い放ったとのこと。


 流石に騎士たちも、捕まえた犯罪者の言い分をそのまま信じることは無かったが、運の悪いことに、一緒に捕まった連中の証言で、あのイケメン屑野郎の連れだということが直ぐに騎士たちに知られて、あえなくご用。


 結婚詐欺については微妙だが、流石に強盗などの容疑からは外されているようで、それでも御仲間として、裁かれるとか。


 といっても、この世界、しっかりした司法制度など無く、かなりいいかげんに判決が下されるようで、明日にでも全てが片付くとギルドの窓口で教えてもらえた。


「凄いことになっていますね」

「この後どうしますか、ご主人様?」


 その場で呆然としていると、ナーシャ達から質問された。


 そうだよ、犯罪奴隷になったのなら、その奴隷を買うことはできる。

 流石にお世話になっているガントさんの大切な姪御さんだ。

 捕まったから、これで終わりとするにはあまりに不義理だ。


「そうだよな、犯罪奴隷になるようだから、ドースンさんのところにでも行って、相談しよう」


 俺らはすぐに、冒険者ギルドを出て、ドースン奴隷商に向かった。


 奴隷商では、入り口にいる人たちは俺のことを覚えてくれていたようで、直ぐに仲に案内してくれ、ドースンさんにも、直ぐに面会できた。


「珍しいな、レイさんから俺のことを訪ねて来るなんて。

 初めて会った時以来か」


「ええ、あ、お姉さん方の返事を持ってきた時以来ですかね」


「ああ、まああれはなんだ、初めて会った時の延長だからな。

 それよりも急いでいたようだが、何か問題か。

 奴隷の件だとは思うが」


「ええ、ドースンさんにお願いがありまして」

 俺はこう切り出してから、ガントさんの姪御さんについて話し始めた。


「そう言うことか。

 うちも法律で犯罪奴隷を決められた人数だけは扱わないといけないから、伝手が無い訳では無いが、一度他の奴隷商に渡るとちょっと面倒になるかな。

 どいつもこいつも足元を見て来る連中だからな」


「それなら、まだ大丈夫かと。

 はっきりとはわかりませんが、捕まったばかりだと先ほど冒険者ギルドで聞きました。

 判決が出るのは遅くとも明後日くらいまでかかるかと」


「おお、まだそういう状況か。

 それならどうにかなりそうかな。

 それで、問題の奴隷だが、名前は分かるか」


「あ、俺、聞いていなかった。

 ガントさんの姪とだけ」


「オイオイ、そんなんでどれだか分かるのか」


 『どれだか』と来たか。

 まあ、ドースンさんにとって、奴隷は商品であるから、人扱いはしていないのだろうな。

 いや、この世界の住人の常識かもしれない。

 その辺りはフィットチーネさんも同じだろう。

 でも、二人とも奴隷の扱いは酷く丁寧で、人としての尊厳を損ねるようなことは絶対にしない。

 だからこそ、俺もこの人たちを信じることができるのだが。


 何も俺が聖人君子という訳では無く、ただそう言う感覚が無いだけの話で、特にヘタレな性格なのか、拷問物は喩え映画でも苦手だ。


 あ、ドースンさんが俺の一言で困っている。


「ドースンさん。

 名前は知りませんが、私は、彼女に会って話したことがありますから、実際に会えば判るのですが。

 あ、それに、ジンク村の出身でドワーフの美人です。

 それに、王都に来たばかりの様です。

 この情報だけでは無理ですか」


「いや、そこまで分かればどうにかなるかな。

 まあ良いか。

 一度、その辺りを騎士本部にでも行って調べてみるか」


「ありがとうございます。

 俺としても、知り合いの姪で、話したことのある女性なもので、酷いことになる前にどうにかなるのなら……」


「オイオイ、何か勘違いしていないよな。

 犯罪奴隷に落ちるのは、俺にどうにかできる話ではないぞ。

 俺は、その奴隷の販売だけだ。

 で、レイさんはその奴隷を買ってくれるのだよな」


 あ、そう言うことなの。

 でも、そうか。

 この世界の常識では再審など、貴族ならともかく、平民では無理だろう。

 ましてや人族の治める地で、人族でないドワーフなら尚更だ。


「分かりました。

 買いますが、私としても予算に限りがありますから」


「どこまで出せる?」


「手数料など、諸々を入れても金貨100枚までは何とか」


「金貨100枚か。

 まあ、どうにかなるかな。

 でも、今回の件はレイさんに貸しな」


「えらく高い物にならなければいいのですが。

 よろしくお願いします」


 それからすぐにドースンさんは出かけたので、俺は奴隷商を出て、王都の商人ギルドに向かった。

 前にコショウを捌いてもらうのに訪れてから、一度も訪ねたことが無い。 

 ここは、王都で開かれるオークション会場を持っているために、オークションに出品される者についての情報も簡単に入手できるようになっていた。

 それに、王都で登録はしていなかったが、俺もここで予約さえすればオークションに参加できるらしい。

 尤も、俺が欲しいと思うようなものは奴隷しかも妙齢の美人以外に無いので、しかも、当分奴隷の追加も予算の関係で無理そうなので、あまり興味は無かったが、それでも、次のオークション出品物の情報を眺めてみた。


 まあ予想はしていたが、出品の半数以上が奴隷だった。

 借金奴隷に犯罪奴隷が多く、一般奴隷なんかは数人といった感じだった。


「ご主人様?」

 ナーシャも一緒に張り出されている出品物を見ていたようだが、何かに気が付いて、俺を呼んでいる。


「ナーシャか。

 どうした?」


「これって、石鹸ですよね。

 石鹸と書かれているところまでは読めたのですが、その前にも文字が書かれていて……」

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