第六章 お店の改装
第73話 レンガの手配
花くらいだから、ナーシャに籠を背負ってもらうと、問題無く店まで運べた。
ダーナを連れてアイテムボックスを使えば良かったと少し後悔したが、あまりにダーナばかりを連れて歩くとナーシャが寂しそうな顔をするので、今回は軽いから良いかとタカをくくり、本当に軽い気持ちで、出かけてしまった。
まあ、ナーシャが喜んでいたので、結果オーライとしておこう。
店に戻り、とりあえず高級品の石鹸を作り始めた。
幸いと言うか、原料の油だけはふんだんにある。
あるにはあるが、その油を温める施設が無い。
雨風を避けるための改造をしたばかりで、肝心の厩舎の中はそのままだ。
前の持ち主が去ってからそれなりの時間が経っていたために、馬の糞尿の臭いはそれほど強くはなかったが、それでも動物特有の臭いは消えていない。
「は~。
まずは、ここの掃除からだな。
手伝ってくれるか」
「はい」
「喜んで」
店に帰るとすぐにダーナが傍に来ていた。
店の方も従業員が急に増えたこともあり、ダーナはやる事が無かったようだ。
それにしても、どこぞの居酒屋でもあるまいしと思ったのは俺だけか。
あ、それもそうだな。
そもそも、この世界の人には分からない話か。
買ってきた花は香りが飛ばないように、俺のアイテムボックスに仕舞ってから、掃除を始めた。
と言っても、偉く簡単に済む。
まずは、目につくもの全てをアイテムボックスの中に放り込む。
それを見ていたダーナも真似をするから、あっという間に、厩舎の中には何もなくなる。
埃すら取り込むから、掃き掃除も要らない。
「ダーナ、取り込んだごみは、外にでも出しておいてくれ」
俺はダーナに言ってから厩舎を出て、取り込んだごみを外に出して、火をつけて焼いてしまった。
ダーナもその火の中に自分の取り込んだごみを入れていく。
火が消えるのを待って、灰を片付け、掃除を終える。
アイテムボックスって、掃除の神様。
本当に便利。
それで、もう一度厩舎の中に入るが、当然と言えば当然の話だけど、中には何もない。
「ご主人様?
この後は?」
ナーシャが俺に聞いてくるが、これは割ときつかった。
正直何も考えていない。
「今度は、ここに厨房ほどではないが、火を扱える場所を作らないといけないな」
かまどを作ろうかと考えたが、レンガで、それなりの物を作ってみたいと無謀にも考えてしまった。
となると、レンガが欲しい。
今まで町を歩いていたけど、レンガを売っている店なんか見なかった。
レンガ作りの建物もかなりの数あるから、どこかで絶対に扱っているはずだが、今から探すとなると。
いっそ、自分で作るか。
ダメもとで、とにかく始めよう。
まあ趣味の延長と考えれば良いかと、その時はそう思ってしまった。
「まずは中庭にレンガなどを焼く窯を作ろうか」
「窯ですか?」
俺は二人を連れて、もう一度外に出てから、中庭の隅に、窯を作ることにした。
材料は、あの土石流で大活躍した河原の石だ。
手頃の大きさの石をとにかく出してみて、適当に積み上げていく。
隙間に、小石など詰めるが、それでも隙間が空く。
うん、やはり粘土が欲しいかも。
「材料が足りなさそうなので、森まで出かけるか」
そう言って、二人を連れて町を出た。
と言っても、遠くまで行く必要はなく、いつもお世話になっている、あの小川に向かった。
お世話になっていると言っても、そう言えば最近、近づいた覚えはない。
ナーシャを助けた時以来かもしれない。
一応付近を警戒しながら小川に近づいて、川底などから泥だけをアイテムボックスの中に取り込んでいく。
レンガも作るから少し多めに、また、水も大量に取り込む。
何があるか分からないので、一応念のためということで。
それに、俺のアイテムボックスって、まだ限界が見えてこない。
いったいどこまで入るのか、少し興味もある。
たっぷりと、水と泥をアイテムボックス取り込んで町に帰っても、それほど時間はかかっていない。
昼過ぎに出掛けたのに、夕方前には店に帰ってこれた。
でも、流石にこれから作業をする気にはなれないので、庭に作る窯の続きは明日に回す。
その日は、作業を終えて、みんなと一緒に夜のルーチンへ。
ただ、流石に全員とは俺の命が本当に危ない。
腎虚で死ねるのなら本望と思っていた時もありました。
でも、流石に扶養する人を8人も抱えては、あまりに無責任、あ、これ一応の建前で本音の部分でもほんの少しそう思っているが、大半はこんな幸せな時間を1秒でも長く味わっていたいという気持ちが勝り、2~3人と、順番で相手をしてもらうようにしてある。
今日は美人母娘の順番となっているので、母娘に、ユキが混ざる。
十分にこれでもきついが、とにかく気持ちがいいので当分は止めるつもりはない。
翌日から、庭の窯造りだ。
石を積んだ内側から粘土を厚めに塗りたくり、外側も同様のことをナーシャと一緒にしていく。
この作業のどこに面白みを感じたのか、ナーシャは喜んであっという間に作業を終えてしまった。
後は粘土が渇くのを待つ。
その間に、型枠を作り、レンガの準備も進めていく。
しかし、実際に型枠に粘土を入れても乾くまで焼くこともできない。
どうにかできないかと日向に干しているレンガを見ながら、試しにレンガから水をアイテムボックスに取り込んでみた。
結果、大失敗。
粘土からいきなり水分が完全に無くなるとどうなるか。
パラパラとなって砂になる。
そういえば、焼き物を作る工程だったか、それとも耐熱煉瓦の工程だったか忘れたが、この砂をふるいにかけ再度粘土にしていったものを使うというのがあったけれども、とりあえずそんな面倒なことはぜず、粘土から水分を抜くことはできそうだというのが分かったが、そのままだと失敗する。
もしかして……吸い取る量を調整してみるとどうなるか。
結論から言うと、できそうだが、その量の調整が難しい。
試行錯誤の結果どうにかできそうなレベルにまでこぎつけたので、ナーシャとダーナに手伝ってもらい、型枠に粘土を詰めてもらう作業をしてもらった。
俺は、それを受け取り、水分をある程度アイテムボックスに取り込んでいく。
念のため、明日まで干して窯に入れられそうなレベルになった。
そうなると、今度は窯に使った粘土に問題が出る。
こちらは、弱めに窯に火を入れて乾かすことにした。
レンガなら実験で調整もできそうだが、いくつも実験のできなさそうな窯ではやりたくない。
砂になって最初から作業のやり直しは勘弁だ。
そんなこんなで、レンガの焼き入れは明日まで持ち越しだ。
なので、俺はせっせとレンガを乾かし、必要なほどの数のレンガを用意していく。
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