第148話 奴隷を連れてモリブデンに戻る

 

 一通り難民キャンプ地のような場所をめぐり、目星をつけていく。

 しかし、ここの集められた奴隷たちは先に説明があったように獣人ばかりだ。

 しかも女性や子供しか見当たらない。

 よくよく探せば働き盛りの男性を見つけられるかもしれないが、そこまでして男の獣人が欲しい訳でもないから、俺にとっては別段不都合を感じない。

 流石に俺は子供相手にという趣味もないからとにかく歩き回ったが、仲間に欲しいと思うのが見つからなかった。

 それでもハーフのダークエルフの冒険者のような一団と熊人族の母娘、それにドワーフの姉妹辺りに目星をつけた。

 熊人族の母娘の娘の方は、正直奴隷としてどうかとも思ったが、流石にまだ幼い娘だけを母親から引き離すもの気が引けたので、ドースンさんに一緒に買うと言ってある。


 予算的には少々厳しくなるが、幸い昨日貴族から一時金を貰ったこともあるので、支払いはできそうだ。

 それに俺の選んだ奴隷たちはそれなりに戦闘経験もあるようなので急ごしらえの部隊には使えそうだ。ただし娘を除く。

 あの貴族のことだ。

 俺の意向など一切気にもせずに騎士にするくらいなのだから、いつ何時戦に連れ出されないとも限らない。

 タリヤだけでなく他の元メイドたちも口をそろえて数人でもいいから兵士をそろえた方が良いとまで言っていたので、俺は今回の奴隷でそれを済ませようと考えている。

 何せ俺のところは今でも人手が足りない。

 それに兵士ならば王都とモリブデンとの間の仕入れの護衛にも使えるので、一石二鳥だ。 


 翌日にはフィットチーネさんがモリブデン奴隷商を連れてここにやってきた。

 流石に仕事が早い。

 俺と挨拶を済ませると、すぐに奴隷の買い付けに走り回っている。


 しかし、今度もかなり多くの奴隷を抱えることになってしまった。

 騎士爵部隊としての奴隷なので、体調が整い次第森にでも行って彼女たちの力量を調べたい。

 できればパワーレベリングも済ませてから王都にでも預けよう。


 俺は手続きを済ませたら一度王都に戻り、酒の仕入れをするためにバッカスさんに店に向かう。


「いらっしゃい、レイさん」 

「ばかやろう、騎士様に向かってその挨拶は何だ」

 いつも俺に挨拶してくれる手代さんがいきなり主人のバッカスさんに怒られている。

 普段ほとんど店にいないのに、こういう時にだけ店主のバッカスさんはいるんだものな。


「バッカスさん。

 手代さんを許してくださいよ」

「は~騎士様が言うのなら……」

「それに、騎士様ってのもなしで」

 それからバッカスさんと世間話をして酒を仕入れてから店を後にした。

 これからも今まで同様のお付き合いをしてくれるそうだ。

 言葉遣いも含めてだ。

 これで手代さんも怒られることは無くなるだろう。

 それにしても今回は迷惑を掛けてしまった。

 手代さんは俺の徐爵なんか知らなかっただろうに。

 そもそも何でバッカスさんが知っているんだと、流石に耳が早い。

 あ、それならば先の挨拶の件はバッカスさんが悪いのでは。

 どうせ遊びまわって、俺のこと店の人に伝えてなかったのだろうに。

 あのできる手代さんが簡単なミスなどするはずもないしな。

 この世界にも上の不手際を下が被るという理不尽がありふれているのだろうと、俺はいらぬ感心をしていた。


 一通りの用事を済ませてから、一度王都にある自分の店に戻り簡単に経緯を説明後に奴隷を引き取りにあの丘に戻った。


 支払いは後程俺の店からドースンさんに届けることにしてある。

 登録はその場で済ませて、10人ばかり連れてフィットチーネさんたちと一緒にモリブデンに帰る。

 フィットチーネさんたちと一緒なものだから帰りは5日ばかりをかけて戻ることになる。

 正直、最近の俺たちの行動から此度のモリブデンへの旅程は非常にゆっくりとは感じるが、長旅をしてきた奴隷たちを連れているのだ。

 彼女たちは当然今度も歩いて移動になる。

 俺のところの奴隷たちもそうだが、他の奴隷商の仕入れた奴隷たちは相当疲れているようだから、これでも早く感じているようだ。

 流石に熊人族の娘はまだ小さかったこともあり、荷馬車の後ろに載せてもらっている。

 ほかにも数人フィットチーネさんが連れてきた奴隷商が仕入れた子供もいたので、一緒に載せた。

 その代わりと言っては何だが、俺たちもフィットチーネさんの護衛を務めている。


 お世話になっているフィットチーネさんだから護衛の依頼料はとるつもりも無かったのだが、正規のお金を支払われた。

 今回散財をしたばかりなので、この護衛の報酬はありがたく頂いた。


 モリブデンに着くと、俺の買った奴隷の他にフィットチーネさんや他の奴隷商の買った奴隷たち、総勢で100名はいるだろうか、その全員の面倒を俺が見ることになる。

 しかし病院のキャパでは明らかに不足して無理だ。

 そこで、冒険者ギルドや商業ギルドに相談したら、船を使ったらどうかとの提案を受けた。

 幸いかなり船齢を重ねてはいるがまだまだ使える船が売りに出されているとかで、半ば無理やりその船を買わされた。

 二本マストのキャラック船に近いものだ。

 当然、費用としてこの船の購入代金を俺に奴隷を預けている奴隷商たちに奴隷たちを預かる手付金として支払わせた。

 

 この後にもかかる費用を請求するつもりだが、それでも奴隷商にとっては悪い取引ではないという。

 王都では人気のない獣人たちだが、王都以外ではその獣人が持つ戦闘力や純粋に力は働き手としては非常に魅力だそうで、いつもならばかなりの高値が付くらしい。

 しかし、今回は流行り病の関係で、ほとんど捨て値で引き取ってきたと言っている。

 かくいう俺も登録料や税金の他には、下手をすると王都まで連れてくる費用位しかと思える値段で獣人たちを買うことができた。

 まあ、仕入れ値についてもほとんどただのようなものらしいが、あ、それに税金まで値引きされているから、これは完全に被災住民のセーフティーネットになっているのだろう。

 一応借金奴隷にはなっているようだが、その借金の額がかなり高めに設定されているから、計算上では10年は奴隷になる。

 ほとんど一般奴隷のようなもんだと説明されている。


 その奴隷たちには仕事を与えるのだが、まずは、奴隷たち総出で、船内の掃除。

 とにかく新たな病気の蔓延が怖いので衛生面に気を遣う。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る