第78話 王都での商売
そこまで俺が話すと、今度はダーナが彼女の傍にゆっくりと近づいて小声で話しかける。
俺にはよく聞き取れないが、それでも両脇にいる騎士たちには聞こえたのだろう。
騎士の顔に優しい笑みが見えた。
いったい何を言っているのか、気にはなるが、女性同士の話もあるようなので、俺は少し待つことにした。
すると、奥からドースンさんが戻ってきた。
「レイさん。
彼女で間違いないか」
「ええ、私の探していた女性です。
彼女の返事を待って、約束通り引き取ります」
「返事?
何だそれ」
俺たちの会話に割り込むように彼女は俺に向かって話しかけて来る。
「レイ様。
よろしくお願いします」
「分かりました。
ドースンさん。
彼女で間違いないので、よろしくお願いします」
その後は、ドースンさんは、彼女の両脇にいる騎士に向かって書類を見せながら話しかけている。
犯罪奴隷の引き取りの手続きをしているのだろう。
無事に手続きを終えたのか、ドースンさんが俺のところまできて「この後どうするね」なんて声を掛けて来た。
「この後ですか?
どうすると言われても……」
「暇なら、店に戻るぞ」
そう言って、犯罪奴隷の両脇にいる騎士に何やら話しかけている。
その後すぐに、騎士と一緒に犯罪奴隷を連れて、店まで戻った。
店に着くと、犯罪奴隷は家宰と一緒に、奥にある犯罪奴隷用の部屋に向かい、俺は取り残された格好だ。
「何している。
こっちに来ないか」
執務室に一旦入ったドースンさんは、俺が彼に付いて行かなかったので、また、部屋から出て俺を呼んだ。
「すみません」
俺はすぐに謝って、ドースンさんの執務室に入った。
それとほぼ時を同じくして、先ほどの騎士たちが家宰と一緒に執務室に入って来たので、ドースンさんは書類にサインしたものと一緒に金貨を1枚騎士に手渡していた。
騎士は書類と一緒にその金貨を受け取り、部屋から直ぐに出て行った。
「お駄賃だな。
まあ、これも慣習ってやつさ」
俺が聞かなくとも、ドースンさんは渡した金貨の意味を説明してくれた。
まあ、犯罪奴隷と言っても、普通犯罪を犯して捕まった連中だ。
いくら手枷をしていても逃げ出さないとも限らない。
もし、逃がすようなら、所有者は当然責任を問われることになるから、一流どころの奴隷商では、店の犯罪奴隷用の部屋まで騎士たちの責任で護送してもらうのだそうだ。
これが、犯罪奴隷を主に扱っているような奴隷商では自前で護衛を用意してあったりで、騎士に頼まないのだそうだが、そういう手間のための手間賃のようなものだそうだ。
それにしても、金貨1枚とはお安くない。
犯罪奴隷って、金貨10枚で司法当局から卸されるから、その原価?の1割もの手間賃が掛かるなんて、結構割高だと思うのは俺だけだろうか。
だからなのだろう。
法律で、どの奴隷商も、少なくとも王都で営んでいる奴隷商にはある一定数の犯罪奴隷を捌かないといけないのだが、ドースンさんの様な一流どころは、馴染みの犯罪奴隷専門に扱う奴隷商から、希望に沿う犯罪奴隷だけを回してもらっていると云う。
今回は、その馴染みを通さなかったこともあり、その辺りにも金をばらまいたそうだ。
これからも付き合いをしていかないといけないから、そういう心配りは大切だが、そこまで知ると、今回俺がドースンさんに頼んだことって、結構面倒なことだったのでは。
あ、だから俺に貸しと言ったのか。
それなら、モリブデンに戻ったら、お姉さん方にきちんと頼んでおこう。
「今日は、あの奴隷に、色々と説明などしないといけないから無理だが、明日なら手続きまで終わらせることができるぞ」
「え、それなら明日で、お願いします。
後、これ、聞いていた代金です」
俺はドースンさんに金貨50枚を手渡した。
「奴隷の引き取りと一緒でも良かったが、まあ受け取っておこう。
それより、今日はどうするね。
一緒に王都の娼館でも勉強に行くか」
「いえ、遠慮しておきます。
俺のところも結構増えたので、自制しないと、それこそベッドの上でみっとも無く死ぬ羽目になりそうなので。
それに、俺にはまだ本業が残っていますから」
ドースンさんの店での用事を済ませた俺は、いつものようにバッカスさんの店に急ぐ。
いつもなら午前中には訪問しているのだが、流石に今日は色々と有りすぎて、もう夕方に近くなっている。
もしかしたら、既に時遅く、バッカスさんは
本当にギリギリで、バッカスさんは店番に指示を出して、出かける寸前に俺は店に着くことができた。
まあ、バッカスさんが居なくとも、仕入れはできるのだが、会わないで帰ると後で何を言われるか分からない。
「遅くなりました」
「あれ、レイさん。
いらっしゃい。
今日は?」
「いつもの仕入れです。
それと納品ですか」
「それなら、こちらに。
でも、珍しいですね。
いつもなら午前中にいらっしゃるのに」
「ええ、それがですね……」
俺は簡単に経緯を説明した。
「へえ、そんなことがあったのですか。
そういえば先日大規模な手入れがあったと聞いていましたが、その関係者でしたか」
「いえ、彼女は被害者の様ですね。
王都に来たのも逃げた恋人を追ってのことで。
でも、そいつが相当に悪い奴で、詐欺と借金で逃げ出したのを追って王都に来たばかりでしたから、王都の悪党たちとの絡みは無い筈だったのですが、屑野郎が悪あがきをした関係で、犯罪奴隷まで落とされたようですね」
「そうなると、救い出すのはまず無理でしょう」
「ええ、ですから、私がその犯罪奴隷を先程ドースンさんの店で買ってきました」
「よくその人を押さえることができましたね」
「ええ、まだ、彼女が犯罪奴隷にされる前に情報を仕入れることができまして、急ぎドースンさんに頼みました」
「そいつはご愁傷さまで。
あいつに大きな借りを作りましたね」
「ええ、ですから、ここでの仕入れを済ませたらトンボ帰りですよ」
「え、何。
借りって、また、あいつは至宝を頼むのか。
グ、グ、悔しいな。
でも、そうだな。
俺でもそうするか」
「あ、言っておきますけど、私にはお姉さん方に対して何もできませんよ。
ただ、ドースンさんからのお願いを届けるだけですからね」
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