第193話 ガントさん、王都に行く

 

 今度は、ガントさんもいたが俺たちの仲間以外にはガントさんだけだったこともあり、いつものようにパワーレベリングをしながら向かった。


「これは良いな、レイさん」


 ガントさんも魔物退治に付き合っていたこともあり、レベルが上がったらしい。


「ガントさんもレベルが上がりましたか」


「レベル? なんだそれは。

 それよりも魔物を退治していくと急に調子が良くなることがあるし、その後は力もついてきたように感じるが」


「ええ、どうもそういうものらしいですね。

 ですからうちではできるだけ魔物退治の機会を作り、女性たちにも参加させております」


 今度の王都行きでは前回付いてきたマリーさんに代わりエリーさんが一緒だ。

 本当に上手にローテーションを組んでいるようだ。


 俺たちが再び王都に来たものだから、王都の店にいる女性たちは皆喜んだが、同時に不安そうな顔をしている。

 またぞろ厄介事に巻き込まれたのかって感じなのだろう。

 俺はすぐにそれらの不安と同時に期待すらも打ち壊した。


「すまない、王都に拝領している屋敷の件で大工の頭を連れて来たんだ。

 俺はすぐに戻るから、申し訳ない」


 女性たちは、見事に不満そうな顔をしてきた。

 その様子を見た時に、不安から不満へに変化ってそれほど変わりが無いと俺は思った。

 別にためになる話でもないけどって、全くいらない知識だが、すぐに俺は店の一人を連れて屋敷に向かう。


「ガントさん。

 この屋敷なんですが」


「ほ~、思っていたよりはましな状態だな」


「ましって、そうですね。

 草刈りと外壁だけはすぐに手を付けましたが、それ以外は全くですよ。

 今中に入りますね……あれ、扉が開かないぞ」


 扉の蝶番が壊れているのか、鍵が壊れたのか知らないが、扉が開かない。

 俺が困っていると、ガントさんが俺を押しのけて扉に向かって一突き。


『が~ん』


「こういうものは一度大きなショックでも与えればどうにかなるものだ。

 それでも無理そうならば壊すしかないよ」


 ガントさんはそう言いながら扉をガチャガチャしはじめ、どうにか扉を開くことに成功する。


「確かに中は酷いな。

 これなら全部作り直した方が……あ、そうか、いろいろとあるのだろうからいきなり新築は無理そうだな」


「ええ、壊すにしても、周りが貴族ばかりですので音を出すわけにはいきませんので」


「おいおい、それなら修理だって無理だろう」


「それくらいの音ならば大丈夫なようですよ」


「はい、修理の音ならば周りの貴族は文句を言ってきません。

 尤も相当大きな音を出すようならば話は別ですが」


「そうなのか、それなら安心だな。

 で、いつから始めるね」


「全てお任せで」


「は~?

 すべて任すだと」


「はい、そこのメイドと相談してください。

 正直私はほとんど使うことが無いので」


「本当に貴族って人種は無駄が好きだな」


「私は無駄は嫌いですが、付き合いというかなんといいますかって感じです」


「ならば、う~んそうだな。

 一度戻ってから考えるか」


「そうですね。

 でしたら、あとは王都の店の者に相談してください。

 費用についてもすべて店の者に任せておりますし、何かあっても、私とはすぐに連絡がつきますから」


「わかった、で、レイさんはこの後どうするね」


「私はすぐにでも領地に戻らないといけないので、一旦モリブデンに帰ります」


「ならわしも付き合うか」


「え! すぐにお帰りで。

 今晩だけでも泊まりませんか」


「レイさんよ、ああいっているがどうするね」


「わかりました、いったん店に行きましょう」


 俺はそう言って、ガントさんを王都の店に連れて行った。

 店で食事をご馳走した後、王都で前に使っていた高級な宿にガントさんを連れて行き「明日朝にむかえにきますので」と言ってガントさんと別れた。

 当然店に帰ると女性たちが待っていたので、今晩だけは俺も頑張り全員を相手にした。

 さすがに疲れたが、それでも朝一番に宿まで行ってガントさんと合流してモリブデンに帰っていった。

 帰りもパワーレベリングをしながらになったが、途中ジンク村に寄ってガントさんと別れた。

 ガントさんは、村からも仲間を連れてくるとか言っていた。


 俺はすぐにモリブデンに戻り、預けている子供たちを引き取り、船で領地のシーボーギウムへ向かった。

 船の中で3日は、俺にはやることが無い。

 ダーナやナーシャはそれでも船の中から海中に潜む魔物を見つけては倒しているようなので、暇を持て余してはいないようだ。

 正直、今回の航海で初めて知ったくらいだったのだから。

 それまでは、どうしても船酔いでどうしようもなかったが、俺もだいぶ慣れてきた。

 今のように快調に航海している分には船酔いも克服されたが、海が荒れるとわからない。

 まあ、できるだけ安全を見て船を出しているので、今のところ荒れた海で航海する羽目にはなっていない。


 なので、俺の方が船の中では暇を持て余すことになっている。

 だから、本当に久しぶりに子供たちと話してみた。

 子供たちは今回のモリブデン行でかなり成長したようで、目の輝きが違っていた。


 いろいろとあったが予定通りにシーボーギウムに戻って来た。

 今回連れて行った子供たちの成長だけが異様に目立つ結果となっており、見た目からオーラというのも変なのだが、目の奥に籠る力というやつか、そういうものが違うのだ。

 子供たちのやる気も積極性も連れていく前と比べて格段に変わっており、俺に対してもどんどん意見や要望を言ってくるようになっている。


 そんなある日、リーダー的な少女が一人俺の下を訪ねてきた。


「どうした。

 俺に何か用か」


「はい、いつも私たちに良くしてくださる領主様に、本日はお願いがあってまいりました」


 少女のそばにはいつの間にか元メイドの一人が立っており、俺に向かってうなずいている。

 彼女は少女のお願いをとりあえず聞いてほしいと言っているようなものだ。


「どうした、お願いか。

 内容にもよるから、とにかくまずはそのお願いを聞かせてほしい」


 俺がそう言うと、勇気を振りしぼるようにお願いごとをしてきた。

 早い話、彼女が言うには、自分達でもわかるくらい考え方がモリブデンに行って変化したので、他の子どもたちにも同じようにチャンスを与えてくれないかっていう感じだ。


 彼女の願い事の後に元メイドから補足として話を聞いてようやく理解できた。

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