第15話 大金
そういえばこの世界は人の命は非常に安いから、本来ならばこんな暗がりを一人で歩くのは避けなければならなかったと今思い出したが、正直フィットチーネさんのご自宅まではこの町でも一、二を争うくらいに治安のしっかりした場所で助かった。
フィットチーネさんのご自宅に着くとすぐにあの家宰の方が出てきて、俺を出迎えてくれた。
「今日は遅いので、そのままこちらにご案内してもよろしいでしょうか」
そう言えば先日虎人族の少女を連れて来た時には俺にもあの臭いにおいがこびりついており、お風呂をご馳走になったのだ。
流石に今日は、そこまで汚れていない。
穴を掘る時に少し土などで汚れたが、そんなの土が乾いた時に勝手に服から剥がれて行ったのだ。
「ええ、構いません。
こちらこそフィットチーネさんをお待たせしてしまったようで、すみませんでした」
「いえ、ギルドのお仕事と伺っておりますから、初めからそのつもりでおりましたので、ご安心ください」
そう言って俺はダイニングホールに連れて来られた。
そこには前に紹介してもらったフィットチーネさんのご家族がそろって俺のことを待っていてくれた。
「皆さんをお待たせしてすみませんでした」
俺はまず、遅くなったことを詫びた。
「いえ、ギルドからも報告は聞いております。
あの盗賊の後処理に発見したアジトまで行ったそうですね」
「ええ、なんでも、これであの盗賊関係は全て終わるそうです」
「そうでしょうね。
お宝は見つかりましたか」
「ギルドの人に聞いた時には、かなりのお宝だったそうです。
馬車一杯の武器やら何かを運んできましたから」
「そうですか。
それなら安心ですね。
今回の報奨金や奴隷の代金、それに分配品があればすぐにでも商人としてデビューできますね。
まあ、話は食事でもとりながらお話ししましょう」
そう言われて、俺は夕食をご馳走になった。
夕食を頂きながら、仕事の話をしてもらった。
同席している家族には面白くも無い話で、申し訳ないと思っていたら、子供たちへの良い勉強にもなると奥さんがしきりに同席させてもらえたことを感謝していた。
その席で、捕まえて来た元盗賊の奴隷たちについて状況を聞かせてくれた。
皆、傭兵崩れだったこともあり、全員領主様が相場にて買い上げてくれたと言う。
これについては、オークションにでも掛ければ名の売れた盗賊ということもあり、倍くらいは最低でも売れそうだったが、領主様からの希望もあり、無下にできなかったとしきりに謝られた。
「でも、領主様は相場にてお買い上げしてくれたのですよね」
「ええ、ですがその相場は、あくまで一般的な話です。
盗賊の首領が金貨100枚、その部下で、主だったものが金貨20枚、その他は金貨10枚といった感じです。
普通の盗賊たちはこの金額でも変わりがありませんが、カーポネは最低でも金貨200枚の価値はあったでしょう」
「ですが、私はほとんど無一文ですから、今回に限り、即金でお金が入るのならかえって良かったと思っております。
あまり欲をかくと碌な目に遭いませんしね」
「ほほ~、レイさんは優れた感覚をお持ちだ。
商人になっても大成するでしょう。
これでしたら、これからの末永いお付き合いをしたいですね」
「私の方こそ、この町の有力者であるフィットチーネさんとこれからもお付き合いさせて頂けるのなら、これに勝る幸運はありません」
「ああ、いい忘れましたが、ギルドから盗賊討伐の報奨金も預かっております。
これは暁との合同だったと云うこともあり、暁の分は除いてありますからレイさんの分を後でお渡しします」
「どれくらいになったのでしょうなね」
「金貨で400枚になっていたようです。
あの盗賊には王国でも手を焼いていたようで、国王からかなりの金額が出された他に商人ギルドからも出していたそうです」
「そんなにですか。
総額でも凄いことになっていたのでしょうね」
「ええ、総額で金貨500枚だったそうです。
暁さんが討伐した分の他、レイさんを手伝ったということで、100枚を頂いたとイレブンさんから聞いております」
「え、計算おかしくないですか。
暁さんは6人で私は一人ですよ。
こういうのは人数分だと思っておりました。
頭数で割ると私の取り分はもっと少なくなるはずでは」
「いえいえ、ほとんどレイさんが討伐したようなものですから、イレブンさんもセブンさんも取り過ぎになりそうだけれど、暁にかなりの被害も出ていたことから申し訳ないが、それだけほしいと言っておりました。
全てを私にお任せいただいたこともあり、私の判断で分けさせてもらいました」
「私の方が貰い過ぎかと思っておりましたから、それで良ければ私は構いません。
頭数割でない場合は集まりの単位で割ってもあの時は私の他に暁さんだけでしたから2で割っても私は満足でした。
皆さんの正直さは尊敬に値します」
「お帰りの際に全てをお渡しできますが、どうしますか」
「え、もう清算は済んでいるのですか」
「ええ、金貨は私がお預かりしております。
え~~と、報奨金が400枚と、奴隷の代金が420枚の全部で820枚ですか」
「これはちょっとした大金ですよね」
今までさんざんピロートークで教わった限りでは、相当な金額になるようだ。
全てを円換算することはできないが、それでも無理やりに円換算すると八千二百万円相当になる。
金貨一枚で十万円相当だと俺は認識している。
「そうですね。
これくらいあれば、小さな店くらいは持てるかもしれませんね」
「でしたらすみませんが、どこか店を開くのに良い場所を紹介できませんか。
予算は今回得たお金の範囲で」
「え、直ぐに店を開くのですか」
「いえ、まずはこの町の周りで行商でも考えておりますが、この町に拠点が欲しくて。
いつまでもあの娼館住まいという訳にも行きませんから」
「いつまでいてもらっても良いのですが、そうですね。
娼館がオープンしたら、落ち着かなくなりますしね。
分かりました。
私の方でお勧めを探してみます」
「お願いします」
フィットチーネさんとの夕食は楽しさとは別物ではあったが、とてもためになる物だった。
夕食の後に談話室に通されて、酒を頂いた。
これは貴族社会では常識の仕来りのようなもので、同伴した女性との夕食後に男女分かれてこういった談話時間が持たれるそうだ。
男性は主に談話室などで、酒などが振舞われて政治の話題になることが多いとも聞いた。
この国に限らず、政治はこういった密室で根回しが行われてから初めて表の社会に出される。
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