第150話 再びの王都に

 

 すぐにどうこうできないので、風呂工事について注残を少しでも片付けるために、俺がモリブデンにいる間は手伝うようにした。


 しかし、子供の成長って早い。

 預かっている子供たちはすでにいっぱしの職人さんだ。

 彼ら彼女らに人を預けて親方として独立させれば今の注残なんかそれこそすぐに片が付きそうだ。

 尤も子供たちは預かっているだけで、俺の奴隷じゃないのでそれはできないが、それでも複数の現場を掛け持ちはできそうだ。

 ここにもメイドたちを一人ずつつけ、現場を2か所に増やした。

 工事作業の方は全く問題は無いが、現場でのいろいろなトラブル、特に政治向きなどについては彼らでは対処できない。

 対処できないだけならまだ良いが問題がこじれる恐れもあるので、必ず現場にはそういう面で詳しそうなメイドを付けるようにした。

 これは俺がこの世界に来て色々と学んだ成果だ。

 特に王都の店で学んだことは大きい。


 この世界の金持ちや貴族って本当にめんどくさい。

 彼らを上手にあしらえないと商売もたちいかなくなる。

 まあ、その面倒で無理やり叙爵されたが、それでも今では俺も貴族の仲間だから、余計に面倒な連中から絡まれやすくなってきた。


 今まではせいぜいアウトローな連中だけ気を付ければどうにかなっていたが、これからはそうもいかないし、俺は意識していなかったのだが、とっくにそんな面倒な連中から目を付けられていたらしい。

 これはフィットチーネさん情報だ。

 そんな面倒ごとの多くを俺にまで来ることなくフィットチーネさんの方で処理してもらっていたとか。

 本当にフィットチーネさんには頭が上がらない。


 現場を増やしたので、俺も二つの現場をできるだけ回ってみたが、どうにかなりそうだと思えるまでになっている。

 当分はこのまま現場を二か所体制でモリブデンの注残を片付けるようにしていく。

 しかし、終わるのかな。

 今のところ、施工主一人につき一か所しか注文を受けていないが、ここモリブデンも王都ほどではないが、貴族も金持ちも多い。注文をしてきた施工主の多くが別荘や別宅にもと注文を受けてくれと再三にわたり言ってくる。

 今は注残の多さを理由に御断りをしているのが現状だ。


 中古で買った船の方も気にはなるので、そちらもいつまでも放り出してはおけないので、風呂工事の方が落ち着いてきた今、今度は船にかかわることにした。


 船の方も、船自体が古かったこともあり、相当あちこちにガタが来ていた。

 実際に貿易などで使うには、かなり手を加えないといけないらしく、今かなり本気で船大工たちが取り組んでいる。

 俺のところで預かっている奴隷も含め、その船大工たちの助手として大工仕事を手伝いながら技能を身に着けているようだ。

 これならば船大工に限らず大工として独り立ちもできるかもしれないし、何よりフィットチーネさんから預かっている奴隷たちは女性が多くいるのだが、獣人であることから男性ほどでもないが力自慢で、戦力になっている。


 すでに、ここでも真剣に奴隷たちの購入を考えているとかで、そんな噂があちこちに出始めて、獣人たちの奴隷相場が上がり始めているらしい。


 先に引き取られた奴隷たちは、ほとんどが女子供なのだが、高値でかなり良い条件で買われていったと聞いている。

 健康で器量も良くそれでいて力があり技能も身に着けていれば鬼に金棒だ。


 今まで一緒にいた人が不幸にならないだけでこの時代では贅沢に類するらしいが、それなら今の俺は相当贅沢を味わっているようだ。

 何にもまして、とにかく良かった

 そんな感じで、俺がモリブデンで仕事をしていると王都の貴族から呼び出しがあった。

 なんでも今度王宮で開かれるパーティーがあり、それに参加しろと言ってきたのだ。


「あれ、俺って義務など無かったのでは」

「王宮がらみは別です」

 どんどんまずいことになっているような気がするが、今回も時間はあるので、早めに王都に出向き王都で準備をすることにした。

 風呂工事はそのまま注残処理を続けてもらい、船については奴隷たちの面倒も見てもらっていることもあるので、船大工の棟梁には手付金の他にやや多めにお金を渡しておいて「棟梁が納得するまで修理してください」とだけ伝えて王都に向かった。


 今回は、俺が買った奴隷たちも騎士爵の従者として引き連れ、旅の途中でのパワーレベリングも兼ねている。

 尤もモリブデンにいた時にも俺があっちこっちと忙しく仕事をしていたこともあり、暇を持て余しているナーシャやダーナにレベリングをしてもらっていたようだ。

 あの母親と一緒に買った子供にもパワーレベリングをしていたのには驚いたが、既にそんじょそこらの冒険者では太刀打ちできないレベルにまでなっていたので、今回は俺の従者として連れていくことにした。

 仕事とは言え、まだ幼さが残る子供を母親と長く離れさせるのは忍びない。

 それに、今のレベルならば一人でもこの森の中を抜けられるだけの強さも持っている。

 それでも当然ダーナたちには足元にも及ばないが、従者くらいには使えそうだ。


 パワーレベリングをしながらの移動だったので、3日で行けるところを通常の移動時間である7日もかかった。


 王都に入ると、さっそく情報の収集だ。

 自分の店に獣人たち従者兼兵士を預けて、店長を任せているカトリーヌに最近の王都の情報、特に上流階級に関するうわさ話などを中心に聞いてみる。

 これと言ってゴシップ以外にはめぼしい噂は出ていない。

 その噂の中で、今回俺が呼ばれた王宮での話もあったが、これはこの国の習慣、いや、多分どこの国でも同じようなものらしいが、社交界シーズンというやつらしい。

 その社交界シーズンの幕開けで開かれる恒例の陛下主催のパーティーらしい。

 このパーティーでは、新たに叙爵した貴族や世代交代で、新たに当主になった貴族たちの紹介がなされるのが恒例だとか。

 後は、ごくごく稀な話であるらしいのだが、陛下より功績のあった貴族の昇爵の親任もなされることもあるらしい。

 俺は件の伯爵配下の騎士爵となったことで、社交界に集まる貴族たちへのお披露目のためらしいが、面倒だ。

 王都に残っている元男爵家のメイドたちからの情報によると、とにかく有望貴族を一人でも多く抱えることがそのまま貴族の力となるらしく、俺もその数の一人としてあの伯爵が他の貴族にマウントを取るためのだしにでも使われるらしい。

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