第79話 帰郷

 

「でも、レイさんはかわいがられているでしょ。

 それだけでも相当なアドバンテージなのですよ。

 私もあ奴のおこぼれで一度だけ相手をしてもらいましたが、あれから一向に予約が取れませんからね」


「それは、ドースンさんも同じです。

 お姉さん方が忙しすぎるからですよ。

 新しく奴隷たちを連れて行ってからまだ、予約は一切取っていないようですから。

 でも、もうじき、教育中の子たちが独り立ちしましたら、また、予約を取るのでは。

 尤も、取りにくいのは変わらないかとは思いますが」


「まあ、そうだな。

 それよりも、清算が終わったようですね。

 レイさん、今日は泊りで」


「ええ、明日、奴隷の登録がありますから」


「なら、どうです。

 私が接待代わりにお連れしますが」


「ありがたいお申し出ですが、遠慮させていただきます。

 先ほどもドースンさんに同じことを言われましたが、連れがおりますから」


「そうでしたか。

 そうですよね。

 レイさんのお連れさんとは……」


「そういうことです。

 彼女たちにサービスしておかないといけませんしね」


「お優しい事で」


 バッカスさんとの仕事は終わったが、今日はいつも以上に疲れた。

 ひょっとして、バッカスさんと会う必要は無いのでは。

 仕事の話なんか一度もしなかったしな。

 それでいて、異様に疲れた。


 まあ、いつも良くしてくれるバッカスさんなので無下にもできないが。

 まあ良いか。


 俺は、王都では定宿と化している、あの高級宿に向かった。


 予約をしていなかったが、ここはいつも快く部屋を貸してくれるし、何より夜に大声を出しても、あの声なら何のお咎めもない。


 連れて来た二人も期待しているようで、宿に着くなりソワソワしているし、その夜も王都ではいつものように過ごした。


 翌日、朝食を取り終わったらすぐにドースンさんのお店に向かった。

 店ではあの家宰の人が出迎えてくれ、そのままドースンさんの執務室に向かった。


 執務室では、ドースンさんが珍しくなんて言っては失礼か。

 でも真面目に書類を前に仕事をしている姿を見るのは初めてかもしれない。


 俺が驚いていると、ドースンさんが声を掛けて来た。


「レイさんか。

 何を驚いているかは問わないが、少し待ってくれ」


 俺の考えをドースンさんに読まれたらしい。

 俺が端で大人しく待っていると、外から家宰の人が一人の女性を連れて来た。


「おお、来たか。

 直ぐに奴隷紋を付けるから、そこで待っていてくれ」

 ドースンさんは手にした書類にサインをした後、こっちに向かってきた。


「もう慣れたものだろう。

 ここにレイさんの血をくれ」

 そう言って、それなりの形をしたアイテムを差し出してきたので、俺はそこに血を垂らした。


 一瞬のことで、直ぐに奴隷登録を終えたようだ。


「あとはこれにレイさんのサインを貰えれば、一連の手続きは終わる。

 あ、今年は税金の納付は必要ないが、来年忘れずに犯罪奴隷としての税金をきちんと納めてくれな。

 て言っても、釈迦に説法か。

 レイさんは、犯罪奴隷も二人目になるしな」


 この世界でもお釈迦さまっているのか?


 今、俺の耳には『釈迦に説法』って聞こえたが、変換されただけで、それなりの者を指しているのだろうけど、ちょっと驚いた。


 あ、俺はドースンさんに渡された書類にサインを入れて、返した。


「もう、ここですることは無いが、この後どうする」


「ええ、少し買い物をしてからモリブデンに帰ります。

 今回は余分に1日王都に滞在しましたしね」


「余分ったって……」


「ええ、運が良かったのもあるでしょうが、ドースンさんのお陰で、本当に時間を掛けずに済みました。

 それは感謝します」


「おお、たっぷりと感謝してくれ」


「大丈夫ですよ。

 忘れていませんから。

 直ぐにモリブデンに戻ってお姉さん方にお話をしないといけませんしね」


「お~お。

 それだけは頼むな」


 俺とドースンさんの会話の内容を理解できていない奴隷たちは俺の周りでキョトンとしている。


 特に、今日俺の奴隷となったガーナは初めてのことばかりなのか、びくびくしながらも、俺の様子を覗っている。


 何故、彼女の名前を知ったかというと、さっきドースンさんから手渡された書類にも書かれているが、その前に、俺の鑑定先生が仕事をしてくれたおかげだ。


「さて、ガーナと言ったか。

 これから主人となるレイだ。

 そこに連れているナーシャやダーナの他にもモリブデンに奴隷はいるが、みんなと仲良くな。

 あ、そう言えば、他の皆とも一度会っているか」


「レイ様。

 ご主人様?

 ガーナです。

 よろしくお願いします」


「ああ、俺のことは好きに呼んでくれ。

 それでは、ガーナの服など少し買い込んでからモリブデンに戻ろう」


 その後俺たちはドースンさんの店から出て、直ぐに通りに面した店を物色しながら王都を出た。


 とりあえずはジンク村だ。

 ジンク村に行って、ガントさんに経緯を説明しないとまずい。


 しかし、奴隷にしたからな。

 俺のことを逆恨みしないと良いのだが……


「ご主人様……」

「ご主人様?

 大丈夫。

 私が説明するから」


 ナーシャが俺の心配を悟ったのか、慰めてくれる。

「ご主人様。

 今回のことは、私が原因の全てです。

 犯罪奴隷として、ご主人様にお仕えします。

 そのことは私自身から家族に説明しますので、その機会を頂けないかと」


 ガーナは俺にそう言ってきたが、確かにそうだよな。

 尤も原因というのはあの屑が全てなのだが、それに騙されたという処に今回の騒動の全ての原因があるともいえる。


 そんなことを考えながら、ジンク村に向かう。

 王都を出るのが昼前になってしまったので、途中野宿となった。俺たちは慣れているから問題ないが、ガーナが心配だった。


 結論から言うと、要らぬ心配だったようだ。

 ガーナも割と旅慣れているようで、野宿も何ら問題が無かった。

 ただ、今回の旅程での問題としては俺達の移動速度が彼女にとってはかなり速いそうで、苦労したという。


 まあ、その甲斐あって、野宿も一晩だけで翌日の夕方にはジンク村に着いた。

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