第194話 少女のお願い
俺に直接のお願いだったこともあるのだろうが、プレゼンには少し問題があった。
子供らしいと言えば子供らしかったのだが、お願いされる内容が、子供らしくなく領地の人材育成にもかかわる内容だったので、どうしても要求に対してプレゼンがなっていないと、社畜時代を思い出してしまった。
幸い、元メイドの一人が少女の足りない部分などを説明してくれたので、少女の言いたいことは理解できた。
少女が、仲間の子供たちのことまで考えてのお願いだったのは理解できるが、それならばもう少し具体的な例などを入れて説明が欲しかったが、しかし、何も教育されていなかったであろう彼女たちだが、しばらく見ないうちに格段に成長を遂げている。
その成長が、今回のモリブデンへの往来だったのならば少女のお願いも考える方がいいだろう。
それにしても少女がかなり成長したのは認めるが、まだまだ勉強は必要だな。
そこで俺は少女が更に勉強をすることを条件に、お願いを聞き入れることにした。
他にも預かっている子供たちに今後もいろいろと経験できる機会を設けることを約束した。
また、少女だけでなく他の者も、十分に成長したのならば王都にも連れていくことを同時に約束した。
王都の店は俺の個人財産というか事業なのだが、屋敷はここシーボーギウムの支店のようなものだ。
いわばこの領地の公的出先機関なので、ここからも人を出しておきたい。
それに、この地での行政にも人を作らないと俺だけでは絶対に無理だ。
シーボーギウムに向かう船の中では、子供たちとの触れ合いに時間がとれて良かった。
その後もじっくりと他のメンバーとも話をしながら時間を使った。
船は予定通りに3日でモリブデンから着いたので、子供たちも一緒にその足ですぐに屋敷に向かう。
屋敷では、俺の帰宅に合わせてみんなが集まってくれていたので、そのまま打ち合わせに入った。
最初に、俺に提案してきた少女に、みんなの前で俺に提案してきたことを説明させた。
はじめは緊張していたのか、なかなか口を開くことができなかったのだが、俺が促して説明を始めさせると、そこからは本当に流暢とはちょっと違うが、自分の言葉でお願いしたいことをきちんと集まった全員に向かって説明してる。
少女の説明が終わるのを待って、俺はみんなに話を始める。
「今彼女からの提案を聞いたな。
俺も船の中で提案されたのだが、今の彼女の説明を聞いて確信が持てた」
「それは、どういうことですか」
マリーさんが俺に聞いてきた。
「信じられないだろう。
俺があの歳だったころに、あれほどしっかりと自分の考えを説明できたか自信がないよ。
それだけ彼女にとって、今回のモリブデンでの経験は生きているのだろう。
彼女も言ったが、他にも学習が進んでいて、素行も良いものから順番にモリブデンに連れて行きそこで学ばせたい。
そのうち、王都にも連れていくことを検討している」
「王都にでもですか」
「そこなんだよ、皆に相談したいのは」
俺はそう切り出してから王都に拝領した屋敷について相談していく。
俺の奴隷たちは、俺の商売をすべて理解しているので、王都での商売の状況も皆分かっているが、この地で採用した者たちには全く理解が及んでいない。
「だから、屋敷は今リフォーム中だが、それが終われば屋敷を維持していかないとまずい。
その人材をここで確保したいとも考えている」
「そのために子供たちも教育していくと」
「ああ、大人たちにも希望があれば考えるが、今までの生活もあるのだろうから俺は正直難しいと思っている。
そこに行くと子供たちは柔軟だ。
幸い俺の元には男爵家に仕えていたメイドたちも多くいるし、騎士になりたければ他の国だったが元騎士爵も居るから、そういう者たちから学ばせる」
「それは……考えられませんね」
バトラーさんが驚いている。
本来そういう上流にかかわる者たちも、そもそも上流階級の者たちも同じなのだが、そういう者たちの子弟の教育は秘伝とまではいわないが広く開放されているわけではない。
元々からして、そういう職業そのものが家業となっているので、他に出さないし、そもそも需要も限られているので、金のかかる教育など受けたいと思う者も現れないというのだ。
しかし、全く需要が無いかというと今の俺の様に人が欲しくて仕方の無い者居る。
こういう者たちは高い金を払い奴隷などをあたるが、なかなかそういうものなど見つからない。
せいぜい寄り親を頼り、同じ閥から相当高い支払いをして人を引っ張ってくるようなのだ。
俺も、現在船乗りに対しては同じことをしているが、見込みもなさそうなので、早々と自家育成に切り替えた。
王都の屋敷に勤める人も、同じことをしようと俺から提案している。
「今すぐという訳ではありませんが、王都に拝領した屋敷の改築が済み次第に人をここから連れて行きますので、そのあたりの準備をお願いします」
「ですが……」
「ええ、王都の屋敷ですが屋敷を任せられる家宰がいないので、大変心苦しいのですが、バトラーさん。
お願いしますね」
「え?
私ですか。
私に、このような田舎者に果たして務まるでしょうか」
「それは、私にもわかりませんが、どちらにしても私の知る人の中でバトラーさん以外にいないのですよ、王都の屋敷を任せられる人は」
「旦那様のたっての願いとあれば……ですが、そうなりますとこの屋敷は如何しますか」
「これ言うと怒られそうなのですが、私は貴族の生活を知りません。
ですので、ここは今までの拠点での生活と変わらないような生活になるかと考えております」
「レイ様。
今までの拠点と言いますと」
「ええ、マリーさん。
モリブデンの屋敷が私のイメージに近いかな」
「……ああ、あそこですか。
確かに、ここは他の貴族も訪れませんし、それこそ問題は出ないかもしれませんね」
「ええ、人が育てば考えますが、喫緊の課題として王都の屋敷です。
あそこだけは、さすがにまずそうで」
「確かに、そうですね。
お披露目もありますし」
「ええ、どうせ田舎貴族ですからバカにされても気にしませんが、伯爵や王宮関係者だけには顔に泥を塗るようなことだけは避けたいですからね」
「わかりました。
でしたら今から王都に連れて行く子供たちだけでも選抜して鍛えておきますか」
「お願いできますか、バトラーさん」
「はい、前のご主人様に仕えていた時と比べれば、最近は暇ですので、後進の育成の時間も取れるでしょう」
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