第181話 ガントさんとの相談事
元男爵家のメイドたちに『王都の屋敷を』と言ったら途端にいやそうな顔をしながら逃げられた。
うん、シーボーギウムにいるバトラーさんを今度王都に連れてこよう。
王都の屋敷を任せるには彼しかいないだろうな。
多分、彼も嫌がるだろうが、そこはそれ待遇面で保証して、出張手当くらいは出してもいい。
普通に考えると本店に栄転なのだから引っ越し手当だけで済ませても問題ないだろうが、なぜか王都の人気が無いんだよな。
……わかるよ、王都はとにかく面倒だというのは。
だからと言って放っておくこともできないのだから、何があろうが、必要がある以上誰かに泥をかぶってもらわないとって、どんだけ王都が人気が無いんだよ。
これって国の根幹にかかわらないのかな。
多分、俺たちだけだろうから問題ないのだろうな。
店で二日に渡って散々搾り取られてからバッカスさんの店に寄って、掘り出し物の奴隷の様子を聞いてからモリブデンに帰っていった。
モリブデンでも、もはや憩いの場ではなくなっている。
どこで間違えたのか、とにかく俺が忙しすぎる。
まるでこの世界に来る前の会社のようだ。
これはいかんといってもな~。
しかし、本当に忙しい。
できるだけ任せるようにはしているのだが、任せる傍から別の仕事が入る。
もう完全にモリブデンでの風呂工事の仕事など俺は関与すらしていない。
あれもドワーフ族のガーナにでも預けてしまおう。
実質的にはそうなってはいるが、ガーナを奴隷から解放して店を一つプレゼントしてガーナについてきているドワーフの子供たちごと商売を移管して俺から切り離す。
そんなことを手紙で相談していたら、涙で字が崩れた返事をもらった。
『なんでもするから私を捨てないで』って言われたよ。
捨てるつもりも……そう取られてもしょうがないことを書いたことを反省した。
モリブデンに帰ったら相談しようとだけ返事を書いた。
すぐ後からお姉さん方三人からそれぞれお叱りのお手紙をもらった。
捨てるつもりなど無いのだが、そう取られたのならそうなのだろう。
しかし、任せることも考えないとまずい。
あ、そうだ。
いっそのことジンク村のガントさんに相談して、商売を任せられる人を紹介してもらおう。
そういえばここ最近はジンク村にも顔を出していなかった。
王都の帰りにでも寄って相談しよう。
王都からモリブデンへの帰りも急ぎになりそうなのでダーナとナーシャの二人きりだ。
ただ、来る時とは違い、帰りにはジンク村に寄るので、やたらとジャングル内には入らないよう釘を刺してある。
彼女たちも楽しかった時間が少なくなるのを反省したのか、来る時のようなはしゃぎは無くなり、俺の指示をよく聞いてくれた。
それでも3日もあればジンク村についてしまう。
ジンク村に入るとすぐにガントさんの元を訪ねる。
「レイさんか、久しぶりだな。
元気にしていたか」
「ええ、お久しぶりです、ガントさん」
「あいつらは元気にしているか」
「ええ、元気に仕事に励んでおりますよ。
私から見たら、もう十分に一人前に見えますが、しょせん私は職人ではありませんのでね~」
「それでも凄いな。
きちんと成長しているようで安心したかな」
預かっている子供たちの近況報告などしてから本題に入る。
「人って紹介できませんかね」
「人だ~?
奴隷でも欲しいのか」
「いえ、奴隷でなくて商売の面倒を見てくれる人なんですよ。
あ、商売と言っても商人のことではありませんよ。
職人の親方というか、大工のようなことなんですが」
そこから詳しく話してみたが、どうもしっくりとしない。
ガントさんがよく理解できないらしい。
ということで、ガントさんを連れ出すことに成功した。
「いや~、ガントさんが来てくれるだけでも彼らにとってご褒美のようなものですかね」
「何を言うか。
うるさい爺など傍に来てほしいものじゃないだろう。
迷惑がられるだけだ」
ジンク村からだと割とすぐの場所にあるモリブデンだが、それでも普通の旅程では丸一日かかる距離だ。
街道をゆっくりとモリブデンに向かいながら、頼みたいというよりも譲りたい商売について相談している。
「それを俺たちに譲るというのか。
そんなうまい商売を買い取る金などうちの村には無いぞ」
「いえ、売りたいわけではなくて、仕事をしてほしいというか、私が忙しすぎて面倒見切れないんですわ」
「だったら、お前の所にいるガーナにでも任せれば……」
「ええ、そうしようとしたのですがね……」
そんな会話をしながらモリブデンに入っていく。
店に向かうよりも近くに現場があったはずなのでそこに先に顔を出してみた。
現場は作業を終えたばかりか撤収のために片づけをしていた。
俺を見つけたガーナは俺をめがけて飛んできた。
泣いているよ。
これは困った。
「レイさん。
どういうことだ」
「私にも……」
「レイ様。
なんでもしますから私を捨てないで」
「はは~ん、わかりました。
先に話した商売の話ですよ」
「商売を譲るとか言った事か」
「ええ、先にガーナにも話したと言いましたよね。
見てわかるかと思いますが、断られまして」
「そういうことか。
ガーナよ、レイさんはお前を捨てるはずないだろう。
お前はレイさんの奴隷だし、しかも犯罪奴隷と来ている。
相当に金も使ったと聞いているから、今更売るにしても割に合わないだろう」
あ、ガーナは犯罪奴隷だったのを忘れていたよ。
ドースンさんに無理を言って買ってきたんだわ。
となるとガーナに商売を譲るのは刑期が終わるまでは無理か。
「ガーナ、手紙にも書いたが、嫌なら無理にはしないよ。
だからガントさんに来てもらって相談しているんだから」
ガーナは泣きながら俺の説明を聞いている。
「ガーナよ。
少しは落ち着いたか」
「はい、もう大丈夫です。
でも、でも……」
まだ納得していないようだが、ここでの立ち話もあれなので、みんなを連れてモリブデンの店に戻っていった。
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