第74話 ガントさんの悩み

 

 しかし、アイテムボックスのスキルって本当に便利。

 でも、俺の知っているアイテムボックスではないような気がしてきた。

 本当に神さまか女神さまに会うことができなかったのは失敗だ。

 尤も、この世界では会えるかどうかまでは知らないが、正直きちんとスキルの説明くらいは欲しかった。

 鑑定先生も、まだうまく使いこなせていないのか、アイテムボックスの取り扱いが分からない。


 試行錯誤して見つけていくしかないが、本当にじれったい。


 でも、こうして何かと便利使いができているだけでも感謝しないと罰でも食らいそうなので、とりあえず、誰だか分からないが感謝します。


 毎日、とても気持ちよく過ごせるのもこのおかげです……なんてね。


 作業を始めてからなんだかんだと3日もかかったが、どうにかレンガまでは作るのに成功した。


 全てを、窯から取り出し改築した厩舎に運び、そこでストーブを作っていく。


 うろ覚えだが、ロケットストーブのようなものをこさえた。


 あ、ここでもレンガの窯出しから厩舎までだが、搬送もアイテムボックスが大活躍した。

 本当に感謝しかない。


 とりあえず、石鹸造りの準備はできた。


 一人づつ、石鹸を作ってもらい、以後、廃油が出る度に、ここで誰かに石鹸を作るようにしてもらった。


 販売については、とりあえず保留としてある。


 比較的治安が保たれているエリアで商売をしているが、それでも最近俺たちは、良からぬ連中から目を付けられ始めているのだ。


 ポテトチップスの店売りの件で、商人ギルドから圧力がかかったのが、その証左と言えるだろう。


 俺はともかく従業員の安全について一定の目途がつかない限り、お世話になっている娼館以外には売るつもりはない。

 あ、フィットチーネさんのところからも、奴隷たち向けに使うとか言っていたから、必要に応じて持っていくが、そこまでだ。


 一応生産体制が整ったことで、この石鹸工場(仮)をカトリーヌ達に任せて、俺はまた日常に戻った。

 適当な間隔で王都に出向き、ポテトチップスの販売と酒の仕入れだ。


 そんなさなか、久しぶりにジンク村のガントさんのところを訪ねた。

 樽は、ガントさんのアイデアを貰って、通いにしたので、まだ余裕があったが、それでも急に販売量が増えても困らないように新たな仕入れをしようと思い立った為だった。


「ご無沙汰しております、ガントさん」


「おお、あんちゃんか」

 俺が挨拶をした親方のガントさんは思いの外元気が無い。

 最近は俺が無茶な仕入れはしていないから、俺からの仕事で疲れた訳では無いだろうが、何故だか気になって、聞いてしまった。


 すると、こちらの予想を遥かに上回る深刻な悩みを抱えていたようだった。

 しまった、また余計なことをしてしまった。

 まさに『好奇心……』って奴だ。


「え、俺のところに来ていたあの大工さん。

 夜逃げしたんですか」


「ああ、俺の姪を連れて逃げ出していきやがった」


「駆け落ちって奴ですかね。

 俺のところに来た時も相当仲良さそうに見えましたが」


「それならいいが、あいつにはあまりいいうわさを聞かないんだ」


「え、何それ」


「だから、この村で仕事をしていた時には一切聞かなかったが、あいつ、相当女癖が悪くてな。

 逃げ出した後になって、連絡が付かないとあっちこっちの村から娘子があいつを訪ねて来るんだ。

 何でも、結婚する約束があるとかで……」


 その後聞いたら、典型的な奴だった。

 この世界にも結婚詐欺があることを俺も買った女性たちから聞いたが、あいつは加害者の方のようだ。


 だとすると、一緒に逃げた姪御さんは大丈夫か。


「ああ、俺もそれを心配しているんだ。

 俺の妹なんか、姪の母親になるが心配して、寝込んだくらいだからな」


「そんなに……」


「まあ、それでも姪は既に成人を迎えているから自己責任だとは思うが、それでもな。

 あんなロクデナシに付いて行ったんだから心配くらいはするさ。

 できれば、幸せになってくれればいいのだが……」


 結婚詐欺をするような奴では、そんな甘い期待はできないかとは思うが、俺がそれをここで言っても何もならないので、黙っていた。


「あんちゃんたちは、あっちこっちと移動するだろう。

 もし、姪を見つけたら、最低でも親に連絡くらいは寄こせと言ってくれ」


「分かりました。

 見つけ次第、心配していたことを伝えて、連絡させるようにします。

 でも、期待はしないでください。

 私としても、見つけることはお約束できませんので」


「ああ、もちろんだ。

 悪いな、変なことを頼んでしまって」


「いえ、私も色々とガントさんにお世話になっておりますから、気にしないでください」


 ガントさんの話を聞いてしまったら、もう無視もできない。

 ジンク村から王都まで俺たちなら3日で行けるようになっているが、流石に今回は、きちんと街道を使って、途中にある全ての村に寄ることにしたから、6日ほどかかって王都に着いた。


 倍の時間がかかった訳だ。

 途中で、二人のドワーフ連れを見なかったか聞きながらだが、何度も悪いうわさは聞かされた。


 相当に遊び人だったようで、あっちこっちに借金までも相当作っていたようだ。

 今回の夜逃げも、その借金がいよいよとなって、慌てて逃げ出したと思われる。


 ガントさんの姪も連れて逃げ出すのだから、その姪も共犯かと思ったら、どうもそうでは無く、イケメン屑野郎を追いかけてのことのようだ。

 最後の村で聞いた話では痴話げんかをしながら王都に向かっていったそうだ。


 王都に行っても、借金から逃げられるわけは無いだろうが、王都の悪い仲間でも頼るのだろうか。


 そんな話を聞かされては、流石に放っておく訳にもいかず、王都に急いだ。


 王都で、まず冒険者ギルドに顔を出して、情報を集めようとしたら、時すでに遅く、例のプレイボーイのイケメン屑野郎が王都の騎士たちに捕まった後のようだ。


 その容疑は、詐欺は勿論、窃盗、暴行、殺人未遂まである。


 何故、一人の犯罪者について簡単に情報が集まったかというと、冒険者ギルドの方で、王都の犯罪者確保の依頼を出そうとしていた矢先に、あのイケメン屑野郎が頼った連中が王都の治安を守る騎士たちとやらかして捕まったのだと聞いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る