第182話 スローライフを目指していたはずなのだが

 


 店に入るとみんなが一斉に俺の方を見てきて声を上げた。


「「「あ~~~、レイさんだ」」」


 あれ、なんだか視線が冷たい。

 どうも俺がガーナに提案したことで評判を落としたようだ。

 え、それだけではない。

 王都でのメイドたちへの配置転換の話も悪かったらしい。


「レイさん、お帰りなさい」


 俺に挨拶をしてきたのはこの時間ならば娼館に居なければおかしいお姉さんの一人マリーさんだった。

 お姉さん方の話し合いで、最初にモリブデンに残るのがマリーさんのようで、俺がいる間はこっちに来ていることになったらしい。


 そのマリーさんも視線が冷たい。


「レイさん。

 最近おかしなことになっていますね」


 俺の配置換えについてみんなを代表して文句を言ってきた。


「マリーさん。

 みんなが何を誤解しているかは知りませんが、私の伝え方が悪くて不安にさせたようで、さっきもガーナに泣かれまして反省しているんですよ」


「誤解ですか……」


 そこからとにかく全員を集めて俺の状況の説明を始めた。

 ここモリブデンの店でも、風呂の改築工事が仕事を選んでいるにもかかわらず途切れることが無いし、王都の店もある。

 そこにさらに王都では貴族屋敷も維持しないとまずくなり、そこにも人を回さないとまずい。

 さらにというか、今回の騒ぎの元凶ともなるが、シーボーギウムの領地経営が加わっている。

 それだけを取り組めばよかったのだが、そこに来てシーボーギウムでの学校の立ち上げまで仕事を増やした。


 俺の説明を聞いて全員が例外なく呆れた目を俺に向けてくる。


「レイさん。

 あんた、ひょっとして病気持ちなんですか」


 病気持ちって、相当ひどい表現で俺のことを言ってきたのはマリーさんだが、ガントさんまで俺をディする。


「レイさんよ。

 俺も仕事人間と言われることがあるが、ここまで酷くは無いぞ」


 この世界でも、俺のこの状況はおかしく見えるらしい。

 マリーさんなんかはもう病気扱いだ。

 確かに社畜当時と比べればまだましの方だろうとは思ったのだが、それでも最近はやりの働き方改革とは言えないくらいの仕事量だとは思っていたが、どうもそれがいけないらしい。

 流石にホワイトな働き方とは言えないが、せめてたまにホワイトの入る灰色会社を目指すべきか。


 しかし、おかしい。


 俺はこの世界ではスローライフを目指していたはずなのだが。

 確かにハーレムでチートは夢見たよ。

 それが奴隷ハーレムとなればあんなことやこんなことと、あの転移されたばかりのなにも無かった時にも考えたくらいだったのだから。

 安全にスローライフのために始めた商売も、アイテムボックスが使えることで成功を確信したくらいだったが、その後がいけない。


 少しばかり調子こいたようだ


 すぐにハーレムプレイを楽しめたのは良しとして、その後のハーレムもいつの間にか大きくなりすぎて毎日が大変に感じるようになってきている。

 ……まあ好きだから苦痛とまではいわないが、天国を通り過ぎてって感じかな。

 だが、この状況はさすがにまずい。


「レイさんよ。

 お前さんが何を考えているかは知らんが、もう少しどうにかしてやらんか。

 お前さんが抱えている女性たちのこともあるしな。

 当然、うちのガーナのこともあるがな」


「ええ、私も最近になり、少し考えております。

 どうもどこかで道を誤ったのか、忙しくなりすぎておりますね」


「そうですよレイ様」 


 先ほど俺のことを病気呼ばわりしたマリーさんがガントさんに賛同する。


「だから、貴族として……」


「その貴族としての考えが、他の貴族とは違うような気がします」


「そうです。

 ご主人様ほど働く貴族など見たことがありません」


 うちのメイドたちも口をそろえて言ってくる。


「でも、あの荒廃した領地を押し付けられれば誰だって……」


「どうも、それがおかしいように思います」


 マリーさんやメイドたちは俺にこの世界の貴族について教えてくれた。


 派閥抗争に必死になる貴族は多くいるが、領地経営、それも荒廃した領地の再建など普通はできないとか。

 それこそ、有能な役人を探してきて丸投げがこの世界のデフォだそうだ。


「その、有能な役人に知り合いなどいますか」


「ご主人様ほど多才な人は知りません」


「レイさんって、いろんな方面で有能ですからね」


「そうそう、だいたいからして娼館経営ができる人が病人なんか面倒見ることなどできた話を知りません。

 それができるようならば娼婦も病気を恐れずに仕事ができますから大繁盛することは必然になりますが……あ、うちが大繁盛しているのはそういうこともありましたね」


 マリーさんは俺のことをディするつもりも無いのだろうが、結果的にはディすってきたが、それでも一人変に納得しているようだ。


 なんなんだ、いったい。


「しかし、見たことのある人ならばわかるかと思うが、一刻を争うような感じだったんだぞ、俺の貰った領地は。

 いくら流行り病だからと言って、あれほど荒れるかよって言いたい」


「確かに、酷かったですね。

 今はご主人様が手配した食料などのために落ち着き始めましたが」


 俺の弁明にダーナが答えてくれた。

 うんうん、ダーナだけは俺のことを理解してくれていましたね。


「ですが、領地で学校でしたっけ、作る必要が分かりません。

 学校って貴族の子弟が通うものと思っておりましたが」


「「「え~~!」」」


 まだ、領地に行ったことのない人たちがダーナの話で驚いていた。


「レイさんよ。

 一体お前さんは何がしたんだ」


 ガントさんも俺に聞いて来る。


「いや、成り行きで。

 船乗り養成については、俺たちもこことシーボーギウムとの行き来で必要だったし、これから商売していく上でも多くの船乗りが必要になるから、考えなくも無かったんだけども、世話になっている商業連合国の人から頼まれましてね」


「だからなのか、こちらでの商売を整理していきたいというのは」


「ええ、任せられるのはどんどん任せようかと。

 今はガーナが中心となってやっていることもあり、それならと思ったのですが、変に誤解したようで」


「ああ、そんな感じだな。

 それで、俺にどうしろと」


「ええ、ですから実際の現場をジンク村の職人に任せられればと思いましてね。

 客は俺たちの方で紹介する格好で、どうでしょうか」


「どうでしょうかと言っても、俺は全く知らんがな。

 そもそも、ガーナがどんなことをしていたかというのもわからないでやりようがないぞ」


 ガントさんの言い分も尤もなので、俺は詳しく説明していく。

 現在現場では子供たちだけでも工事は回るが、大人がいないとトラブルも多くあるために、うちからメイドたちを交代で出していた。

 そのあたりも説明した後、子供たちの仕事ぶりについても説明している。


 一通り説明すると、ガントさんは納得がいったようで、実際の現場を見てから判断するが、うちで預かるのもやぶさかでないと言ってくれた。


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