第187話 子供たちを連れての移動

 


 翌日からモリブデンへの移動の準備を始める。

 今回は、子供たちが作っている白墨を持っていこうかと考えているので、作っている子供たちも連れていくつもりだ。

 よく働いてくれるからご褒美代わりの修学旅行的な感じだと俺は考えていた。

 はじめはエリーさんやサリーさんも子供たちを連れての移動に反対していたが、そもそも今回の移動にエリーさんが付いてくることになっているので、自分が俺についてくるのにって子供たちから言われたのか彼女たちも強くは反対できなかったようだ。

 それに船だけの移動だ。

 体力的には問題ないし、何より危ないとは思っていないようだ。

 しいて懸念事項を挙げるのなら子供たちの船酔い位だが、これからのことを考えると早くから慣れてくれた方が俺は良いとも考えている。

 この領地は周りとの付き合いよりも船を使った商売の方が盛んになる。

 子供たちが船乗りになるとは決まってはいないが、少なくとも大人になれば船に乗ることも発生するだろう。

 ならばできる限りそういう機会を作ることができればいいだろう。

 そういう意味では今回はここでの特産品にしたい黒板と白墨をモリブデンでプレゼンするにしても、作っている子供たち自身にしてもらうのも子供たちの成長には良い効果が出ると思う。


 しかし、今回の移動にエリーさんが付いてくるとは意外だった。

 よくよく聞くと、今後は俺の秘書的なことをしていくらしいので、今後の移動の際には誰かしら一人は付いて行くことになるらしい。

 そうはっきりと宣言された。


 どうも俺は先に領地経営会議の席で、相当信用を無くしているらしい。

 俺の店にいた連中はいつものごとくとそのまま受け流していたので、俺自身も気が付かなかったが、そう言えば領地入りしてからの仕事の増え方は異常だったようだ。

 確かに商売の延長とは全く違い、まず領民の健康管理からだったが、それが大変だったこともあり、少し落ち着いても、その大変さを延長するかの如くに仕事をぶっ込んでいった。


 商売でもそうだったが、ある程度落ち着くと丸投げしていたこともあり、ここでもそれでいいかと考えていたのだが、その丸投げがなかなかできなかっただけだったのだが、お姉さん方には明らかに異常に見えたようだ。

 これ以上仕事を持ち込ませないために常に監視するとかしないとか。


 心配してもらえるうちが花だというが、正直微妙だ。

 俺がおかしい人だと思われている節がある。

 普通のどこにでもいるおっさんなのに、まあ、この世界の人間でないからこの世界の常識から外れることはたびたびあるが、それでも普通に生活しているとしか思っていなかった。

 多少は最近忙しくなってきたかなとは思ったが、それだけだ。


 でも、きれいなお姉さん方と常に一緒にいれるのも考えると相当贅沢な気が……あれ、このまま王都に出向くと騒ぎにならないかな。

 俺が身請けしたことが知れ渡ると大変かも。


「レイ様。

 何を心配されてますか?」


「エリーさんと一緒にモリブデンや王都に行くと騒ぎにならないかな」


「それでしたら問題ありませんよ。

 私たちは奴隷の身分のままですし、何より私のご主人様が誰かは見た目ではわかりませんから」


「そういえばそうかな。

 あ、以前に王都の建国祭の時にもご一緒させてもらったけど騒ぎにならなかったな」


「でしょう。

 大々的に発表でもしない限り問題ありません。

 もし、発表されてもレイ様は貴族におなりになられましたし、貴族として圧力はかかることがあるかもしれませんが大したことはできませんからご安心ください」


「貴族の圧力って……」


「集まりに呼ばないとか、あからさまなことは無いでしょうが、パーティーの席での嫌味くらいでしょうか」


「あ、それなら問題ないかな。

 俺、基本的にはそういうのは出ない方針だから」


「それも貴族としてどうかと思いますが、レイ様らしいというか」


 そんな会話をしながら船でモリブデンに向かっていく。


 魔物に襲われることも無く、無事に3日でモリブデンに着いた。

 心配していた子供たちも船酔いもせずに大したことも無く過ごせたのが良かった。

 シーボーギウムで育つ人たちは多かれ少なかれ海とのかかわりあいが強く割と船には強いらしい。

 生まれたころから孤児ならばいざ知らず、俺の預かっている子供たちはほとんどが普通に生活していたので、流行り病の前までは親の手伝いなどで船にも乗る子供も多かったと後で教えてもらった。


 モリブデンに着くと俺たちをマリーさんが出迎えてくれた。

 一緒にいるのは黒髪の美女だが、見覚えがある……しかし思い出せない。

 前に一度相手をしてもらったような気が……あ、王都で怪しげな奴隷商からお姉さん方が買って、そのまま風呂のある娼館に娼婦として勤めている人だ。

 俺が、令和の日本の文化を知ったかで教え込んだ女性だ。

 そういえばあの時始めても俺がもらった女性だったな。

 忘れては申し訳ない。


「お早いお帰りで、レイ様」


「色々と忙しいものでな。

 すぐに帰ることになるがよろしく」


「ですが、残されている身としては嬉しくもありますので、モリブデンにいる間は私もレイ様のお世話をしてまいりますから」


「娼館の方は大丈夫なのかな。

 問題が無ければ俺もうれしいけど」


「はい、娼館の方もどちらもほとんど私の手を離れましたので。

 今はそこにいるサトに任せております。

 それよりも後ろの子供たちは……」


「ああ、彼らが今回の主役だ。

 ここでシーボーギウムの特産品の紹介をしてもらうために連れてきた。

 とにかく、店に行ってからみんなに一緒に説明するよ」


 波止場からみんなで店に向かう。

 と言ってもそれほど距離も無いのですぐに着いた。

 店でも波止場と同じような反応の出迎えを受け、商売の落ち着いたところで、みんなに集まってもらった。


 店にはマイ、ユキ、レン、ランなどのいつものメンバーが集まってくれたが、ガーナやサツキは現場に出ており、さすがに集めることはできなかった。

 まあ別にかまわないか。

 今回プレゼンするのは黒板と白墨だ。

 これはこういう商売をする上でも便利になるだろうから持ってきたのだ。

 現場でも使えなくもないだろうが、それは先の話だ。


「悪いな、忙しい中集まってもらって。

 今日は、俺の領地であるシーボーギウムの特産品の紹介をしたくてな。

 と言っても特産と言えるほどシーボーギウムでも使っていないが、とりあえず付き合ってくれ。

 なら始めてもらおうか」


「え? 

 本当に私たちが……」


「ああ、そのために連れてきた亅


「何を言えばいいのですか」


「だから、好きに話してくれてもいいが……て言っても分からないか。

 実際に使っているところを見せながら、感じたことを話してほしい」


「はい、ならそこに黒板を立てかけて。

 私が使いながら説明するから、他は私を手伝ってね」


 リーダー役の少女は一緒に来た男の子たちを使い始め、黒板の準備にかかる。


「レイ様、何を始めるのですか」


「ああ、彼女たちを見ていれば分かるよ。

 これ、結構使えると思うのだから。

 実際にシーボーギウムでは新たに始めた学校で使っているから」


「領主様。

 準備ができましたので、始めてもよろしいでしょうか」


「ああ、始めてくれ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る