第147話  叙爵と難民キャンプ

 

 俺たちはまず別室に案内されたのちにパーティー会場に通された。

 俺たちが通された別室って、嫡男を治療していた時の俺たちが泊まっていた部屋だった。

 何も、たくさん部屋があるからと言って別に部屋に通す必要はないが、正直他の部屋も見てみたくはあった。

 何せ、この屋敷に1週間はいたけど、昨日の寝室の他はほとんどこの部屋しか知らない。

 食堂すら行ったことが無かったので、今日のパーティー会場は正直少し楽しみにしている。

 『好奇心は猫をも殺す』の喩じゃないが、こういう好奇心はやめられない。


 会場ではすでに貴族たちが集まって談笑していたが、俺が部屋に通されると、件の貴族と嫡男が登場してきて、本格的にパーティーは始まった。


 まず、ご当主から嫡男の快気の報告があり、その後嫡男からは俺への感謝と、皆に心配かけたことに対して詫び?があった。


 その後、俺はご当主に呼ばれ傍に行くと、その場で騎士爵の任命を受ける。

 なんでも準男爵位までは伯爵クラスならば簡単に任命できるらしい。

 俺へのお礼として箔付けのつもりかのかは知らないが、俺の気持ちは一切関係ないとばかりにその場で俺は騎士爵にさせられた。

 ここでまたタリアに登場してもらい色々と解説をしてもらう。


 騎士爵程度ならばすることは何もないらしい。

 国が任命したのならばこれに年金のようなものが付くこともあるらしいが、貴族の任命ならばまちまちだ。

 そのために、責任というものも発生しない。

 まあ、多くの貴族が騎士爵に望むのは戦力などの直接的な理由で任命するので、当然貴族軍での責任のようなものが発生している。

 そのために給金代わりの金も支給はされるようだが、今回のように俺へのお礼での叙爵では一時金だけで年金は無いらしい。

 尤も、この一時金も治療費の替わりなので、本当にただの箔付けのようだ。


 それでも、この場で俺の治療に関しても発表されたので、この後パーティーでは多くの貴族から病に関して色々と相談はされたが、治療を受けたいのならば設備の整うモリブデンにどうぞと最後には伝えている。


 いちいち往診を要求されたのでは面倒以外にない。

 とにかく最大の懸念事項であった貴族屋敷でのパーティーは無事に終えることができた。


 しかし……ただ治療費を払うだけにしても面倒なことをするものだ。

 そんなことを考えている。

 翌日にはドースンさんの店から呼び出しがあった。

 王都の外に問題の獣人たちとほとんどの奴隷たちが到着したというのだ。

 俺はドースンさんの店に向かうと、その場で馬車に載せられ王都の外に運ばれる。


 そう、夕日で照らされた王都の景色を見るには素晴らしいと言われるあの丘まで連れてこられた。

 そこにはテント村ができている。


「なんなんですかここは?」

「ああ、奴隷たちな。

 流行り病のあった町から連れてこられたものだから、王都に入れてもらえないんだ」

 ドースンさんの説明では検疫のようなものか、とにかく王都に入れてもらえなかった奴隷たちが集められている。

 ここで奴隷たちの取引をされるらしいが、どうも王都へは当分入れそうにない。


 奴隷商たちは冒険者ギルドや商人ギルドを頼って、とにかくテントだけは確保して現状にある。


 しかし、奴隷のほとんどが疲れた顔をしている。

 まあ長旅をしてきたのでわからないわけではないが、それにしたって衛生環境が悪すぎる。


 まずは身ぎれいにさせ、栄養を取らせないと、せっかく疫病を生き抜いてきたのにもかかわらず別の病で死ぬことになりそうだ。


 幸い、ここには水場があるので、とにかく奴隷たちを洗うようにドースンさんにお願いをしている。


「このままならばここで疫病を作ることになりそうですよ」

「え? 

 どういうことだ、レイさん」

「だから、不衛生なんです、あの奴隷たちは。

 とにかくまずは身ぎれいにさせてください。

 それに十分な食事も与えてください。

 でないと病で全滅しても不思議はないですよ」

「わ、わかった。

 奴隷組合に連絡して、すぐに対応するようにしよう」


 俺からの指摘を受けたドースンさんはすぐに動いてくれた。

 生き腐れ病を治すことができる者で、先日病気の治療で王都の大物貴族から騎士爵の称号を受けたばかりの俺からの指摘と周りの奴隷商たちをたきつけてすぐに対応を取ってくれた。

 十分に満足のできるレベルかというといまいちではあるが、先ほどの状況に比べれば雲泥の差はある。

 どうにか病気の発生は、少なくとも蔓延まではしないレベルにはなったとは思う。

 その後に、俺はドースンさんに連れられて奴隷たちを見て回る。


 幾人かは体調を崩しているものを見つけたので、分けて隔離処理をしてもらい、とりあえず簡単な治療を施す。


 実際に奴隷たちの取引は数日後にこの場にて行うことがその場で決まったようだ。


 ドースンさんが言うには王都の奴隷商の誰一人も奴隷たちを買い取る意思はなく、近隣の町に案内だけは出してあるそうだ。

 また、モリブデンからはフィットチーネさんが数人の奴隷商を連れてこちらに向かっているそうなので、それを待ち取引を始めると言っていた。


「なので、レイさん。

 今回のアドバイスや治療のお礼代わりに取引の始まる前に奴隷を選んでみてはどうかな。

 レイさんならば取引前に売ることができるぞ」


「え、そうなのですか。

 私も知らないうちに貴族の仲間に入れられたようで、騎士爵ですが。

 少しばかりの手持ちの部隊を持たないと格好がつかないと、前にドースンさんが俺に売りつけたメイドたちから聞かされましたので、兵士に向くような奴隷でも探しましょうかね」

「そうなのか。

 しかし、ここに連れてこられた奴隷たちは一人の例外なくはやり病のあった街から来たものだぞ」

「??」

「流行り病の前にも飢饉などもあったようなので、やせ細ったものばかりだったはずだ。

 もっとも、獣人ばかりだから人よりは力は強いものばかりだがな」

「それならなおさら、きちんと飯を食わさないとね。

 飢饉があっても病に勝つくらい強靭な体を持っているのだから、きちんと食事をさせればそれこそ立派な人ばかりでしょうね」

「立派かどうかはしらんがな、でも、運だけは良かったとは思う」

「生きていくうえで、運も大切な要素ですよ。

 私も運に助けられた口ですからね」


 俺はドースンさんに連れられて奴隷たちを見て回った。

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