第192話 拝領した王都の屋敷
そもそも疫病で領地が亡ぶなんか想定外の話になっている。
過去にそのような事例が無いかと言えば、かなり頻繁とは言わないが、珍しくも無い。
だが、そうなっても自分らの権益に影響が出なければ今の俺のように誰かに丸投げで終わりだったようだ。
今の領地も、あそこまで大きくなったのは珍しく、せいぜい小さな港町で開拓事業などが何度もなされていたと聞いている。
50年位前の領主ができた人だったようで、港に注目して、そこから発展していったとかで、一時期は国でも重要都市になっていたとか。
そんなせっかく発展した都市を含む領地も、あとを引き継ぐ者がいなければどうにかなってしまうものだ。
それは商売も同じなのだろうが、貴族というのは見栄を張るのが商売の一面もあるので、見栄とわかっていれば問題ないが勘違いしてしまうと取り返しがつかなくなるらしい。
俺の頂いた領地の経営も先代に変わり急激におかしくなったとか。
はやり病がそれこそ流行し始めた時にすぐに対処していればどうにかなったであろうが、肝心の貴族が領地に寄り付かない。
代官ですら、さっさと逃げ出す始末だ。
だから、今度こそは俺が張り付いてどうにかしていこうと考えているので、どうしても領地にいる時間が長くなる。
だからと言って引き籠れるのならば楽なのだが、それもまずいらしくて、王都に屋敷まで拝領している関係で、そっちの面倒も見ないといけない。
ということで、俺は朝からタリアを連れて、王都の屋敷まで来ている。
現在は外回り、道と屋敷を仕切る壁の修理をしているようだ。
中はというと、通りに面した庭は一応草刈りは終わっているようだが、庭と呼べるまでにはなっていない。
「どうにか外回りだけでも様になって来たのか」
「ええ、一応周りのお屋敷に迷惑をかけることが無いレベルまでにはなってきております……ですが……」
「ああ、屋敷本体だろう。
そっちは、俺たちが落ち着いてからゆっくりしていきたいが、大丈夫かな」
「大丈夫と言いますと」
「俺って新興貴族とか呼ばれているのだろう。
そんな者が王都に屋敷まで拝領しているので、お披露目などしないといけないとかないのか」
「ええ、そのことですか。
本来ならば、準備が整いましたら寄り親を通してお仲間にご挨拶しないと不味いでしょうが……レイ様の場合どうなんでしょうかね。
まあ、一年やそこらは問題ありませんよ。
新築のお屋敷を拝領した訳でもありませんし、そういう状況は王都にいる貴族には伝わっておりますから」
「え?
そういうものなのかな」
「ええ、拝領した屋敷のリフォームで2~3年かけるのは普通ですし、リフォーム前にお屋敷に招待はありませんので」
「なら、問題ないか。
別に急ぐつもりもなかったのでよかったよ」
「ですが、伯爵にはご報告だけは」
「ああ、頻繁に進捗だけでも伯爵家に報告してくれ。
任せてもいいよな」
「ええ、お任せください。
……ですがこのお屋敷は……」
「ああ、王都の拠点にしていくつもりなので、本格的にリフォームしていくつもりだ。
モリブデンにあるような風呂も作るぞ」
「え!
こちらでご商売を……」
「いや、そのつもりはない」
「ですが……」
「ああ、無理を言われるとかいうのだろう。
モリブデンでもガントさん達に風呂の改築は任せるようにしているし、そのあたりについてはガントさんと相談してになるかな。
俺たちはあくまで繋ぎを取るだけだ。
それくらいならば、王都にいる人だけでもどうにかなるでしょ」
「そうですね」
そんな感じで、とりあえず王都での俺の仕事は今回分に限り終わったようだ。
今夜も福利厚生の件を処理したら、明日にでもモリブデン経由で領地に戻る。
その福利厚生が、俺の体力に依存していることが問題だとは思うが、俺も楽しんでいない訳でもないので、積極的にどうにかしたいとは考えていない。
そのうち立ちいかなくなることだけは分かっているので、考えなくもないが多分だが、そのあたりも含めてお姉さん方が何か考えているのだろう。
何せ今回からというか今後は、俺に秘書役として常に一人が付くらしいから。
王都の店での大運動会ともいう社員総出の福利厚生を兼ねたレクリエーションも無事に済ませてから俺はモリブデンに戻っていく。
帰りもマリーさんのパワーレベリングをしながらだから、いつもよりは一日多く5日でモリブデンに到着した。
モリブデンについてもゆっくりできずに、追い立てられるようにシーボーギウムに戻る。
その際、秘書役は元に戻されエリーさんに代わっていた。
いつ変わったのかは知らないが、そのあたりについてはお姉さん方で話が付いているのだろう。
お姉さん方が揉めているところを見たことが無い。
本当に三人は仲が良い。
そういえば、俺の所では皆仲が良い。
これには助かっている。
ただでさえ、そろそろ限界に近いところまで無計画に増やしていたところで、そこらじゅうで痴話げんかなんかされたらたまらない。
うちでは奇跡的なのだが、そう言うことろが無い……無いが、この奇跡がいつまで続くかは俺にもよくわからない。
もう、これ以上増やすのは控えないといけないか。
もう、遅すぎかもしれないが。
女性の加増については控える感じにするが、仲間については全然足りない。
少なくとも、王都の屋敷のリフォームもあるが、領地の手入れもあるので、大工も必要なのだ。
うちから、大工を任せているガーナと、風呂のボイラー周りの鍛冶仕事をしてもらっているサツキを呼んで、話し合う。
とりあえず、手押しポンプについてはモリブデンのギルドとも話し合いがついていたようで、モリブデンの鍛冶組合とでも言えば良いのか商業ギルド参加の鍛冶たちの集まりに生産を委託する方向で準備していたようだ。
以後の、風呂の改築についてはそこから部品は手配できるレベルにあるとか。
それならばと、ガントさんまで呼んで、今後についても話し合った。
モリブデンでの風呂改築の需要は一向に収まらない。
まあ、モリブデンの紳士たちの社交場でもある娼館でさんざんいい思いをしているので、だれもが欲しくてたまらないらしい。
ガントさんもジンク村から大工仲間を呼んで仕事に当たることにしたらしいから、今以上に注文を受けても問題ないと言ってくれた。
ならば、王都についても相談をしてみた。
まず俺の屋敷のリフォームついでの風呂の工事について相談してみると、一度現場を見たいと言い出す。
ならば、もう一度今度はガントさんたちを連れて王都まで出向く。
子供たちはもう一月モリブデンで留学してもらう。
幸いここには俺の店もあるし、何よりきちんと教育されている元男爵家のメイドたちもいる。
子供たちについてはメイドたちに任せて急ぎ王都に再び向かった。
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