第127話 王都店の再開直前
「おいしいのなら、作ってみるか」
俺がメイドたちに聞くと、喜んで作り始めた。
彼女たちが工夫をしながら色々と作っている。
ここの店主であるカトリーヌまで参加して、明日の招待料理にも使うという話になった。
どうも彼女たちはピザのことをつまみにもなるし、お茶請けにもなると考えているようだ。
まあ、店の営業についてはカトリーヌに任せているので俺は構わないが、こんなんで金を取れるのかの方が心配だ。
味はピザとは違うし、正直俺としては微妙なのではあるが、彼女たちは皆おいしいと言っている。
どちらにしても、明日の招待にこれを出して様子を見てからにするらしい。
女性たちに人気のピザもどきだが、彼女たちも色々と工夫を始めて、甘いものまで作り出してきた。
でも、これってパンケーキ?いや薄いとクレープになるのかな。
いくつか売り物の候補も作ったようだが、明日のご招待料理にはさすがに甘いピザもどきは見合わせた。
茶請けには甘いのもいいだろうが、一応酒もはいる席だ。
合わないだろうと俺は思うので、彼女たちにはもう少し完成度を上げようとか言ってごまかした。
そうして翌日、昼過ぎに集まってもらった。
昼食でもよかったのだが、酒を出す関係上、あ、いや法律がどうとかないけど、俺の気持ち的に午前中からの酒はどうしても受け付けなかった。
まだ、この部分だけは平成令和での常識が残っている。
もうだいぶこの世界に感化されてはいるが、まだまだ細々したところで常識が残っているので、多分周りからは『面倒臭いやつ』とでも思われているのだろう。
集まったお二人には簡単に挨拶をしてからピザもどきと酒を出してある。
「これ、初めて見たようだが、どうやって食べるんだ?」
「手で直接持ってもらっても良いですが、フォークでも使いますか」
「パンのようでちょっと違うような」
「ええ、バッカスさん。パンと同じように作ってありますので、パンの一種だと思ってもらっても差し支えはありませんが、私たちは『ピザもどき』と呼んでおります。明日から再開するここでの一品に加えようかと思っておりますが、どうでしょうか」
お二人には割と評判がよかった。
うん、このレベルでもまだ王都で売れるんだということが分かった。
正直トマトソースも無ければチーズも少し臭いから心配ではあるけど、俺でも食べられるレベルにはある。
うまいかと聞かれると正直微妙。
俺としては金を出してまで食べたいとは思わないレベルと考えている。
お二人にはいろいろとご厄介になったことのお礼を兼ねたご招待だったが、例のピザもどきも割と評判が良かったようで、俺は一つお二人にお願いをしてみた。
これをいざ売るとしたら、相場を知らないと値段がつけられないがあいにく俺には相場観が無い。
今の商売も仕入れ価格に対して値を付けているだけの酒を除くと、ギルドで扱っている値段にちょこっとばかりいじるだけで値を付けていた。
料理に関しては、お姉さん方に食べてもらって値段を付けてもらうなど、自分で値段を付けたことが無い。
なので『ピザもどき』も売ると決まれば、この場で値段をお二人に考えてもらった。
お二人からは銀貨1枚は取れると太鼓判を押してもらった。
これに紅茶などを合わせると銀貨で2枚になるけど、大丈夫かな。
まあ、これは酒と合うので、昼から酒でも出して売ってみることになった。
これにはバッカスさんが喜んでいた。
酒が売れると、うれしそうだ。
翌日から王都の店は再開して、俺は1日だけ様子を見てからモリブデンに戻った。
モリブデンでは病院の件が俺を除いてどんどん進められていく。
俺もうかうかできないので、割と急ぎでモリブデンに帰った。
モリブデンに帰り、店に行く前に港によって病院予定地に向かった。
今ここは改装を頼んでいたはずなので、ガーナが今抱えている風呂の増設工事を一時中断して改装中のはずだ。
「あ、ご主人様。
今お戻りなのですか」
「ああ、王都に交代も含めて送り届けてきた帰りだ。
それよりも、改装の方は順調か?」
「ええ、昨日には風呂工事は終わりました。
今日から内装の方をいじっておりますが、正直私は内装工事が苦手なもので、なかなか……」
そういえばガーナには風呂工事しかさせていなかったので、苦手があることを知らなかった。
「他に大工でも頼むか?」
「いいえ、いつまでも苦手にしてはいけないと思いますので、やらせてください。
……少し時間がかかるかもしれませんが……」
最後は小さな声でお願いしてきた。
別に急ぐ話でもないし、何よりまだ病院経営に必要な奴隷も用意していない。
それに何より成長したいという希望があるのなら俺は協力を惜しみたくもない。
「時間はかかっても大丈夫だ。
自分が納得するまで挑戦してほしい」
「ありがとうございます」
「あ、でも無理だけはだめだよ。
協力が必要ならが遠慮なく申し出てくれ。
それだけは約束だ」
「ご主人様。
ありがとうございます。
絶対にいいモノを作りますから」
「約束を忘れるなよ。
無理だけは絶対にダメだからな」
俺はこの世界にまでブラックを持ち込むつもりはない。
ブラック職場は、俺の前世?だけで十分だ。
とりあえず懸念事項を先に片づけたいので、店に戻る前にフィットチーネさんのところに向かった。
病院用の奴隷が気になる。
フィットチーネさんに会うと、まず王都の店について聞かれた。
心配させていたようだ。
「レイさん。おかえりなさい。
どうでした王都の様子は。
貴族たちの件は落ち着きましたか」
「ええ、おかげさまで。
ドースンやバッカスさんのお話では、何でも常連のお嬢様方からの圧力で貴族の方が先に音を上げて引き上げたようです。
しばらくは大丈夫だとか」
「それは良かった。
それならば、腰を据えて病院にあたれますね」
「それで、どうなりましたか、奴隷の件は」
「それなんですが、他の奴隷商にもあたりましたが、なかなか神官の奴隷は出ていないのですよ。
元々神官職は奴隷になるまで窮することは少ないですからね」
フィットチーネさんの説明によると、俺たちが望んでいる医者役の神官というのがそもそも珍しいとまでは言わないが、それでも数は少ないらしく、特に冒険者や貴族、それに領主などの貴族たちには引っ張りだこだと言うので、借金奴隷のような一番奴隷として数の出る奴隷にはならないらしい。
また、犯罪奴隷にしても、そもそも金に困ることが少ない神官では犯罪に走るケースそのものが少ないところにもし犯罪奴隷になるような聖職者が出ようものならばその場ですぐに買い手がつくとか。
それどころか、これはあくまで噂と断られての話だが、貴族などは犯罪そのものをもみ消す代わりにし借金奴隷として買い取るようなことまでしているらしい。
本当に、どこまでも貴族はずるい。
俺の貴族嫌いがますますひどくなりそうだ。
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