第191話 王都での売り込み?
それからカトリーヌは店長特権を使って俺を奥に連れていく。
マリーさんやダーナたちが付いて来ようとするとやんわりと断りながらだ。
それを見た娘のマリアンヌが母親に向かって文句を言っているが、カトリーヌはニコニコした顔で無視して店の奥に入っていった。
当然俺の手を握ったままなので、俺も付いて行くしかない。
2時間しっかりと店長とのコミュニケーションを取った後に店に顔を出す。
正直かなり疲れた顔をしながらの登場となっていために、俺のことを待っていたみんなから『お楽しみでしたね』なんて声がかけられそうだった。
現に、この場に集まった全員からは先ほどの事情はすっかりバレている。
それで、店の方というと、すっかりと後始末も終えており俺たちを待っていた。
娘のマリアンヌからは、「遅~い」なんてクレームがつく始末だ。
これ以上待たせるわけにもいかず、目の前にある食事をみんなでとりながら、今回の王都訪問の趣旨を説明していく。
「レイ様。
ここ王都の来るには理由が無ければ来ないのですか」
なんて途中で茶々も入ったが、俺はとにかく気が付かないふりで説明をしていく。
「領地の自立のためには特産品の開発は避けて通れない。
今回持ち込んだのは、領地の孤児たちが作る特産品として、孤児たちの支援のためにもと考えているので、ここ王都でも使ってみてはくれないか」
俺はそう言ってからダーナに預けてある黒板と白墨を取り出した。
「レイ様、これは?」
今王都でメイドたちを指揮しているタリアが俺に聞いてきた。
「ああ、これは筆記用具だな。
紙とペンでもある程度代用もできるが、これは何度でも使えて便利なのでどうかと思ってな。
モリブデンではかなり好評だったのだが」
「どうやって使うのですか」
「なに、この黒板にこれを使って字でも絵でも描いてくれ。
いらなければ、間違っても乾いた布で拭けば簡単に消せるし、もし、だいぶ汚れたら濡れた雑巾などで拭けばきれいになる。
尤も黒板を濡らしたら、完全に乾かないと使えないがな」
俺はそう言って方、セットをタリアに渡して試させた。
するとタリアの周りに人が集まり、ワイワイと楽しそうに使い始めた。
「レイ様かこれをどんな感じでお使いになるのですか」
店長のカトリーヌが俺に聞いてきた。
「ああ、領地では学校と言っても分からないか、教育の現場で使っている。
それとモリブデンなどでは連絡版や、娼館では予約の管理に使うらしい」
「そんなに使い方が……」
「ああ、紙の代わりになるし、予約や勉強の現場ではいろいろと書くが記録として残す必要もないことが多いので、そういう場合にこれは便利だ」
「一時的な記録に強みがあると」
先ほどまで黒板で遊んでいたタリアが俺に近づいて聞いてきた。
「ああ、そうだな。
工夫次第だ。
それと、店の前において客寄せのメニューなどを書いておくのもありかもな」
黒板の周りには、人が入れ替わり、いろいろと遊んでいた。
そこから時間を使って、この黒板の可能性を皆にも理解してもらった。
「レイ様。
これを王都で発売するおつもりですか」
「いや、今は考えていないが、モリブデンでは売るつもりのようだ」
「なぜ、王都でも発売されないのですか」
「まだ、量産ができない」
「え、でしたら……」
「だから、孤児たちに作らせているので量産するにしてもすぐには無理だ。
モリブデンで発売するにしても金貨5枚を考えているようだしな」
「え?
そんなに……
ですが、それくらいの価値はあるかもしれませんね」
え?
ここでもそんなことを言い始める。
たかが黒板とチョークだよ。
ホワイトボードとペンでもないし、コピー機能なんかついていないけどそれでもなのか。
そういえば俺のいた会社ではまだ、コピー機能付きを使っていたけど、画像入力タイプが主流になって、さらにそれも終わったくらいだったのに。
さすがに、ネットで会議して資料もメールで送るなんかは無理でも、高価すぎやしませんかね。
でも、それだけ支払ってもらえるのならば孤児たちの世話も赤字にならないどころか、十分な収益事業になりそうだ。
王都で売るのならばモリブデンの二倍が相場になりつつあるので、金貨10枚に落ち着きそうだ。
「これ、ここに置いていくけど、まだ王都で売るつもりが無いので、店の中だけで使ってね」
「はい、それがいいでしょうね」
楽しい食事時間に続き、領地特産品のデモも終わったので、夜の運動会が始まる。
店長とのコミュニケーションはすでにみんなにバレているので、逃げることは許されずとにかく俺は頑張った。
これも社員の福利厚生とばかりに経営者はつらい……てな訳あるか。
翌日には朝からお出かけ。
本当はゆっくりとしていたかったのだが、それを許すような状況ではない。
とにかく王都でゆっくりとできれば、ここまで福利厚生で苦労せずに済むのだが、何せ王都には港が無い。
国の中央に位置しており、河川交通もなきにしもあらずだが、それと俺のもらった領地は繋がっていない。
俺の領地に王都から向かうには陸路でひと月、俺たちの足でも半月は歩いて向かうか、モリブデン経由での船旅になるが、このモリブデン経由のコースはほとんど王都の人間には伝わっていないかったようで、それだけにもらった領地が僻地扱いになっていた。
僻地でなければ俺が領地を貰うようなことは無く、どこぞの有力貴族の領地として栄えていたのではとすら考えてしまう。
話がそれてきたので戻すが、早い話、とにかく王都から遠いというのだ。
しかも、領地は絶賛復興中で、俺もできるだけ領地にいないとまずいと考えてしまう。
まあ、この考えもこの国の常識からは若干外れるらしい。
そもそも復興という考えそのものが無いところに、それに近いとことすれば、どこぞのできる部下を派遣して、そいつらに丸投げが貴族のデフォルトらしい。
せいぜい、騎士爵程度の開拓事業があるがそれくらいしか貴族が自ら出向いてというのが珍しいと聞いている。
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