第149話 奴隷たちのケア

 

 それが済んだら、食事についても十分に気を遣う。

 必ず一日一個の割合でアポーのみを食べさせる。

 それ以外にもできる限りの食事は気を使った。


 それと体を清潔に保たせるために、石鹸で体を洗わせている。

 ここまでしたら、やっとあの嫌な臭いは気にならなくなるレベルまで下げることができた。

 徐々に体調が戻ってきた奴隷たちには、今度は適度な運動を課すと言っても町中を走らせるわけにもいかず、幸い滞在先が船であることから総帆訓練を何度もしてもらい、体を十分に動かせる。

 なにせこの総帆って作業は相当体力使う。

 ケガには気を付けながら、別に急ぐ必要が無いので、とにかく体を動かせることを目的にしている。

 それと船内の掃除だ。

 これは毎日隅々までしてもらう。


 預かった奴隷たちにはそんなことで体力を付けてもらっており、今では十分に健康体と言えるまでなってきた。

 一月かからなかったが、どうするかな。

 ここで一度フィットチーネさんと相談を持った。


「フィットチーネさん。

 預かった奴隷たちですが、十分に健康になりました。

 すぐにでも働けますがいかがしますか。 

 まだ私が預かっていますか」

「そうですね、預けた奴隷商を連れてきますので、一度みんなに見てもらいましょうか」

 フィットチーネさんは俺からの話を聞いて、すぐに奴隷商たちを集めてくれた。


 何をさせるわけでもないが、健康で働けることをアピールしないとさすがにまずいので、無駄に体を動かすためにしていた総帆をさせてみた。

 一斉に動き出す奴隷たちを見た奴隷商は感嘆の声を上げる。


「え、何、なんで弱々しかった奴隷たちが……」

「彼らって、町民って聞いていたけど、船乗りの間違えでは……」

「これならばすぐに買い手が、それも相当高値で買ってもらえるぞ」

「ここは港町だ。

 船員の重要はいくらでもあるが、これだけの精鋭ならばそれこそオークションでも開けばどれだけ高値が付くことか」

「問題は、女奴隷も交じっていることだがな」

「あれって、変な需要しか見えないぞ」

「実におしい」

 などなど、いろんな声が聞こえるが、ひょっとしてみんな船員として買われていくことになるのかな。

 それって、ちょっとまずかないかな。

 先にも聞いたけどここにいる奴隷たちは皆元町人らしいので、実際には航海どころか、船にだってこれしか乗ったことが無いはずなのだが……


 俺は慌てて声を上げる。


「皆様、お聞きください」

 俺はそう言ってから奴隷商の方に事情を説明した。


「そうなのか、でもこれだけできればな」

「いや、力があるんだし、元町人ならば他にも仕事はいくらでもあるさ」

 どうにか俺の話は無事に伝わったようだ。


 今まで掛かった経費に、治療代を上乗せして奴隷商に請求して、奴隷たちを引き取ってもらえた。


 後に残ったのは古い中古の帆船だ。


 二本マストの帆船で、近距離の貿易にはもってこいの物らしいが、捨てるのももったいないので、補強や修理を試みることにした。


「レイさん。

 費用はお支払いしますが、私のところの奴隷たちをもう少し預かってもらえませんか」

「別に構いませんが、どうしてですか」

「ええ、開港祭までうちで抱えておきたいと思いまして。

 預かってもらっている間は好きに使ってください。

 というよりも色々とレイさんの仕事を手伝わせてくださいな」

「それはずいぶん私に都合がいいような。

 私としては非常に助かりますが」

「ええ、先の総帆作業を見させてもらいましたが、レイさんに預けますと色々と技能が身に着くようですので、それも当てにしています」

「それならば、この船の改装などを手伝ってもらいます。

 この船捨てるのももったいないので、私の方で使ってみようかと」

「それは良いお考えで」


 しばらくは大工仕事の手伝いでもさせようかと、内装をいじることにした。

 が、その前に一度陸に揚げて船体の整備と点検もすることにする。

 この時代では乾ドックなどは無いが、陸に挙げての整備は頻繁にあるらしく、ここモリブデンでも適した場所はいくらでもある。


 尤も船大工の縄張りがあるようなので、フィットチーネさんに頼んで、知り合いを紹介してもらった。


 船は、そのまま奴隷ごと船大工に任せて整備をさせる。

 うちからはジンク村出身のガーナを付けて、手伝いに元貴族屋敷のメイドだったものを一人付けて毎日船に通わせている。


 今までガーナが抱えていた風呂工事についてはジンク村から預かっている子供たちも今ではすっかり仕事を覚えているので、サツキ一人でも現場が回るらしく、そのままサツキに預けている。

 そろそろ風呂工事を引き受けるのを止めたいのだが、相変わらず受注残を相当抱えているからそう簡単に注文を止められそうにない。


 商売がうまくいっているのはいいが、あまりに手を広げすぎたな。

 風呂工事の請負は正直するつもりは無かったのだが、この世界の口コミは馬鹿にできないどころか最強だ。


 モリブデンの貴族屋敷や豪商相手にいくつか実績を抱えたら、最近では王都からも工事の問い合わせが来ているらしい。

 フィットチーネさんの時にも貰いすぎと思うくらいの工事費を頂いたのだが、フィットチーネさん以外にはそもそも商売する気が無かったこともありかなり吹っ掛けている。

 それでも現状のありさまだ。

 王都についてはお断りをしているが、無理やりに近いものもそろそろ出てきそうなので、10倍は吹っ掛けようかと考えている。


 今は人手が無いことでどうにか王都からの注文を断ることができている。俺が貴族の仲間入りをしたために、半数は断れるらしいのだが、絶対に断れない注文も出てきそうだ。


 貴族の生態に詳しいうちの元メイドたちの言によると、俺は先に治療をした王都の法衣貴族の伯爵の傘下に入るらしい。

 なので、俺にはその伯爵からの依頼は断れないらしく、伯爵ご自身でなくとも伯爵の紹介状があればダメらしい。


 費用や納期については常識の範疇であれば俺の方でコントロールができるらしいのだが、その常識を俺は持ち合わせていない。

 まあ、今までなかった風呂の形式なので、その常識というのも怪しくなる。

 納期については1年くらいまでを限度にどうにかしないとまずいだろうと言われた。

 費用については、それこそモリブデンで受けている費用の10倍程度までは問題は無いらしい。

 流石に100倍はきつく見えるが、どうでしょうって、なんなのどうでしょうって。

 100倍吹っ掛けてさんざん恩を着せて6~70倍程度まで値引きをすればって、流石にありえないだろうに。

 今のフィットチーネさんの家を基準に10倍ももらいすぎだと考えていただけにこの世界のお金に関する常識が怖い。

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