第80話 言い訳? 説明?

 

 流石にこの時間だと訪問するには遅いかとは思ったが、ガントさんもかなり心配していたこともあって、まずガントさんのところにみんなで向かった。


「ガーナ、お前……」

 ガントさんはそう叫ぶとガーナに駆け寄りあの野太い腕で、ガーナを抱きしめている。


 ガントさんの弟子の一人が気を利かせたのか、ガーナの家まで行って、家族を呼んできた。


「ガーナ、あなたは……」

「お前は……、みんな心配したのだぞ」


 みんな抱き合って、ガーナの無事を祝っている。

 そんな状況を目の前にして、俺は途方に暮れた。


 この状況で、犯罪奴隷となったガーナの主人が俺だとは言いづらい。


 そんな空気を無視するかのようにナーシャがガントさんに爆弾発言を落とした。


「ガーナのご主人様?

 はそこにいる私のご主人様?だよ」


「「「………」」」

 一瞬、周りの空気が固まったように感じたのは俺だけだろうか。


 ナターシャの爆弾を受けたガントさんは抱きしめている腕をほどき、ガーナをまじまじと見て叫んだ。


「何だこりゃ~

 ガーナ、お前は何をしでかした~」


「え、何々?」


 ガントさんの発言を受け彼女の両親も騒ぎだそうとした時に、ダーナが機転を利かせて、説明を始めた。


 少し長めになったが、ガントさんを始めガーナの両親もダーナの説明を最後まで聞いてから、ガントさんは俺に顔を向けて来た。


「ええ、彼女の説明で間違いありません。

 彼氏でしたっけ。

 彼、王都で悪い仲間と一緒に捕まる時にガーナも巻き込んだようですね。

 これがお役所から頂いた書類です」


 彼女の両親も、どうも覚悟をしていたようだ。

 反対したのに、ガーナはそんな両親の忠告を無視して、彼を追いかけるように駆け落ちしていったのだ。


 元々から悪いうわさの有ったやつだが、彼が出て行ってから出るわ出るわで、あっちこっちの村々で女をだましていたことが判明していた。


 それだけに、彼女の両親はガーナの身の上を心配していたようだ。

 最悪、野垂れ死にまでもが予測の範疇だったようだ。


「それにしても許せませんね」

 ダーナは憤慨するようにこぼしている。


「でも、王都で悪い仲間に誘われて悪事に手を済めたのだから、当然の報いは受けていますよ」

 王都に行く前から悪事を働いていたから、仲間に加わらなくてもいつかは捕まることになったとは思うが、それにしても、聞けば聞くほど頭にくる悪行だ。


 騎士たちから聞いた話だが、王都で、彼はガーナを闇奴隷に売り払うつもりのようで、闇奴隷を扱う奴隷商まで呼んでたそうだ。


 ちょうど騎士たちが踏み込んだのがその取引の始まる寸前だったとか。


 尤も、この闇奴隷を扱う奴隷商も相当悪い奴で、ドースンさん達まともな奴隷商たちから嫌われており、今回の手入れも、その奴隷商たちの組合から騎士たちにもたらされた情報によるものだとか。


 幸いと言えばいいのか、ガーナは無事?闇奴隷から犯罪奴隷に出世したようなものだが、う~む。


 流石にこの情報だけはガントさん達には伝えられない。

 ダーナも知らなかったので良かったけど、これを聞けばガントさんなんかは奴を殺しに行きかねないくらいに怒ったことだろう。


 一通り説明をした後、俺達は今夜はこの村に泊るとだけ伝えて、その場を離れた。


 明日朝迎えに行くことにしている。


 うん、二日ぶりだ。

 村から少し離れた場所で野宿して、二人相手に相当ハッスルしたよ。

 あ、『ハッスル』なんか今時死語だけど、そう表現するのが一番しっくりする。


 翌朝、「太陽が黄色い」なんかは言わなかったが、なんだか昭和の香りがプンプンだな。


 翌朝、ガントさんのところにお邪魔すると、昨日同様に家族が集まっている。

 昨日見なかった子供たちも何だか集まっているが、子供に聞かせてもいい話では無いだろうに。


「レイさん。

 色々とありがとうな」


「いえ、本当は奴隷落ちする前に救えればよかったんですが」


「流石に、そこまでは望んでいないよ。

 だが、一つ聞かせてほしい」


「はい、何でしょうか」


「ガーナをどうするつもりだ。

 何故、レイさんが買う前にこちらに一言声を掛けてくれなかったんだ」


 やはり、そこを聞きますか。

 まあ、正直に答えるしかないが、子供を前に生々しい話も入るが良いのだろうか。


「はい、そこは正直考えましたが、時間が問題でした」


 俺はあの時の状況を話した。


 彼女たちが捕まった情報を、俺はギルドで聞けたことが幸いしたが、そこからが時間との勝負だった。


 だが、果たしてその辺りを理解してもらえるかどうか。


「まず、時間との勝負でした。

 私と取引のある奴隷商の話ですが、ガーナは上玉…失礼、もし奴隷として売りに出されればかなりの価値があるのだそうです。

 犯罪奴隷ですから、その……」


「ああ、性的な話だな」


「ええ、そういうものを拒めませんから、娼婦としてかなりの価値が出るのだそうです」


「それで」


「まず、犯罪奴隷は、王都の奴隷商に引き渡されます。

 この場合、一律に金貨10枚の価値で取引がされますが、引き取った奴隷商は、そんな金額では売りに出しません。

 彼女の様な商品価値のある女性の場合……」


「上玉の場合はどうなると云うのだ」


 俺が言葉を選んでいるのに、ガントさんはかなり怒っているようだ。


「ええ、一番高額での取引を願うのなら、まずオークションに出品されるのだそうです。

 奴隷商は犯罪奴隷を一律の金額で引き取ります。その金額を超える金額で取引がされる奴隷ならばいいのですが、かなりの確率でそれ以下の金額になるケースがあり、その補填も考えて、より高額での取引を望みます」


「それは分かるが……」


「それに、今の市況としては高級娼婦が足りないようで、そういう用途の女性は高額で取引がなされるようです。ドースンさん…あ、私と取引のある王都の奴隷商ですが、彼の言うには、まず金貨100枚は下らないだろうとのことです。

 一度オークションに出されれば、もう私では手が届かなくなります。

 しかも、他の、娼館かもしくは貴族でしょうが、そちらに落とされた場合、ガーナを取り返すにはさらなる金額が必要になってきますし、犯罪奴隷の場合、色々と制約があるとかで、少なくとも1年以上は待たなければなりません。

 そんなアドバイスもあり、贔屓の奴隷商に無理を言ってオークション前、お役人から奴隷商に落とされる前にこちらで引き取りました。

 これで、答えになりますか」

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