第14話 盗賊のアジト 再び

「お~~し、集まったな。

 ここに居るレイさんが案内してくれるから盗賊団のアジトに向かうぞ」


 俺の担当と化したのではと疑いたくなるが、ギルドからはあの主任がこの場を仕切る。

 今回の調査で暁さんもいるが、領主側からも兵士が6人ばかり付いてくるそうだ。

 まあ、ギルド主体であの盗賊騒ぎの締めくくりをするようだ。

 日の出と同じくして、ギルド前から隊列は出発した。

 暁さんも6人全員が参加している。

 大怪我を負った人も、まだ痛みは残るようだが、簡単な依頼なら参加できるまで回復している。

 この世界はある意味現代日本よりもこういう面がすごい。

 日本なら絶対に全治一か月はかかるくらいの傷を負った人も二人は居たはずなのだが、本当に良かった。

 知り合いに死者は出したくない。

 出発から4時間は歩いた。

 森の入り口まで来たところで、いったん休憩を取る。


「ここからまだ掛かるのか」


「直ぐとはいきませんが、もう半分は過ぎております」


「あの、襲われた場所の傍か」


「あ、イレブンさん。

 そうですね、あそこからですと2時間は歩きました」


「え、ならここからだとかなりあるんじゃ」


「それが、そこよりも町に近い場所になるようです。

 あそこから急ぎ帰った時には、そんな感じでした」


「そうなのか」


 これには兵士の隊長さんのような人が驚いていた。

 まあ、自分たちの町の傍に王都でも有名な盗賊がアジトを作っていたという訳だ。

 流石に、これにより責任を問われることは無いだろうが、それでも色々と言われると恐れているのかもしれない。


「そうか、あと少しなら、もうひと頑張りだな。

 出発しよう」


 そこからさらに3時間ほど歩いて、あの場所に着くことができた。

 良かった、迷わなくて。


「ここからだとすぐそこです」


 俺はあの入り口を探した。

 あった、あった、あそこだ。


「あそこです。

 あの洞穴です」


「あそこか、なら調査に入るか。

 レイは中まで付いてくるか」


「いえ、結構です」


「なら、外で周りを警戒しておいてくれ。

 あと、暁も外で警戒を頼む」


「分かりました。

 レイと一緒に皆さんを待つとします」


 そう言って、あの主任さんや、ギルド職員が数人と兵士たちが松明に火を灯して中に入っていった。

 捜索隊が中に入ってから1時間もしないうちに兵士が袋を抱えて外に出て来た。


「なんです、これは?」


「躯むくろだ」


「躯?」


「女奴隷の躯だな。

 性奴隷じゃなさそうだったが、そう言うことに使われていたらしい。

 多分、襲われた商家の奴隷、これも予測でしかないが借金奴隷の類だと思われるが、ろくに食わせてもらえずに、四六時中やられていたのだろう。

 酷い物だな」


「これをどうするつもりだ」


「ああ、借金奴隷にしろ、犯罪奴隷にしろ奴隷には変わりがない。

 それだけ分かれば、死体は埋めるだけだ。

 そのままにもできないからな」


「手伝おうか」


「そうしてもらえると助かる」


 暁のイレブンさんは兵士に向かってそう話しているのが聞こえた。

 要は、あいつらに襲われた奴隷の末路だ。

 酷い目に遭って殺されたようだ。

 もし、俺がもっと早く……

 考えても無駄か。

 躯は袋のまま埋められるらしい。

 無縁墓地のような場所はあそこには無さそうだ。

 盗賊も埋めて処理していたから同じようにするのだろう。

 俺も手伝うことにして暁の皆さんと一緒に穴を掘る。

 兵士が持ってきた躯は袋詰めされたのが3つ。

 三人が殺された計算だ。

 その三人分の穴を掘るが、シャベルのような便利な物がない。

 手で掘る訳にも行かず、俺の収納品から板状のものを取り出して不器用ながら掘っていく。

 暁の皆さんは魔法を使ったり、武器を使ったりして器用に穴を掘っていくがそれでもシャベルの効率には敵わない。

 今度シャベルでも作ってもらおうかとも考えながら穴を掘って三人の弔いを終えた。

 本当にこの世界は人の命がとても安い。

 俺も気を付けようと思う。

 そうこうしているうちに、穴から全員が出て来た。

 みんな持ちきれないくらいの戦利品を抱えている。

 まだ奥にあんなに残っていたのか。

 俺もあの獣人を見つけるまでにかなりを収容していたが、それでもあれだけ多くのお宝が残っていたとはちょっともったいないことをしたかな。

 よく見ると、お宝の多くが武器類のようだ。

 剣や槍、それに弓など、それを詰めた箱を多く持ち出してきている。

 それに樽もいくつか運び出されてきた。

 俺が樽に興味を持っていそうに見えたのか、ギルド職員の一人が教えてくれた。


「あの樽は塩ですね。

 多分ごく最近、塩商人が襲われたのでしょう。

 あの女性たちも、襲われた商人の関係者かと」


「誰が襲われたかは?」


「分かる筈がないです。

 これで、あの盗賊に関しては終わりですね」


「いや、違うだろう」

 俺たちの会話を聞いていたもう一人のギルド職員が割り込んできた。


「ギルドに戻って、今回のお宝の分配が残っている。

 暁の皆さんも楽しみにしていてくださいね。

 ギルドの規則に従って分配します」


 盗賊のアジトから少し離れたところまで連れて来た馬車に、今回の戦利品をみんなで手分けして運び込む。

 今回かなりあったようで、連れて来た人だけでの作業でも結構大変で、かなりの時間が取られた。

 幸いだったのはアジトの構造がほとんど一直線の洞窟で、迷うことなく最奥まで簡単に調査できたために、かなりの量の戦利品の積み込みから帰還までもが1日で終えることができた。

 尤も町まで来た時にはどっぷりと日も暮れ、辺りは暗くなっており、普通なら門のところで明日まで足止めを食らう処なのだが、今回ばかりは領地の兵士も同行していたこともあり、特例で門を通ることができた。

 俺たちは、門を通り抜けるとそのままギルドまで馬車を進めて、ここで解散となる。


「戦利品の分配は明日だ。

 また、明日、ここに集まてくれ。

 別に来なくていいが、戦利品の分配はこちらで勝手にするから、文句も言わせない。

 まあ、今日のところはお疲れ様。

 ゆっくりと休んでくれ」


 そう言われて三々五々解散していく。

 暁の皆さんは近くで酒でも飲むらしい。

 俺も誘われたが、今日はフィットチーネさんとの約束もあり、お屋敷を訪ねると言って、その場を離れた。

 一人暗くなった街中を歩いていくが、この辺りはスラムや繁華街とは違い、高貴な人が多く住むエリアのためか、怖いということは無かった。


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