第184話 初の領地経営会議


 船を波止場に着け、最初に俺たちが下りていく。

 出迎えに来ていた人たちに手を振りながら船を降りていくと、急にあたりの雰囲気が変わった。

 時間でも止まったかのような感じになっていた。

 どうした、俺は驚きながらみんなの様子をうかがうとこちらを見て固まっている。

 俺たちに何かあったのかと俺は振り返ると、そこには王国の至宝と言われたお姉さん方お二人が俺に続いて船から降りていた。

 だが、そのお姉さん方はいつもと違うことがあった。

 サリーさんも、エリーさんも身にまとっているオーラが違った。

 いや、違ったなんて生易しいものではなかった。

 これが魔王ならば恐怖のオーラとでも表現すればいいのだろうが、そんな感じではない。

 まあ、あのお姉さん方を怒らせたらそこらの魔王でも逃げ出すのではないかと思うくらいなのだが……睨まれた。

 はっきり言っておしっこちびりそうになるくらい怖かった。


 でも、お二人の纏うオーラはそう、大物芸能人が舞台で輝くようなそんな感じのオーラとでも表現すれば一番近いのかもしれない。

 その証拠に、出迎えに来ていた連中の他に近くで仕事をしている人たちもお二人に魅了されている感じだ。

 多分、王族や大物貴族をお相手でもするような感じで降りてきたのだろう。

 いつも俺たちを接する時にはもっと柔らかいというかここまでオーラを出すことは無いのだが、今回はオーラ全開でお国入りした感じだ。


 そのサリーさんが俺に言ってきた。


「レイ様の関係者として初めてのお国入りですので」


 どういうことなのかと不思議そうな顔をしていたら今度はエリーがそっと教えてくれた。


「レイ様が舐められませんよう、頑張りました」だと。


 俺のために大物を演じてくれたようだ。

 そもそもお姉さん方は演じなくとも十分に俺なんか比べ者にもならない位の大物なのだが。


 それでも波止場でのイベントも終わり、出迎えに来てくれた者たちと屋敷に向かった。

 屋敷でもお姉さん方は驚かれた。

 直接知る人が少なかったこともあるのだろうが、お姉さん方の王都での存在があまりに有名すぎて、俺と出会った以降のことが知られていない。

 だからなのだろう、初期の頃にお姉さん方に世話になり、貰い湯していた時の連中は普通に接することのできるのだが、他の者は全くだった。

 すっかり身の回りの世話を任せている元メイドたちも直接顔を遭わす機会が少なかったと今思い返す。

 王都から連れてきたメイドたちはもしかしたら直接話すことが無かったのかもしれない。


 だからなのだろう。

 どうしても独特な雰囲気を出している。

 お姉さん方は港で発していたようなオーラはここでは出していないはずなのに、彼女たちの王都での有名だけを知っている連中からはどうしても遠い存在に思われているようだ。


 俺は、屋敷にいる人を集めてみんなに紹介がてらお姉さん方の立ち位置を説明していく。

 どうも俺の側室扱いになるようだ。

 非公式であるので、この屋敷だけに通じる話になりそうなんだが、そうしないと収まりが悪いらしい。

 この辺りも、お姉さん方としてはすでにモリブデンでみんなと相談して決めてあるらしい。

 と言っても、モリブデンにいた連中だけになるが。

 一応アイテムボックス通信を通して王都にも連絡は入れてあるとのことだが、直接知らない人も多く、実感が沸かなかったらしい。

 その後はすぐにお姉さん方三人分の部屋を屋敷に用意して、お姉さんを交えて領地経営について相談を始める。


 すでに学校については船の中でお姉さん方には話してはあるが、それ以外の領地の経営については現状全くの手つかず状態が続いている。

 一応、今まで猛威を振るっていた流行病は完全に収束を見せたが、流行病の影響は大きく、いくつかの村は廃村を決めている。

 領都への移住も済ませてはいるが、どうしても廃村の村に残るものもいる。

 そのあたりについても相談している。


「そんなの放っておけばいいのよ」


 サリーさんがいの一番で切り捨てた。

 続いてエリーさんもサリーさんに賛同している。


「レイ様。

 領主様の命令に従わないのですから、捉えられて罰せられても文句は言えませんよ、その方々は。

 それよりも村や町からさっさと出て行った者たちについてですが」


「ああ、その件は決めてある。

 一切の権利を認めないと。

 面倒くさそうな連中はそもそも町への移住は認めない。

 でないと彼らが残していった家々の処理ができないからね。

 バトラーさんも問題無いと言っていたしね」


「ええ、完璧です」


「それで問題はありませんね」


「ですが他の有力者を頼られますと問題がありそうですが」


 元男爵家のメイドたちは心配している。


「それこそ問題ありませんよ。

 他の貴族がでしゃばることは……ないとは言いませんが、そんな周りの見えないようなぼんくらならばたいしたことは無いでしょうね」


「いきなり攻め込まれないでしょうか」


「その時は私が昔のつてを頼ります。

 それでお取りつぶしですかね」


「もしかしたらその領地も頂けたりして」


 お姉さん方が言うにはそのような行為をする貴族もいるらしいが、その場合十分に各方面に根回しをした後で行わないと逆襲に会ってほとんどが相当に悪い結果になるらしい。

 そもそも俺の今までしてきた行為はどこにも瑕疵は無いらしく、いちゃもんにしかならないとか。

 そのいちゃもんも法的にも貴族の慣習的にも理はこちらにあるらしいから、よほど間抜けな貴族でもない限り攻め込んだ側が相当なお咎めを受ける羽目になるとのことだ。


 俺には一応王都に有力な伯爵が寄り親として存在しているし、俺にちょっかいを掛けてきた段階でその貴族は貴族生命を絶たれるとか。

 商人やアウトローを使った嫌がらせも無くはないが、それこそ海上移動を主流としている俺たちにとっては全くと言って効果が出ない。

 そもそも周りの商人たちからすでに見放された領地だ、ここは。

 今更近隣の商人がしゃしゃり出てきても影響力など皆無だ。

 なので心配ないと言ってくれた。

 さすが王都の貴族について詳しいお姉さん方が言うのだからこれほど心強いものはない。

 なので、安心して領地経営に入れる……が、それがなかなか難しい。

 俺がやたらと手を広げているのがいけないらしい。

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