第13話 プロの仕事
「マーサです、レイ様」
「ああ、早速で悪いがこれなんだが」そう言って俺はカバンから取り出す素振りで、薬草の束を一つ取り出した。
「え、こんなに」
「ほほ~、これは将来有望な冒険者と言った感じか。
まあ少々年はかさんでいるがな」
「俺は、冒険者として今後生計を立てるつもりはないですよ。
行商をしていくつもりです。
ただ、行商先でも色々あるだろうから暁さんの勧めもあり、ここの登録もしただけです。
聞いていましたか」
「いや、聞いていなかったが、問題無い。
そんな連中腐るほどいるからな。
それでいて、そういう奴らが一番ギルドで問題を起こさずにコンスタントに稼ぎになっているから皮肉なもんだよな。
まあうちとしては、どちらでも構わないがな」
「レイさん、しばらくお待ちください。
直ぐに処理してきます」
マーサさんは俺から薬草の束を受け取り部屋から出て行った。
マーサさんが出て行ったためにこの部屋の中に俺とあの厳つい主任さんしかいない。
異様に空気が重い。
俺、コミュ障では無かった筈だが、得意でもない。
どうしよう……
「ああ、直ぐに戻る筈だから悪いが待ってくれ」
「あ、はい」
相手の方が気を使ったのだろうが、それでもまだ空気が重い。
「あ、そうそう、明日だが、朝一番と言っても分からないか。
日の出のころまでにギルド前に集合してくれ。
まあ、そういう事は冒険者として常識なのだが、たまにその常識を弁えていないやつがいるのでな」
「あ、助かります。
私もその一人になる所でした」
そうこうしているとマーサさんが戻ってきた。
正直助かったと思った。
「お待たせしました、レイさん。
これが薬草の報酬です。
5回分ありましたので、5回の依頼達成としてあります」
そう言って俺の前に銀貨を5枚渡してきた。
「あと、これが情報提供に対する報酬だそうです。
私も説明は聞いておりましたがこんなに早く経験できるなんて思ってもいなかったものですから、時間がかかってしまい、申し訳ありませんでした」
そう言うと、金貨を1枚俺の方に渡してくる。
金貨だと、そういえば俺はまだこの世界での相場というものを完全に理解していない。
俺がおどおどしているとあの主任が気を利かせたのか「金貨を見たことが無いとは言わないよな」
「すみません、そのまさかです」
「まあ、珍しくもないか。
新人が田舎から出てくるとたまにあるから、マーサ、説明してやれ」
「え、あ、そうでした。
あのですね、レイさん。
金貨1枚で銀貨100枚分になります。
正直、武器等を買う分にはいいですが、外での食事などでは金貨は使えない場合があります。
この金貨を銀貨でお支払いしますか」
「そうですか。
庶民には縁の遠い貨幣なのですね。
でも、今回は金貨で貰います。
この金貨を沢山稼ぐことを目標に頑張りますから」
「ああ、よい心がけだな。
そう言えば、貴様は商人を目指していたんだよな。ならなおさらだな。
頑張れや」
「え、レイさん。
冒険者をすぐにやめてしまうのですか」
「いえ、マーサさん。
当分は冒険者をしながら元手を稼がないと」
「なら貴様は問題無いだろう。
もう、盗賊の報奨金は出たはずだが」
「いえ、主任。
経理担当者がお休みしておりましたから、明日になるそうです」
「なら、明日は仕事をして、その報奨金も貰わないとな。
金額が大きいから楽しみにしておけよ」
そう言われてやっと解放された。
俺は朝お姉さんたちとの約束通り、どこにも寄り道せずに、あの娼館に戻っていった。
娼館に着くと、またあの禿が出迎えてくれて、直ぐにお姉さんのところに俺を案内してくれた。
事前にそうするように言い付かっていたのだろう。
俺は、禿についていくとお姉さん達が満面の笑みで俺を迎えてくれる。
部屋には既に食事とお酒が用意されている。
そう、これは娼館をオープンさせる前の教育も兼ねているようだ。
娼館でのサービスを俺に対してしてくれている。
今後、俺も稼ぎが良ければ、こういったサービスを途切れることなく受けれるという訳だ。
尤も、俺がどんなに稼ごうとも王都で1~2番を争うような娼婦を三人まとめて相手などできようもないが、一人だってかなり怪しい所だ。
俺は三人娼婦に食事の時から、それこそあこがれの「あ~~~ん」をしてもらい、お酒なんか口移しで飲ませて貰ったのだ。
この段階で俺は思い出したからいいようなものの、もしこのまま惰性に流されていたら明日の仕事はお休みして大勢に迷惑をかけるところだった。
「あの、お姉さん方。
俺、明日朝一番でギルドに行かないとまずいんだ。
だから今夜はお手柔らかにお願いしますね」
「あらあら、レイさんは働き者ですね」
「そうそう、盗賊に襲われたと言うのに、今日も仕事に行かれたのよね」
「大丈夫ですよ、レイさん。
私たちもプロですから、明日、絶対に間に合う時間にレイさんを起こしますからご安心ください」
「そうそう、そういうお客様も沢山相手しましたから、任せてくださいね」
「王都にいた時には大臣さんなんかもお相手しましたけど、そういうのがほとんどでしたね。
大臣って忙しいんだってその時に思いました」
三人が口々に任せろと言うので、俺は安心して酒に女に溺れて行った。
途中、流石にこれ以上はと思うくらい昨日と同じ状況になってきたので、俺は明日があるからと言ってもお姉さん方は許してくれず、結局俺が意識を手放すまでサバトが続いた。
いや、俺の意識が飛んでも続いていたかもしれない。
俺の息子は俺に反抗することが度々あるし、本当に俺から生気を全部吸い取るまでする気かとすら思うくらいだ。
だが、流石に相手は王都で鳴らしたプロ中のプロだ。
まだ暗いうちに、俺の息子から起こして、しっかり一人一回づつ参加する時間も計算して俺のことを起こしてくれた。
だが、そんな状態では俺の方が体は起きても、HPの減少で動くことがままならない。
困っていると、一人のお姉さんが口づけをしながら俺に口移しでポーションを飲ませてくれた。
これによって、俺は遅れることなくギルドに日の出直前に着くことができた。
しかし、考えようによっては俺の前世?での状況とあまり変わりがない。
カラダに無理して、栄養ドリンクでごまかす生活。
唯一で最大の違いが、その無理がここでは本当に楽しくてしようがない。
何せ男の本能に訴えて来るものだからな。
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