第190話 王都に到着するも……

 




「ですね、サトをここに呼んだのはレイ様にサトからお礼を言いたいとあったことと、サトが言うには……」


 そこでマリーさんが言いよどむ。


「はは~ん。確かにそうよね。

 本当にレイ様も罪作りな……」


 何かを悟ったのかサリーさんまで何か変なことを言ってきた。


「サト、そういうことは自分の口で言うのよ。

 そういうことを言わせるのがレイ様は大好きですから」


「そうよね、確かにそういう部分はありますよね。

 そういう意味ではレイ様って鬼畜なところを持っていましたわね」


 なんだよ、お姉さん方は二人して俺をいじってくる。

 これって、もう一人領地に残るエリーさんがいても同じなのだろうな。

 しかし、鬼畜って酷くないか。


「そ、そんな~」


 それ見ろ、サトさんだって困っているだろうに。


「なんだか酷いことを言われているが、そんなことは無いから、言いたいことがあるのなら言ってきて。

 俺のできることなら、何でもかなえてあげるよ。

 何せ、前にお世話になったこともあるしね」


「ほら~、レイ様も言っているし、自分でおねだりしてみなさいよ」


 なんだ~、何かのおねだりなのか。

 ひょっとして奴隷からの足抜けのことかな。

 娼婦を止めたいのならば俺はそれでもいいとは思うが、そのあたりについてはお姉さん方に任せているから、そっちで決めてほしい。

 お金が必要というのならば今は少し待ってほしくもあるが……


 そんなことを考えていると意を決したかのようにサトが俺の方をじっと見た後に話かけてきた。


「レイ様。

 本当に不躾なお願いになりますが……私もここ娼館の経営にも頑張ております。

 ですが、サリー様でなく、マリー様とも……ずるいです。

  ……

   ……

 私にも……お情けをください。

 頑張っているご褒美に……」


 もう最後は消え入るような声で何かとんでもないことを言っているような気がする。


「確かにそうよね。

 私たちはもう、レイ様に身請けしていただきましたが、彼女は不安もあるよね。

 レイ様。

 まだできますよね」


「ここで男を見せないと」


 二人はそういうと、途中まで来ていた俺の服をまた脱がせにかかる。

  ……

   ……

 こんどは4Pでした。

 さすがに疲れた。


 モリブデンに領地のあるシーボーギウムから戻るのは船で数日なので簡単だし、モリブデンから王都までもそれこそ数日で歩いて行ける……が、一度モリブデンに入ると、ここから移動するのに、いろいろと柵というか、そういうのがあるのでその人間関係の調整するのが大変になって来た。

 多分だが、王都でも同じことになるのだろうな。

 なんだか、冷静に今の俺の生活というか行状を考えると物語に出てくるモブで悪徳な貴族そのもののような気がしてきた。

 領民から美人は皆……ってやつだ。

 これって、勇者一行が領地を訪れた時に成敗される奴だよな。


 なので、店に戻ったのは翌朝となった。

 店のみんなからは冷たい目線が……


 マイやユキ、それにガーナやサツキまでもが『私たちには……』なんて言ってくるが、そろそろ王都に向かわないといけないので『今度ということで』とお茶を濁すようにモリブデンを逃げるように出て行った。


 今回はマリーさんも一緒だが、森の中を抜けるコースで、途中で出くわす魔物をマリーさんも交えて狩っていく。

 今回はマリーさんのパワーレベリングも兼ねている。

 マリーさんも自身のレベル上昇がうれしいのか、積極的に魔物を見つけては狩りを楽しんでいた。

 当然、野営でも獣たちはいたのだった。

 野営での獣たちの獲物は俺というだけの話だが。


 そんなのを数日とはいえ続けると本当に神様が見えてきそうになる。

 王都まで普通の商人ならばそれこそ10日くらいかけてくるようなのだが、俺がそんなに移動に時間をかけるとそれこそ俺の命にもかかわってきそうだ。


 まあ、俺たちは慣れないマリーさんを同行させてたとはいえ、そのマリーさんにパワーレベリングをしながらの移動だったこともあり4日で王都の到着できた。


「もう、王都に着いてしまいましたね」


 マリーさんが、さも残念そうに言葉を漏らす。


「レイ様。

 この後どうしますか。

 いつものように直接バッカスさんの所にでも……」


「いや、今回は店に用事があるのだ。

 店に行こう。

 帰るまでにはバッカスさんだけでなくドースンさんの店にも挨拶はするが……伯爵様にも挨拶は要るかな」


「そのあたり、店で聞いてみましょう」


 俺たちはすぐに王都の店に入っていく。

 店もピーク時間をとっくに過ぎて、夕方の閉店の支度にでも差し掛かろうかという時間なのだが、それでも客席は込み合っていた。

 ほとんどが上流に属するご婦人方の社交の場となっているようで、店内には上品に話すご婦人方の声があっちこっちで聞こえてくる。

 店内で客の相手をしていた一人が俺たちに気が付いて声をかけてきた。


「あ、レイ様。

 おかえりなさいませ」


 その声を聴いた店長のカトリーヌが俺に話しかけてくる。


「今回のご移動は時間がかかりましたようですが、何かございましたか」


 そうなのだ。

 モリブデンと王都に限らず、俺の領地とも情報のやり取りには時間のロスが無い。

 俺たちがモリブデンを出たことは既に王都にも伝わっており、俺がいつものように3日で到着しないことで、やきもきしていたとか。

 なので声にも少し怒ったような、はたまたすねたような雰囲気が漂う。

 これは相当サービスをしないと機嫌が直らないかもしれないかな。

 ここでうそでも言おうものならば、ご機嫌を取るのにそれこそ生死の間をさまよう羽目になる。

 尤もうそを言う必要もないので、正直に今回の移動の様子を話して聞かせた。


「カトリーヌにも初めての移動の時だったか、それ着近い時期だったと思うが、パワーレベリングをしながら移動してきたかと思うが」


「パワーレベリング?……ああ、魔物を退治しながらの移動ですね」


「ああ、今回は俺の秘書役として就てくれるマリーさんにも強くなってほしくていつも以上に魔物を狩っていたから、遅くなったようだ」


「そうですか……てっきり移動時間を使ってレイ様を……あ、失礼しました。

 そういうことなら時間がかかってもやむを得ませんね。

 ですが、心配したのも事実ですから、今回はいつも以上に……」


 あ、ヤバイ。

 うそを言わずとも危ないかもしれない。


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