第151話 王宮への手土産
たかが商人をこんなことで使うなんて、俺には無駄としか思えないが大人の付き合いとして諦めている。
俺が王都に到着したという情報を一体どこから聞きつけたのか知らないが、カッペリーニ伯爵から早速呼び出しがあった。
パーティーを開くのではないとのことなので、手土産など不要とのことらしいが、そこはそれ、手土産の一つでも持ってというやつで、王都の店で売っている石鹸の詰め合わせを持って伯爵の元を訪ねた。
この石鹸の詰め合わせ、最近始めたもので、売値で金貨数枚と言う超が付く高級品だ。
原価は大したことが無いのだが、香りの強めな草花のエッセンスを臭わないきれいな油で作った石鹸に混ぜ合わせただけの物だが、初めから王都ではみな高級品として高値で売りさばいていたこともあり、売れないだろうという予測で強気の値段を付けたら、あら大変、これが飛ぶように売れている。
貴族社会では値の張る消耗品って結構便利に使われるらしい。
ご贈答用だけの用途しかないらしいのだが、羽振りの良い商人や貴族には便利にお使いされているとかで、カトリーヌからは増産をお願いされている。
原価は大したことが無いのだが、結構これ作るのが面倒なので、あまり増産したくは無かった。
洒落のつもりで作ったのに、というか、俺が手土産にいちいち悩まなくとも良いように強気の値段を付けてあるだけなのに、俺と同じような使い方をする人が王都にはあまりに多かっただけの話らしい。
カッペリーニ伯爵の屋敷に入り出迎えてくれた家宰の人に手土産としてあの石鹸の詰め合わせを渡した。
家宰の人はそれを受け取るとえらく驚いていたがすぐに元に戻り、俺を伯爵の執務室に案内してくれた。
今日は執務室に案内されたことから、面倒な儀礼を省きいきなり本題に入ってくれると俺は密かに喜んだ。
部屋に通されて、伯爵と対面する。
ここは大人の対応として、まずは挨拶だ。
「伯爵様より爵位を頂いてさほど時間は経ちませんが、お世話になっていることのお礼に心ばかりの品をお持ちしました。
ご笑納頂けたら幸いです」
「なにやら、とても高価な品を頂いたと家宰から報告は受けている。
なんでも最近王都で、流行りの石鹸らしいな」
「はい、私共の商売の品の一つです」
「なに、石鹸の商いまでしておるのか。
うまい食事を出すだけでなく」
「ええ、御贔屓様に貴族のご令嬢の方が多くおりましたので、少しでもご令嬢の方に喜んでもらいたく、店の隅で細々と商っている品でございます」
「病気の治療だけでなく、本当に手広く商いをしているな」
「病気の治療の方が成り行きで始めたものでして」
そこから、お話が始まった。
話を聞いていくうちに、どんどん面倒ごとになりそうな予感がしてくる。
「国内での流行り病は峠を越したが、どうしても辺境での被害がひどくてな」
「は~~」
「貴殿は王都で治療院だったか、する気はないのだな」
「はい、王都での店もモリブデンでの仕入れの関係で、御贔屓筋からの紹介がありまして、本当に成り行きなんです」
「バッカス酒店か。
王都の老舗と取引をしていたな」
「ええ、とてもよくして頂いております」
「なら、治療院はどうだ。
何ならわしが世話をするぞ」
「伯爵様。
私もかなり手広く商いをさせて頂いておりますが、そろそろ限界のようです。
正直これ以上の……」
「そうか、だがな……」
なんだか言いにくそうだ。
「まあいいか。
今度の陛下主催パーティーな。
貴殿に陞爵の話が来ている。
陛下直々にな」
「え!」
俺が驚きの声を上げてしまい、伯爵に軽く睨まれた。
「私のせいでは無いぞ。
貴殿が王都の郊外で奴隷たちの面倒を見たらしいじゃないか。
それを聞いた陛下が偉くご興味を惹かれて、私に問い合わせがあったのでな。
息子の件を話しておいた」
陛下から治療の話でもあるのかな。
流石に陛下からだと、往診も断り切れないぞ。
「私も詳しくは聞いていないので、これ以上のことは話せないが、ある程度の覚悟はしておいてくれ。
くれぐれも先ほどのようなことは……」
感嘆の声はあげるなと釘を刺された。
それから王都で販売している石鹸の話もあり、俺は店に来ていただけましたらいつでもお譲りしますとだけ答えた。
まさかただで集りには来ないだろうが、無理を言われるくらいは覚悟をしないとまずそうだ。
それで、ひとまず解放されて、店に戻ることができた。
店に戻り皆に話を聞くと、俺の置かれた状況がおかしいというのだ。
何がおかしいかというと、いくら有力貴族から叙爵されたとはいえそうそう王宮に呼ばれるようなことにはならないらしい。
前に聞いた話では陛下主催の今度のパーティーでは新たに叙爵されたものが紹介されるとか言われたのだが、これも親の爵位を継ぐ者以外は、寄り親からの報告だけで済まされるのが通例だとか。
何より、騎士爵程度の身分では王宮に呼ばれるのも稀だという。
今までもいなかったわけでもないが、それはあくまで寄り親の随員としての立場だ。
今回の俺のケースでは、カッペリーニ伯爵の随員として王宮に行くのならわかるが、実際にはそうではなく、どうも王宮の方から俺が呼ばれたようなのだ。
尤もカッペリーニ伯爵の嫡男の治療に関係しているようなのだが、王宮でも治療でもさせるのかというとどうもそれも違う気がする。
よくわからないというのが結論だ。
まあ、ここで悩んでも仕方がないので、俺は自分の仕事をしていく。
まずは王都の店での警備目的で前に仲間となった騎士奴隷たちと、今回新たに仲間に引き入れた獣人奴隷たちとの引き合わせだ。
と言っても、この店に着いた時から店の方で勝手に自己紹介程度は済ませているようだ。
なので、俺は彼女たちを連れて王都から出て、近くの森に出向き、魔獣たちとの戦闘を試みる。
王都にいた騎士たちはそれこそ戦争のプロだったので、魔獣相手にも後れを取ることは無い。
獣人たちは獣人たちで、ダーナたちが暇に飽かせてパワーレベリングをしていたのでこちらも問題は無い。
ならば、今度はいくつかのグループに分けて、魔獣たちとの戦闘を試してみると、流石に慣れない組み合わせだったのか、連携に問題があるが、ここら付近の魔獣では後れを取ることは無い。
集まった誰もがここらあたりに出没する魔獣程度ならば一人でも十分に対処できるだけの力量を持っているから問題ないのは当たり前なのだが、連携に不備があるのは後々問題が出そうだったので、俺が王都のいる限り、連携に注力して経験を積ませていくようにしていく。
ナーシャとダーナはあくまで俺の護衛なので、今回も近くに居るが魔獣狩りには参加していない。
ナーシャなどは明らかに暇そうにしていたが、ここは我慢してもらう。
周りにいる魔獣を狩りつくしたのか、近くに魔獣の気配が無くなったので、狩り取った魔獣の処理をしてもらい、王都の店に戻った。
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