第128話 海外買い物ツアーに招待された
それでも、どうしても神官職は確保しないと診療所は始められない。
診療所じゃなく、病院だったっけ、どっちでもこの世界には病院に関する法律もなさそうだし、別にいいか。
話を戻して、俺としては『生き腐れ病』の治療だけならば何も神官職はいらないのだけれど、神官職なしに治療を施すところを営むと悪目立ちしそうだ。
幸いというか、俺の住むこの国ではそれほど宗教色は強くなさそうなので、異端がどうとか言われることはなさそうなのだが、神官職が誰もいないのに今まで不治の病とされていた『生き腐れ病』が完全に治るとなると相当目立つ。
普通に考えれば、神官職がたくさんいる教会などでも直すことができなかったのだから、神官職に直してもらったのではないとわかりそうなものだが、人の考えとはそういう風にはできていない。
とにかく悪目立ちを避ける意味でも、また、けがなどでは抜群の効果を出せる神官職を最低でも一人は確保したい。
それも、俺のところで営むのならば奴隷という条件は必須だ。
何せ色々と秘密が多くある。
「どうしましょうか。
当てがなければ病院そのものを……」
「お待ちください。
必ずという訳ではありませんが実は話があるのですよ」
フィットチーネさんからそう切り出されて説明されたのは、そもそも聖職者の絶対数が少ないこの国で探すのがいけないらしい。
お隣の聖アルマイト教国に買い付けに出られればいいのだが、アルマイト教国は国名に教国とあるように、聖職者が国家を運営している関係上、神官職の多くがこの国にいるので、当然犯罪に手を染めるような神官もそれなりに出るらしい。
そうなると奴隷市場に神官職も多く出るかというとそうもいかず、あの国ではそもそも奴隷制度そのものが無い。
奴隷の所有や売買などは違法とはされていないが、国で整備されていないために奴隷市場が成立しないので、仕入れに向かう奴隷商はいても、あの国で商売をしている奴隷商は見たことが無いらしい。
それに何より、ここからだと国を挟んで反対側にあるらしく、あまりこの国と仲が良くないので出入りに厳しい規制があるとか。
「私が直接そのアルマイト教国に買い出しにでも行けばいいのですか」
「いえいえ、そうではなく比較的アルマイト教国と仲の良いカッパー商業連合が海を挟んでお隣にあるのです。
ここはそのアルマイト教国とも上手にお付き合いをしているようで、それなりの数の聖職者が活躍していると聞きました。
実は私がカッパー商業連合に買い出しに行くことになっているのですが、レイ様もご一緒しませんか」
フィットチーネさんの説明ではアルマイト教国の犯罪奴隷の一部が海を挟んでお隣のカッパー商業連合に送られているとかで、カッパー商業連合にはそれなりの犯罪奴隷の聖職者もいるらしい。
それに、アルマイト教国とカッパー商業連合とは商売も盛んらしくて、犯罪奴隷でなくとも多くの神官職が移住しており、当然人数が増えれば借金奴隷も多少はでる。
フィットチーネさんは、その売られている奴隷たちを買い付けに俺もどうかと誘ってきたのだ。
フィットチーネさんとしては借金奴隷しか買うつもりがなさそうなのだが、俺には力強い先生がいる。
そもそもこの国の司法制度があまりに酷い。
冤罪なんか、何それって感じだし、当然冤罪で犯罪奴隷落ちしている連中も多くいる。
現に俺の護衛としていつもそばにいるダーナなんかは冤罪で犯罪奴隷落ちしていたのだ。
俺は、フィットチーネさんの誘いに乗って一緒にカッパー商業連合に買い付けに行くことにした。
ここモリブデンは港町であるために、ここから船に乗れる。
モリブデンから快速船ならばカッパー商業連合の一番近い港町まではそれこそ二日あれば着けるという話で、下手をしなくとも時間的には王都よりも近いと説明された。
出発は、船待ちらしくいつになるかは未定だそうだが、そう時間はかからないと言われた。
前にあったことのある外国の奴隷商と一緒に向かうことになるらしく、彼の船を待っているとも言われたので、俺は一度店に戻り皆にそのあたりについて説明をしておいた。
俺と一緒にカッパー商業連合に向かうのはいつものごとくダーナとナーシャの二人になる。
初の海外買い物ツアーに招待されてしまった。
これは俺にとって申し分ない提案だったので、その場で快諾をしたかったのだが、俺にはすでに王都とモリブデンに店を構えてしまっており、長らくは海外に行くわけにもいかない。
飛行機でもあればそれこそ一週間程度の海外ツアーもありなのだが、国内移動ですら余裕で半月は要してしまうくらいなのだ。
海外なんか日程的にも難しいかな。
「レイさんが何を心配しているかは存じておりませんが、少なくとも日程的には問題ないかと思いますよ」
「フィットチーネさん、それはどういうことで」
「ここからですと直接船で向かいますので、二日、時間がかかったとしても三日もあればカッパー商業連合の一番近い港に着くことができます。
私は、そこだけしか行くつもりもありませんし、王都に往復するよりも短い時間で済みますよ。
私も長らくはここを離れる訳にもいきませんが、何度も行ってますしね」
「それでしたら、お願いします」
そこからカッパー商業連合に行くための打ち合わせが始まった。
何を準備しないといけないかなど。
パスポートなど持っていないからちょっとばかり心配したけど、別に身分証明などはギルド発行のものだけで充分らしいが、今回は何度もカッパー商業連合と取引のある商人が保証してくれる格好になるので、まず問題は無いらしい。
当然パスポートが無いからビザも必要がないが、そうなるとこの世界ではどうなるのだろう。
商売だけでなく政治的にも外国との関係に少しばかり興味が出たので聞いてみると、商売に関しては主に商業ギルドで面倒ごとを扱ってくれるらしく、それでも手数料がバカ高いので、ほとんどの人は自分で解決するのがこの辺りのスタンダードだと教えてくれた。
フィットチーネさんはそのあと声を潜めて、自分は使う必要が無かったので問題は無いがとわざわざ断ったうえで教えてくれた。
最終的には力業で問題は解決されるらしい。
この力業とは金銭や政治的なものよりも、本当の意味での力業らしい。
なんと、それなりの人に襲われるとか。
相手も、当然警戒しているので返り討ちにあったりもするから、なんとバイオレンスな世界だ。
とにかく自分の身は自分で守るが基本らしい。
特に大金を扱う商人なんかは、力の源泉である金を使ってでも気を付けるものだと教えてもらった。
だからこそ人の繋がりを大切にするものらしい。
もともと小市民の日本人ならば絆という言葉を大切にするメンタルがあるので、物騒な理由がなくとも恩を大事にしていくものだと思っているので、そのままでも大丈夫のようだ。
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