第183話 お姉さん方と一緒にお国入り
その日はガントさんを囲んで、ガーナや預かっている子供たちと一緒に遅くまで宴会だ。
翌日俺も一緒に現場まで行く。
しかし、現場は俺の知るそれではなかった。
かなり効率的に工夫されているようで、作業のテンポも良い感じだ。
それを俺の横で見ていたガントさんは感心したように言葉を漏らす。
「あいつら、しばらく見ないうちに成長したな。
これはみんなレイさんのおかげか、感謝する」
「いえ、ガーナや、あいつら自身の努力のたまものでしょう。
私は最近ほとんどかまってあげられなくてこの商売を整理しようと考えていたのですが、お客様の方がそれを許してもらえそうになくて、騒ぎを起こした結果に繋がりましたから」
「しかし、初めて見るものばかりだな。
作業そのものは難しいことは無さそうなのだが慣れるまでの時間は欲しくもあるな」
「ええ、ですから引き継ぎ期間はガーナを残す予定です。
もっとも、引き継ぎが終わればガーナもシーボーギウムに連れて行きますが。
向こうでも仕事がたくさんありましてね」
「連れて行くのはガーナだけか」
「ええ、預かっている子供たちはガントさんにお返ししようかと」
「レイさんについて、いや、ガーナに付いて行きたいと言われそうだが」
「そのあたりは相談ください。
シーボーギウムで受け入れるのもかまいませんが、その際には独立した職人として扱うつもりです」
「まあ、いつまでも子供でいられるわけでもないというやつか」
「そんな感じです」
そこからガントさんと実際の引き継ぎや商売の形態などについて現場で話し合った。
昨日話したように、発注はモリブデンもしくは王都の俺の店から出す格好で、施工をガントさんに任す格好になるだろう。
そう、今回この仕事を手放すことを決めたのは王都での希望も強くて、抑えられそうにない状況になってきている。
そんな状況で王都の俺の屋敷に風呂など作ったら、絶対に他の貴族から……考えただけでも恐ろしい。
寄り親の当たる伯爵から頼まれたら断れそうにない。
とにかく、ガントさんとの話し合いで最悪の事態は避けられそうだ。
この場合の最悪って、俺の過労死かそれともガーナを始め他の女性たちから恨みを買うやつだが、どちらもどうにかなりそうだ。
現場については、当分このままになるが、それでもしばらくはガントさんも現場に出てくれるそうだ。
そのうちガントさんが現場に慣れてきたのならば、子供たちと一緒にジンク村からの職人たちと一緒に他の現場に回ることになった。
俺たちは、仕事の受注と金銭管理だ。
日当という形で職人たちに支払うことになりそうだが、それくらいならば王都やモリブデンの店に丸投げできる。
ほんの数日、俺はモリブデンで、それらの調整をした後、もう一度船でシーボーギウムに向かった。
今度は身請けした形のお姉さん方を連れてだ。
尤も、お姉さん方の話し合いで、モリブデンの娼館の面倒を見るためにひとり交代で残るそうなので、今回連れているのはマリーさんを除く二人になる。
俺がモリブデンに着いた頃には既にモリブデンとのローテーションが決まっていたらしい。
「レイ様。
お船ですとシーボーギウムまではどれくらいかかりますか」
今回ご一緒することになったエリーさんが俺に聞いてきた。
「エリーさん、船ですと3日もあれば着くことができます。
同様にモリブデンに戻るときも3日で着けますから、王都ほど遠くは感じないですね」
「3日ですと、王都の半分以下ですか。
近いですね」
「ええ、船を使いますから。
ですが実際の距離は王都の方が断然近いのですがね」
「王都も船が使えれば楽になりますね」
「ええ、川でも繋がっていればどうにかなったかもしれませんが、こればかりはね~。
それに、海の移動ですから、魔物も地上とは違い冒険者でも手を焼く物が出ることがあるそうです。
そういう意味では、王都への移動とはまた違った危険はありますかね」
「危険は移動しなくともありますから気にしないでください。
あ、気を付けることはしないとだめですからね」
「わかっていますよ。
それに、今まで盛んでなかったこの航路についてもどうにかしたいと考えてもおりますから、そういう魔物退治も含めてですが」
「そうなのですか」
実際にこの世界での船による物流は俺が考えた以上に発達していない。
船が無い訳でもなかった。
現に商業連合とモリブデンとの間では船による貿易が活発に行われてもいる。
尤もこれは商業連合が島にあるためで、他国との貿易は全て船にならざるを得なかったためだ。
そのために、商業連合には海上に出現する魔物についてもそれなりのノウハウを持っている。
まあ、これはある意味商売の種にもなるので、そういうことがあるらしいくらいしかわからず、秘匿されているようだが、それでも船による移動を含めてできない話ではない。
商業連合程の知見を持ち合わせない他の国々は、沿岸を魔物におびえながらの移動にならざるを得ない。
それでも俺が塩の採取のために時々訪れる浜の様に、魔物たちの狩場となっている場所があるくらいだから、そういう場所を避けながらになるが。
そのあたりはそれぞれの船長の持つ力量に含まれるらしく、どうしても人が限られ船による物流が盛んになりえなかった。
予定通りに無事に3日でシーボーギウムに俺たちを乗せた船は到着した。
当然のように波止場までは俺たちを出迎えに人は出ている。
湾内に入る船は監視されているのだろうし、何よりこの港に来る船は俺たち以外にはほとんどないのが現状だ。
俺の希望からはモリブデンとまで行かなくともせめて半分くらいの船の出入りがあると良いのだがとかなり高望みを描いてはいる。
まあ、船が港に近づけばすぐに屋敷に連絡が行く仕組みになっているようで、屋敷からバトラーさんをはじめ地元で雇った人も来ている。
俺たちが運んできた荷物の搬入の手伝いのためらしいが、今までそんなことはしたことが無かった。
ダーナのアイテムボックスで済ませていたが、これは港町に領地を持つ貴族屋敷に勤める者たちのルーチンワークにでもなっているようだ。
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