第186話 領地運営の方針

 


 話し合いの結果、最初に手を付けるのが、冒険者の育成であった。

 すでに、始めてしまった船乗りと、治療師の育成についてはそのまま成り行きに任せるとして、しばらくは静観の構えだ。

 なので、俺たち行政として最初に手を付けるのを冒険者育成に決めた。


 やることが決まれば、あとは話が早い。

 もともとこういう手際の良さでも定評ある出来人のお姉さん方。

 バトラーさんを捕まえて、どんどん指示を出していく。

 俺に対しては、あの後、閨物語の最中でもお小言を頂いた。

 確かに女好きな俺でも、流石にあれは無いな。


 十分に反省を見たのか、あの後はお小言は言わなくなったが、自分が手がけた学校だけは最後まで面倒を見るようにと命じられている。

 あ、それと、もしこれ以上何か始めるようでしたら、始める前に必ず報告を入れろと何度もくぎを差されたのは当たり前か。


 お姉さん方のお国入りから始まった騒動はすぐにお姉さん方のご尽力と、バトラーさんたちの尊い犠牲により10日も待たずに沈静化していった。

 目の下にはくっきりとクマができているし、何より顔色が悪い。

 最近になり少し落ち着きが見えてくるようになり顔色の方は前ほどひどくないけれど、バトラーさんたちの方が死にそうだ。

 大丈夫かな。


 俺の方はというと、懲りずにと言えばいいのか、学校の準備そしているけど船乗りのための学校の準備と称して、子供たちに色々と頼んでいた。

 黒板は地元の職人たちへ発注をかけているので別に俺からしたら財布の心配だけしていればいいけど、黒板で使う白墨については子供たちに作らせているので、その面倒を俺は見ている。

 その子供たちに対して、俺は勉強も見ている。

 と言っても俺が教えているわけではない。

 冒険者で、文字が読める者たちを個人的に雇って彼らに任せているけど、完全に任せきりという訳にはいかない。

 以前、安心して任せきりにしていたら、勉強を全く教えずにさぼっていた。

 しっかり前払い金や勉強などで使うために預けているお金をしっかり持ち逃げされたのだ。

 俺は捕まえて処罰をあたえようかと思ったのだが、しっかりと領地からも逃げられた。

 今までこの地で活動していた冒険者だったのに逃げ出して他で生活できるのかなとも思ったのだが、他の冒険者に聞いたら、冒険者はどこでも問題ないとか。

 もっとも、依頼をぶっちして逃げ出せばギルドから本来ならば処罰されるらしいが、この地にギルドが無いので、俺からの依頼もギルドを通してはいないから、この地ではギルドに訴えることもできない。

 あいつらは始めから持ち逃げを考えていたようだ。

 だが、俺は許さない。

 あいつらはこんな僻地の領主……ひょっとしたら領主だということを知らなかったのかもしれないが、他の地にあるギルドに対して俺が訴えないとでも思っていたのだろう。


 あいつら、考えが甘いというか、しょせん井の中の蛙なのだろう。

 ここがいくらへき地だからと言って、俺が他に行けない訳ではないし、ちょくちょくモリブデンにも王都にもいくことを知らないのだろう。

 なので、俺は証拠を集めている。

 集めた証拠をもって冒険者ギルドに報告だけはしておこう。

 ギルドを通した依頼ではないが、領主相手に詐欺を働いたのだ。

 それ相応の報いは受けてもらおう。

 まあ、実際にギルドから処罰はされないだろうが、とりあえずの情報だけを知らせておけば少なくとも護衛の依頼でのギルドからの推薦はできないだろう。

 もしギルドから推薦して何かあったら、それこそギルドの責任が問われる事だろう。

 初犯ならいざ知らず、貴族からの情報が提供されているのだから、それでも何も無いようならば俺もギルドとの付き合いを考える。

 まあ、俺からしたら大した金額でもないから、いやがらせ程度なのだが。


 なので、あれからは子供たちへの勉強についても手隙のメイドやこの地に残る領民に小銭を渡して頼んでいるし、また、勉強を始めるときには俺も顔を出すようにしている。

 最近は黒板と子供たち自身が作った白墨を使って勉強しているので、勉強の方も順調に進んでいるようだ。


 最近はメイドに頼みにくいこともあって、領民を捕まえては頼んでいた。

 何せ、子供たちへの勉強についてはあの時の会議では話していなかった。

 メイドからお姉さん方に伝わると、また何を言われるか……確かにお姉さん方がこの地に来る前からしていることなので、新たなことでは無いが会議の議題に出てなかったはず……あ、学校についての話も少し出たが、あまりにあの時に出されたやりかけのプロジェクトが多すぎてその後のフォローはあの場ではなかった。

 うん、セーフだよな……ギリギリセーフだとは思うが、それでも蒸し返されたくは無かった。

 それに何より手隙のメイドも居なくなったこともある。

 みんな仕事が割り振られて忙しそうにしている。


 はい、わかっております。

 私が悪いのです……ですが、全て必要なことだと思うのですが。

 まあ、ここの集まる孤児たちは皆素直に俺の言うことを聞いてくれるから、どうしても入れ込んでしまうんだよな。

 彼らが無事に育てば、彼らを先生にして学校を作ろう。

 すぐには無理だが、それくらいは考えても良いよね。


 しっかりとお姉さん方にはばれていた。

 子供たちの様子を見た後に船長の所に行き、話を聞いていたらエリーさんがやってきて、俺に聞いてきた。


「レイ様。

 もう少し人がいりますよね。

 あの子供たちの面倒も見ませんと」


 だって。

 しっかりとばれていた訳か。

 でも、その件については責められることは無かったが、人材の不足についてのご指摘があった。


「モリブデンに連絡を入れてありますが、近々行った方がよろしいのでは」

 エリーさんが提案してきた。


「わかったよ。

 それにもう一度出向かないといけないかとも思っていたんだ」


「では、準備しますね」


 え?


 エリーさんも一緒に行く気かな。


「いつ出発しますか」


「先ほど船長とも話したんだが、明後日に出発しようかと」


「なら、それも含めてもう一度モリブデンに連絡を入れておきますね。

 しかし、本当に便利ですよね、アイテムボックス通信って」


 確かに今ではあれなしには考えられないくらいに活躍している。

 何より、王都での酒の仕入れも、今ではもっぱらあれ頼りだ。

 あ、あれ使えばここでも王都から酒を仕入れることができるな。

 それを知ったら、周りの商人たちが騒ぎそうだが、当分は周りの領地との商いはするつもりもない。

 何せ、ここが困った時にも一切の援助どころか火事場ドロボーのようなことまで仕出かしていたのだ。

 王都まで連れてこられた奴隷の多くがあいつらにここから攫われたようなものだと聞いている。

 なので、少なくとも王都まで来た奴隷たちは周りの領主に対してよい感情を持っていない。

 俺も、今更仲よくしようとも思っていないが。


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