第72話 石鹸の売値
色々と話を聞いて行くと、広く一般に売られている石鹸ってどうも動物の油を使った石鹸のようで、その動物の匂いが取り切れていないようだ。
無臭か、俺の作ったポテトチップスの匂いのするくらいのものなんか、とても高級な物になるらしく、貴族か、お姉さん方の様な高級娼婦しか使えないらしい。
それでも、なかなか手に入らないらしく、日ごろは臭いきつめの物を使用している。
それだけに俺の石鹸は相当魅力的に見えたようで、あのバラの香りのする石鹸なんか金貨10枚出しても良いとまで言い出す始末。
金貨10枚って、日本円換算で100万円だぞ。
石鹸一つで流石にそこまでは貰えない。
俺の常識と、この世界の常識のすり合わせをする意味で、ここでの卸売り価格を、今ここで決めていく。
お姉さん方の話では、石鹸の様な自分たちが使うものについては、ここでも自分のお金で買うらしく、新人などではそれこそ金貨を出すにはつらいらしい。
それでも出せないとは言っていない。
まあ、最低金額が一人金貨2枚からの娼館なのだからできることなのだろう。
一人の客を取って、自分たちにいくら入るかまでは知らないが、それでも一晩で金貨2枚を稼ぐのなら、石鹸で金貨1枚はどうにか出せるらしい。
しかし、この世界での石鹸の常識的な価格として、とても臭くはあるが銀貨で20枚からだそうだ。
これでも日本円で2万円するが、令和世界でも無くはない価格だけれども非常に高価だ。
尤も品質的には比べてはいけないくらいの差が出るが。
話し合いの結果、あの失敗作と思われたポテトチップス風味、もとい、ポテトチップスの匂いのするもので銀貨10枚で、ここに卸す。
これは新人さんたちが気兼ねなく使えるようにとの配慮からだが、無臭の物で、銀貨50枚、あのバラに近い香りのするものは金貨1枚で販売することに決まった。
これは、皆個人購入の格好を取る関係で、フィットチーネさんを通さない契約となる。
尤も、契約書も交わしてないが、それでも一応この話はフィットチーネさんにも報告をするという。
それなら、俺の方からも後でフィットチーネさんに伝えておくことにした。
価格も決まり、俺の手持ちをここに置いていくことにした。
いわゆる富山の薬売り感覚で、お姉さん方に販売を任せた。
今回、俺としてはあの失敗作なら銀貨で1枚も貰えれば御の字だったので、もう少し安くしようとしたら、今回の金額でも破格とのことで、これ以上安くするのは良くないとの忠告をうけたので、ぎりぎり妥協できるところでこの金額に落ち着いた。
その上で、他の娼館に卸すときの金額についてだが、最低でもここの倍は貰った方が良いそうだ。
色々と意見を聞いて、高級品は金貨5枚、無臭で金貨2枚、あのポテト風味がなんと銀貨50枚で卸すことも、この場で決まった。
店売りについては、その内考えるとして、俺はその足でフィットチーネさんのところに向かった。
まだ、いくつか香りのする石鹸が残っているので、それを手土産に、娼館で娼婦たちに石鹸を販売したことについて報告しておいた。
フィットチーネさんはかなり驚いていたが、俺が娼館に石鹸を販売することについてはすぐに快諾を頂いた。
ついでに、あの一番安い石鹸の買取も申し出てくれたので、娼館と同じ金額で、あるだけ卸していった。
さあ、これから石鹸も作らないといけない。
しかも、あの失敗作と思われたポテト臭のするものを大量にだ。
話していくうちに、一番の売れ筋がそれになりそうなので、そちらについての生産体制を整えることから始めた。
あのポテトチップスで懲りたので、今回は売る前から準備だけはしておく。
店に戻った俺は、一度全員を集めて話し合いを持った。
既にここは、従業員だけで8人もいる中堅どころと言っても良いくらいの商店にまで成長している。
まあ、全員が全員奴隷で、しかも、皆お手付きとあっては威張れたものでは無いが。
「集まってもらったのは、前にみんなに作ってもらった石鹸についてだ」
俺はこう切り出してから、これからについて話を始めた。
「レイさん。
それでは、ここで、ポテトチップスの他に石鹸も作るのですか」
「ああ、そうなるな。
それに、近い将来、店先でも販売することになるかな」
「え、高級品を扱うのですか」
「今でも、高級品となったポテトチップスを扱っているが、それが何か」
「いえ、ちょっと不安になっただけです」
カトリーヌが言うのは、高級品を売っている店が女性ばかりだと危ないのではということだ。
まあ、店の立地次第ではとても危険なことになるだろうが、ここはあの王国の至宝と言われたお姉さん方の居る 『宝石の夢』の直ぐ傍で、しかも最近になってからお隣にも高級娼館ができた位に、いわゆる上流階級の出入りの激しい場所になっているので、そうそう怪しい連中には襲われないだろう。
でも、悪徳貴族なんかに目を付けられないとも限らないし、そう言う連中が雇った下種どもに襲われないとも言えなくもない。
ああ、そうなると、防犯上人を雇うか、ギルドにでも依頼を出すかしないとまずいか。
防犯については追々考えるとして、石鹸の販売は『宝石の夢』に先行販売しながら売り先の拡大を考える。
そんなことを説明しておいた。
「防犯について、今まで何か怖い事にでもあったかな」
「いえ、今まではありません。
でも、おつまみの他に誰もが高級品として知られる石鹸の販売まですると……」
「ああ、だから、娼館に先行して販売していくが、店売りについては、防犯上の不安が無くなるまではお預けにしよう。
娼館の娼婦たちの食いつき具合から、直ぐに俺の持っている在庫は無くなりそうだから、これからは、ポテトチップスの製造の他に石鹸を作ります」
「レイさん。
石鹸造りは良いのですが、どこで作ります。
厨房は今でも手狭ですから、無理だと思うのですが」
「ああ、そうだな。
当分は使っていない厩舎かな。
あそこを俺が改造しておくから、そこで作ることにしよう」
そう言って、今のところは一度解散させて、日常に戻ってもらう。
それで、俺の方は、厩舎だとあまりにあまりなので、少なくとももう少し周りを板で囲み風よけくらいはできるようにダーナやナーシャに手伝ってもらいながら日曜大工よろしく慣れない大工仕事をしていった。
俺のスキルのお陰で、何故かしら立派な板材が出て来るのだ。
下手な俺でも、流石にかなり良質な板材をふんだんに使えればどうにか見えるレベルまでの改造はできた。
あれ、俺って生産スキルカンストか。
そんな筈もなく、生産スキルすらなかったようだが、とりあえず石鹸造りの作業スペースはできた。
ナーシャを連れて、町に花を買い出しに出掛け、とにかく香りのする花を根こそぎ買い込んできた。
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